新卒クリエイター×ChatGPTが生んだ1000万DL「Kissing Now」ヒットの軌跡 | 面白法人カヤック

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2025.07.02

#クリエイターズインタビュー No.91
新卒クリエイター×ChatGPTが生んだ1000万DL「Kissing Now」ヒットの軌跡

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1000万ダウンロードを記録した話題のハイパーカジュアルゲーム「Kissing Now」。この異色のヒット作を生み出したのは、なんと当時新卒1年目の若きゲームクリエイター。
彼が選んだのは、好きなものから逃げないこと。支え合うチーム、突破の発想、そして「嫌なことから逃げ続けてきた」という人生との向き合い方。ハイパーカジュアルゲームの最前線を走る若きクリエイター・郭子靖(かく しせい)の素顔と、ヒットの舞台裏をたどる。

郭子靖

面白法人カヤック ゲーム事業部/ディレクター
聖地巡礼ガチ勢です。

新卒1年目で1,000万DL達成 ヒットの鍵は「人体モチーフ」

ー新卒1年目で1,000万DLという大台を達成するゲームを誕生させた、率直なお気持ちをお聞かせいただけますか。

正直に言うと、アメリカのAndroid無料ゲームランキングで16位になった時はめちゃくちゃ嬉しかったですね。
運もあるし、手伝ってくれた方のおかげもある。その結果がこの達成だと思います。でも、今はちょっと冷静に客観視している部分があります。ダウンロード数はすごくても、収益面での貢献がまだまだだなって思ってます。

ー今回、記録を達成した「Kissing Now」はどのようなゲームか改めて教えてください。

「キス」という行為をさせることを目標にするゲームで、そこから何でもくっついて広がっていきます。ひとつひとつのシチュエーションに何らかの目標があって、達成すればクリアです。

  • 「Kissing Now」構想時の手書きのスケッチ
  • 実際のゲーム画面

ーユニークなアイデアはどのように生まれるのでしょうか。

様々な大ヒットゲームを作った元カヤックのプロデューサー村上さんが出していた「モチーフランキング」で、「一番強いものは人体と銃」と知ったんです。それで、人体のゲームを作ろうと思いました。
人体をテーマにすることの面白さは、自分の操作で人体に予想外の変化が起きるとそれが「異常だ」と気づきやすいところ。人体は、人間ならみんな自分で認識できるからです。Charge FistRagdoll Breakなど、とっくに2~3,000万、1億DLまで行っている大ヒット作も、この部分を利用していると思います。
それで、「Kissing Now」を作ろうと思ったんです。

好きなことを選び続けて、逃げた先にあった天職

ーゲームとの出会いは、いつ頃でしたか?

小学校1年生の頃、本格的にゲームというものを認識しました。おじさんがパソコンで「ウォークラフト」をやっていて、プレイさせてもらって。全然できないけど「面白い」と感じて、そこからです。

数学専攻でアメリカの大学へ入ったのですが、2年間学んでみて結局「数学が好きじゃないな」と思って。「好きなものを専攻にしたい」「何が好きなんだろう」と考えた時に「ゲームが好きだ」と思って、ゲーム専攻に移りました。授業は自然に「ゲームを作る」という前提で進むので「作るのも楽しい」と感じ始めました。

ーアメリカの大学に進学されたのは、どのような流れだったのでしょうか。

僕は自分が好きじゃないものからずっと逃げてるんです(笑)。
中国の高校に入ったけど、中国の大学統一試験はめちゃくちゃ厳しい競争があって。当時は成績ギリギリで、あまり選択肢もなかった。勉強しようと思ってもやる気が出なくて「海外に行こう」と思いました。親も同じ考えで「国内で普通の大学に行ってもあんまり勉強にならない」と。それで、アメリカに行きました。

ーその後、日本で修士まで進まれたことに関しては理由があるのでしょうか。

アメリカに行く前は、ただ漠然と海外の生活に憧れを持っていました。でも、何も知らずに飛び込んでみると、生活リズムや文化の違いに戸惑って「自分には合わないかも」と感じたんです。
それで、アメリカ以外でゲームに強い国といえば、ヨーロッパか日本かなと思って、大学2年生の時に「日本で挑戦してみよう」と目標を決めました。

そのあと、カヤックに友人のさんが入社していたこともあり、会社説明会に参加してみたら、「なんだこの面白い会社!」と惹かれて、迷わず入社を決めました。

広告から逆算してゲームをつくる大切さ

ー入社後すぐにつくった1作目、2作目は思うようにいかなかったとのことですが、どのような点が課題だったと感じますか?

1作目で作った「Fanning Master」というゲームは、リボルバーの弾を装填して敵を撃つというものです。
銃と人体という強いモチーフでしたが、それをただ入れただけで、全然活かせていなかったですね。銃は撃つのが面白い。人体は変化が面白い。そこに気づけていなかったと思います。

  • 1作目の「Fanning Master」は正式リリースにならず...

ー「ゲーム性」よりも「広告インパクト」が重要という気づきもあったと伺いました。どんなきっかけで得たものだったのでしょうか?

先輩たちからずっと「広告がどれだけ大事か」を聞いていましたが、自分でやってみてやっとわかりました。
どう目を引くゲームを作るのか、やっぱり実際に作らないとわからない。意識していかないといけないんだなぁっていうのは、ずっと頭にあったっていう感じです。

ー「シチュエーションを増やして遊び続けられる」という設計は、当初から想定していたのでしょうか。

「Kissing Now」も、最初に「どういう広告を作りたいか?」を前提にして、シチュエーションのアイディアを添えて企画を立てました。
最初は男女1人ずつで、次は「どういうシチュエーションでキスするのが面白いか」、続いて「どういうものがキスすると面白いか」、そして「どういうものが繋がっていると面白いか」と考えていきました。
充電器にコンセントを差し込んだり、サボテンと風船はキスしたら爆発する、とか。「こういうのはダメだろう」みたいな感じで進んでいきました。

コードが書けなくても実現 AI時代のゲーム開発者として感じたこと

ープログラミングもほぼご自身で行われたと伺いました。ChatGPTを使ってみようと思ったのは、どんなことがきっかけだったのでしょうか。

Charge Fist』(パンチアクションゲーム)のレベル作りに携わる機会があって、僕はエンジニアではないし、プログラミングの知識はそんなにないけど、GPTを使うことでレベル作りができたという経験がありました。
「Kissing Now」は、2億ダウンロードを超える「Ball Run 2048」にも参加したすご腕のプログラマー、平山さんがメインの実装を担当してくれました。とても忙しい方ですが、新人を育てようとしてくれる優しい方で、周りのものは用意してくれて。その後はできる限り自分でやろう、GPTで作った経験を元に、レベルの中の実装していった感じです。

ストレス発散にもなると人気の『Charge Fist』

ーChatGPTを開発に活かすうえで、どんな工夫や困難がありましたか?

最初はほぼゼロ知識で、GPTに言われることしか分からなかったので、実現したいことをGPTに指示しても、次にどうすれば良いのか分からないのが難しかったです。エンジニアに迷惑かけてしまったこともあったかもしれません。
GPTのコードは丁寧に書かれていなくて、エンジニアの要求を満たしていないことが多いんです。レベル制作でも、コード修正でエンジニアに苦労をかけた場面がありました。ここはGPTを使用する上での難しいところだと思います。けれど効率はとても良いので、たとえ使えないコードでもエンジニアに相談して、実現したいものを一緒に作っていくこともありました。

心から感謝できる「人と環境」に恵まれた

ー改めて、郭さんにとって平山さんはどのような存在でしょうか。

本当にすごい方で、とんでもない技術力を持っているんです。企画職として腕を試すには、実力のある実装者と組むのが一番だとよく言われますが、平山さんは「そういうことがあれば、どんどん自分に企画を投げてほしい」と言ってくれました。

最初に作った「Fanning Master」も、平山さんに実装してもらいました。「Kissing Now」のときもお願いしたんですが、なんと2〜3日で実装が完了して、すぐに市場テストまで行うことができました。とにかく対応が早くて驚きましたね。
こちらから遠慮なく頼めたのも、「企画はどんどん投げていい」という空気を平山さんが作ってくれていたからです。平山さんがいなければ、ここまで作品を出せなかったと思いますし、技術的にも精神的にも、本当に頼りになる存在です。心から感謝しています。

ーカヤックで働く楽しさ、環境についてどのように感じていますか?

事業部の皆さんは、本当に優しい方ばかりなんです。こういう環境じゃないと、たくさんのゲームを試して、その中の1~2本だけが世に出る、そんなハイパーカジュアルゲームづくりは、なかなか続けられないと思います。
みんな自分が作りたいものがあって、それをどんどん作って、失敗しても作って、お互いの作品にコメントし合ったり、未経験で入ってきたメンバーのサポートも自然とやってくれたりする。そういう挑戦を受け入れてくれるカヤックの環境だったからこそ、ヒットが生まれるゲームができたと思っています。

「楽しく生きる」がクリエイティブの土台になる

ー今回の成功を経て、これからどのような作品を作っていきたいですか?

テーマについてはたくさんアイデアがあって、何でも作りたい気持ちでやっています。今作っている作品はダッシュゲームで、列車になってダッシュしてアイテムを集めて強化し、もっとダッシュするというものです。
大好きなゲームジャンルはボードゲームなのですが、ボードゲームはハイカジの正反対。ハイカジは誰でも遊べるゲームですが、ボードゲームは場所や相手、ルール、時間、セットアップなどが必要で、入口のハードルが最も高いゲームだと思います。今は好きなものと正反対のものを作っていますが、実はこだわりはなくて。ゲームを作ることができれば、それだけで楽しいんです。

ー同じようにゲーム業界を目指す若い人に伝えたいことがあれば、ぜひ教えてください。

自分の経験や、社内のすごい人の話を聞いて思うのは、みんな共通して「人として面白い」ということ。自分の中に面白いものがあるから、面白いものが作れるんだと思います。
なので、ゲームをつくりたいと思っている人に伝えたいのは「楽しく生きることが1番大事」ということです。ゲーム業界に入るにしても、もちろん興味は大事ですが、何よりも人生を楽しむことが1番。楽しめば自分の面白さが出てきて、より面白いものが作れるようになると思います。

(取材・文 川島由美子 / 編集 梶陽子)

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