2026.09.02
#クリエイターズインタビュー No.106「YouTube Works Awards Japan 2026」W受賞クリエイターの企画メソッド
サントリー「からだを想うオールフリー」のWebCM「深夜ラーメンの誘惑」と、アース製薬「らくハピ マッハ泡バブルーン 洗面台の排水管」のショート動画シリーズ。カヤックが企画・制作を手がけたこの2作品が、Google主催「YouTube Works Awards Japan 2026」でダブル受賞を果たした。前者は店頭での売上貢献を評価するBest Offline Sales Lift部門、後者は生活者の行動変容を評価するBest Engagement & Action部門での受賞だ。
突き詰めた企画づくりを武器に、カヤックが得意とする話題化はもちろん、売上や行動変容に繋がることに喜びを感じるという、2作品を手がけたディレクター/プランナーの乗松優多が、そのクリエイティブプロセスを語ります。

乗松 優多
面白プロデュース事業部・企画部/プランナー・ディレクター
化学を学んでいたが、新卒で面白法人カヤックに入社。「SNSでの話題化」を起点とした企画づくりが得意。ねこと自然を愛す。
「深夜ラーメンの誘惑」に込めた仕掛け
―この度は受賞おめでとうございます。2作品同時受賞という快挙、どのように感じられましたか?
ありがとうございます。まず「まさか、2つ同時受賞できるなんて」っていう純粋な驚きがありました。あと、どちらも店頭やオンラインでの販売数に繋がり「売上に貢献できた」という点を評価されたことがすごく嬉しかったです。
―「深夜ラーメンの誘惑」では、どのように「深夜にラーメンを食べよう」という企画趣旨へ至ったのでしょうか。
内臓脂肪に着目したノンアルコールビールテイスト飲料「からだを想うオールフリー」との相性が良い、かつ、「『からだを想うオールフリー』があれば、食事をもっと気兼ねなく楽しめる」という価値をより深く訴求できると考え「深夜ラーメン」をテーマにしました。
「深夜ラーメン」って背徳感がある。でも「からだを想うオールフリー」があればそんな時間を前向きに、後押しできるんじゃないかって。

―企画の最大の見所のひとつが、声優・山寺宏一さんが1人でたくさんの声を演じた点かと思います。このアイデアはどのように生まれたのでしょうか?
まず「『からだを想うオールフリー』を飲みながら深夜ラーメンを食べる」というシーンを、実写をも超えるシズル感あふれるアニメーションで描くのはありだなとは思っていました。
その上で、「深夜ラーメンと『からだを想うオールフリー』、いいじゃん」って思ってもらい、実際の飲食に繋げるには、シーンの深い視聴を促す必要がある。だから、映像内に登場する26種類の擬音すべてを声優の山寺宏一さんの声で再現し、かつそれを動画冒頭で伝えることで、映像を前のめりに観てもらうようにしました。あと、動画の最後に山寺宏一さんが演じた擬音の一覧をエンドロールに入れ、「え?そんな音あったっけ?」と繰り返し何度も観てしまう設計にもしました。
この、前のめりに何度も繰り返し観てしまう仕掛けが、実際の飲食に繋がるほどの深い視聴を生んだと思っています。

このエンドロールの見せ方は、クリエイティブディレクターの安藤さん(師匠です)によるディレクションがあってのものでしたが、色々な見せ方を模索する中で、「山寺さんが全部やった」という最も面白いポイントを際立たせる表現にできたなと思っています。スクショをして誰かに言いたくなる絵の強さがあるのもポイントなんです。
―このような面白いアイデアを思いつくのは、どのような瞬間ですか?
割と1人で考えることが多くて。深夜ラーメンの山寺さんのアイデアも、どうやって沸いて出たのかもあんまり覚えてないんですけど(笑)。日頃から色々な表現を集めたりはしています。
例えばテレビとかSNS、日常の生活で、自分が「面白い」と思ったものや、世の中が「面白い」と思ったものをひたすら集めていくメモ帳みたいなものを作っています。
それを分析しつつ見返したり、今回の商品の目的から表現をストレートに考えたり、色々なところを行ったり来たりして、脳の中で何かがくっついて出てくるんだと思います。
6本の「バブルーン」動画に仕込んだ「ずらしの法則」
―「バブルーン」では、かなりの本数のショート動画を違うフォーマットで作っていくという大変な作業を行われていました。複数フォーマットで実施という設計は、どのように決定されたのでしょうか?
もともと、コンペから始まったんです。本数なども特に決まっておらず「この予算で動画を作って欲しいです」というもので、媒体はYouTubeが良さそうというのはオリエン時に話にあがっていました。
YouTubeってとにかく色々な文脈があるんですよね。お掃除グッズ紹介とか、飯テロ、ASMR、スポーツのハイライトなど。なので「1つの動画を作って出すだけで話題になるのは結構難しいな」と感じていました。それ含め、社内メンバーとも色々話して「1つだけじゃなくて、様々な文脈に沿って何本か動画を作って、話題になる確率を上げていきましょう」と提案し、最終的に「6本の動画を作る」という形に決まりました。
―確かに「YouTubeといえばコレ」と代表するような動画ジャンルが網羅されていますね。それぞれのアイデアもネタ帳をはじめ、ご自身で浮かんできたものなのでしょうか。
そうですね。とりあえず最初に、「めちゃくちゃYouTube shortsを観る」ということをしました。
YouTube上で既にある文脈の中で動画を作った方が、より受け入れられてもらえるかなと。
なので、まず文脈を抑えることが大事だと思い、とにかく毎日YouTube shortsを観ましたね。300本以上は観たと思います。その上で、より話題化させるためには今までと全く同じ動画を作っても面白いと思ってもらえない。何かしら要素を足したり引いたりする、ということをして「違和感をつくることで、話題になる動画を作ろう」と考えました。
例えば「ゴリマッチョによる洗面台のお掃除ASMR」は、ASMRという元々ある文脈に対して「誰がやるか」を少しずらして「ゴリマッチョによる」としました。
あと「79歳のおじいちゃんによるお掃除グッズ紹介」は、元々ある「お掃除グッズ紹介」を、あえて素人感満載の、もはや何を言っているかわからないおじいちゃんがナレーションをする…という、いつもと違う要素を入れています。実はこのおじいちゃんは、僕の本当の祖父です(笑)。

―王道の文脈に要素を足したり引いたりして「違和感をつくる」というのは、ご自身の中である意味、ひとつの手法として確立されているのでしょうか。
はい、企画の考え方のひとつとしてあると思います。中でもYouTubeは、割と決まった文脈があるので、それをどう「ずらす」かを考えることが多いですね。「ずらして違和感を作る」のは、X(旧Twitter)をはじめ、他の媒体でも通ずることだと思います。
―商品の訴求と話題化を同時に追求するバランスは、どのように取られているのでしょうか。
商品やサービスを訴求する広告であれば、まず「誰に何を伝えるか」をちゃんと考え抜きます。ただ「表現」が面白くても、伝えたい人に伝わらないと意味がないので。当たり前かもしれませんが、一番大事にしていますね。
逆に、「表現」でどれだけ面白くするかは無数に方法があるので、そこは後から考えれば良いって思っています。
「誰に何を伝えるか」を突き詰める、企画の土台をつくるインタビュー術

―「誰に何を伝えるか」を考えるために、どのようなことをしていますか?
最近はターゲットになり得る同僚や友人に「生活者インタビュー」をやっているんです。その商品やサービスについて何を思っているのか、なぜ利用しているのか、他の競合商品に対する不満はあるかなど色々なことを深掘ります。不満を聞くのは必ずやっていますね。もし競合への不満があって、今回広告させていただく商品にその不満を解消できる価値があれば、スイッチする明確な理由になるので。
実際に利用している生活者の人たちが何を思っているか、ここを深掘れば深掘るほど、その商品の訴求方法も見えてきますし、何より認識や行動変容につながる広告になりますからね。
もちろん、クライアントさんの方で事前にマーケティングして、情報をたくさん持っている場合もあるので、そこもしっかり聞きます。オリエンの時に「こういう調査結果があり、こういうことを伝えたい」というのが具体的にある場合は、そこへ乗っかることが多いです。
それでも同僚や友人など、フラットで聞きやすい関係性の中で、僕自身が聞いた本音に近い意見と比べたりもします。
―企画を立てる上で、1番大変だなと感じる点はどこでしょうか。
やっぱり「何を伝えるかを、どう設定するか」が1番難しいですね。
インタビューで聞いている意見は少数ではあるし、それを伝えたいことに設定した時、本当に多くの生活者に共感されるのかっていう不安はあります。
だから、他の人に話して聞いてみたり、実際にSNSで調べて「こういうこと言ってる人はいるのかな、そこに共感されているかな」などもチェックしていますが、それでも一部の意見には変わりないので検証は難しいです。
表現についても、色々やり方があるから「どれが最適なんだろう」「もっと良いものがあるんじゃないか」と…色々と探し求めてしまいますね。
―逆に、面白さを感じる点はありますか?
今お話したことは、逆に面白い部分でもありますね。インタビューでは、純粋に自分が知らない価値観や考えに触れて、「あ、そうなんだ」という発見があるんです。
あと、それをどう表現するかという企画を考えるのは、普通に面白いです(笑)。
自分が面白いと思うものと、世の中の人も含めて「面白い」と思うものの共通点や差を考える、というプロセス自体が面白いと感じています。
「客観的な面白さ」と「自分のテンション」という、2つのものさし
―最終的な企画にするまで、すごくたくさんの数のアイデアを考え、出していかれると思いますが、絞り込む作業のポイントはありますか?
企画に関しても、僕はとりあえず人に聞きまくります。
自分が「絶対これ面白い」って思っていたとしても、例えば後輩や先輩が「面白くない」ってなったら、それは自分だけが面白いと思ってるだけなので、世の中の人にも受け入れられないだろうな、と判断します。だから、色々な人に聞くことで、客観的な面白さを理解して、アイデアをチューニングしていくことが多いですね。
―インタビューもそうですけどマーケティング視点があるのは、元々の性格なのでしょうか?
割と「あの人何考えてるんだろう」など想像を膨らませるのは、昔から結構好きですね。普通に歩いている人や、例えば居酒屋で隣に座ったカップルとかをみて思考を巡らせるのは、元々好きでした。
今に繋がっているのかは全くわからないですけど、そういう特性は昔からありますね。
―「すごくいいものができた、いい企画だ」と感じるのは、どのような瞬間でしょうか。
自分自身がすごくテンションが上がる時ですね。最近は、「いいものができた」とテンションが上がった企画が、他の人からも「面白いね」と言ってもらえることが多くなってきたので、自分の感覚がちゃんと世の中に合ってきてるのかなと思っています。
―受賞された作品も含め、動画というコンテンツならではの面白さは、どのようなところに感じますか?
語られる仕掛けをたくさん詰め込めるのは面白いですね。個人的に、今の時代は語られる広告が良い広告のひとつでもあると思っているのもあり。あと、表現方法が無限大なところも考え応えがあって面白いです。
―動画を撮る時には、ご自身でも「ここはもっとこうしたい」と、細かく指示するんでしょうか?
する気がします。今回伝えたいことが本当に伝わるか、コアの面白さからズレていないか、はしっかり見ます。
そこの感覚は、僕の師匠にあたる安藤さんから徹底的に吸収させていただきました。それ以外もですが笑
で、そこを押さえた上で、表現だったり演出などは監督と一緒に考えたりもしますね。自分一人よりも色々な人の観点があった方が面白いものになるので。
話題化のその先へ。これから挑みたい「行動変容」

―継続して話題になる企画を生み出す上で、何か心がけていることはありますか?
世の中にある「面白い」をストックして分析することですね。
SNSだけでなく、映画や漫画、テレビ、道端にあるもの、家族との会話など、自分が面白いと思ったもの、世の中の人が面白いと思ったものをストックして何が面白いのかを言語化しています。
「面白い」の作り方を脳の中で溜めていく感じです。
あと動画をつくる時は、見た人がこのシーンを見てどう語るかという点から逆算して、色々なところに発話したくなる仕掛けを散りばめています。
―今後、ご自身で「こういった企画があったら是非チャレンジしたい」と考えているものはありますか?
企画を考えることそのものが面白いので、どんなものでも「面白いな」と思う前提でありつつ…
興味があるのは、ただ話題化するだけじゃなくて、例えば「人の考えが変わる」「実際に店舗に買いに行く」など、行動・認識の変容に繋がる企画をもっとやりたいです。
あと、生活者のインサイトを見つけ、商品や商材の伝えたいことをクライアントさんと一緒に考える。というさらに上流から関わらせていただけたら、もっと面白くなると思いました。
(取材・文 川島由美子/ 編集 梶陽子 / 写真 岩瀬茂樹)
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