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2016.08.20

#面白法人カヤック社長日記 No.14
起業家に必要なのは、強い意志か、気軽な思いつきか

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原体験重視型起業家と着眼点重視型起業家の強みと弱み

先日、とある若い起業家が、自分の思いついた事業アイデアを楽しそうに語っていました。なかなか突飛なアイデアであり、実現したら面白そうだな、と個人的には思いました。ただ一方で、その事業は、領域的には社会福祉関連に属するので、思いつきだけで参入するにはためらわれる業界です。志を持って取り組んでいる人には、もしかしたら反発を受けるかもしれないと感じ、少し心配になりました。そこに深い思いがあるのか、単なる思いつきなのかは、なんとなく伝わるもので、真剣に取り組んでいて、業界の難しさをわかっている人にとっては、思いつきだけの人はどうしても軽薄に感じてしまうものです。・・・そんなことを、その若い起業家の話を聞いていて感じたのですが、一方で、「まてよ」とも思いました。実はその軽薄さこそが、時に起業家としての突破口になることもあるのではないかと思い直しました。

その理由を説明する前に、起業家を2つのタイプに分けてみます。

1つ目のタイプは、「何かを変革しなければならない」、そう思うように至った強烈な原体験がある人です。たとえば、幼少期に受けた理不尽な体験や、旅先での経験などです。そういった原体験を通して、課題が浮き彫りになり、その課題に取り組むことが、自分の原動力となっている起業家です。事業のセンスがそれほどなかったとしても、そういう原体験を大切にする才能があるのでいろいろありながらも起業家として成功します。

2つ目のタイプは、強烈な原体験はないものの、他の人には気がつかないような着眼点を持つ才能がある起業家です。社会に何かを変革するのですから、今までにない視点がなければなりません。その才能があるからこそ、起業家としても成功します。

この2つのタイプにどういう違いがあるか。それを考えていくと、前者の原体験重視型は、非常に意志が強いのが強みです。しつこくやり続けることができます。もともと何かを変革するには様々な困難が伴うので、最終的には意志の勝負になります。困難にも負けない強い意志をどれだけ持てるかは原体験の強さになります。投資家が起業家の原体験を判断材料の1つにすると言われますが、それはこういった理由からです。ただ、一方で、仮に原体験から導き出される課題が、特定分野に偏り、その影響で事業領域が狭くなったり、強烈な原体験があるが故にしなやかさに欠けやすいとも考えられます。事業は失敗の連続なので、あまり固執せず、時にピボットすることも大事なのですが、そこがどちらかというと苦手な傾向がでやすいと言えます。つまり、このタイプの起業家は、強い意志を持つことは得意なのですから、柔軟さとしなやかさを身に着けるよう常に意識しておくというのがよいのだろうと思います。

後者の着眼点重視型の起業家は、発想が自由で、新しいマーケットが立ち上がるといち早く参入したり、そもそも市場がないところに市場をつくったり、思いついたりすることが得意です。反面で、思いつきや着眼点が良くても強い意志がないこともあり、忍耐強さがない傾向にあります。前者の起業家タイプに比べ、失敗を多く経験するため、ピボットの決断を下す機会も多くなるのだろうと思います。つまり、このタイプの起業家は、飽きっぽいのが弱点ですから、しつこくやり続けることを意識するか、あるいは生み出した事業の種は他の人に譲って自分はまた種探しに専念するというのがよいのだろうと思います。

「知らぬが仏」が、時に突破口になる

・・・と、このように2つのタイプにわけてみましたが、僕はどちらかというと後者の着眼点重視型タイプだと思っています。何か強烈な原体験があるわけではないので、強い思いがある人に比べると意志が弱い。でも一方で思いつくから行動にでる。そういうサイクルが回っています。つまり、思いつきこそが原動力になっています。そして、件の若手起業家も同じタイプといえます。このタイプの起業家は、時に「軽薄さ」を印象を与えてしまうことがあります。でも、その気軽な思いつきで突き進められることが、その起業家の強みです。その業界に対する思いが強かったり、どっぷりとその業界の常識に染まっていると、かえって足踏みしてしまうケースも多いのですが、軽薄であるが故に最初の1歩を踏み出せ、それがイノベーションの突破口になることもあると思います。

具体的な事例を紹介します。カヤックが2005年に立ち上げたART-Meterという絵画の販売サイトは、画廊ビジネス関係者に相談したところ、大半の方に反対されました。絵の保管方法、絵の売り方、どれも既存のビジネスではありえないと。当時はどうして反対されているのか分かりませんでしたが、今となってはその業界のことも多少なりとも知見を積んだため、指摘されたことが理解できます。画廊の方々からしてみれば、軽薄に見えたのではないかと思います。それでも立ち上げてみたところ、今までにない価値のやりとりや、交換が行われる市場を提供できたことで、画家や絵を買いたい方、たくさんの方に喜んでいただくことができました。ちなみに、思いつきだったとはいえ、このビジネスを始めるときに1年間は絵が1枚も売れなくても、続けようという覚悟をもって立ち上げた記憶があります。実際にオープン後すぐに売れるようにはなったのですが、最初数年間は赤字でした。ただ、今となっては、この業界をよく知っていたら、こんなビジネスは立ち上げなかったのではないかとも思います・・・

「知らぬが仏」。
未知であるがゆえに蛮勇をふるうことが、時には、新たな突破口を開くことになる側面もあるのだと思います。それは、よく言えば世界を単純化してみることができる能力、悪くいえば軽薄さということなのかもしれません。

そのように考えると、僕が冒頭で紹介した若者に対して心配に感じたことは、別の見方をすれば、それは僕が常識を身に着けたということなのでしょう。であれば、僕が彼に感じた心配は必ずしも、正しくない。最初は思いつきからくる多少の軽薄さがあったとしても、そこで止めないほうが彼の1歩は確実に踏み出され、その後、彼がしっかりとその事業に対峙していけば、きっとそこには厚みが出てくるはずです。結局のところ、上記で書いた2つのタイプの起業家は、どちらのタイプであっても事業に真摯に向き合っていれば、行きつくところは一緒なのかもしれません。以上が、その若者から感じたことを通しての振り返りです。

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