2026.05.15
#クリエイターズインタビュー No.102「気づいたら1000万ダウンロード」ー バトンでつないだゲーム開発のプロセスとは
2024年にリリースされた「elastic playground(イラスティック・プレイグラウンド)」。開発の途中で担当者が交代し、異なるエンジニアの手によって改善が重ねられるという、少し特殊なプロセスを経て成長してきたタイトルです。バトンを引き継ぐ形で開発が進む中で、このゲームは1000万ダウンロードを突破しました。
なぜこのゲームは伸びたのか。そして、引き継ぎという選択がなぜ結果につながったのか。「ホッとした」という実感と、「思ったほど何でもないな」という冷静な視点。1000万ダウンロードを経た今だからこそ見えてきた「ものづくりの価値」について、企画者として0→1の開発を担ったブラウンと、バトンを受け取り半年にわたって改善を重ねた要名本、2人のエンジニアに話を伺いました。
(写真、向かって左から、ブラウン、要名本義朋)「彼しかいない」── バトンが渡るまでの舞台裏
― 1000万ダウンロード達成おめでとうございます!今の率直な感想を教えてください
要名本
実装を終えてから4ヶ月ほど経ったタイミングだったので、「気がついたらそこまで到達していた」というのが正直なところです。ただ、改善している間ずっと「1000万は行きたいな」という気持ちはあったので、ちょっとホッとしましたね。「そこまでは行けたな」って。
ブラウン
僕は正直、何も思わなかったですね(笑)。すごいことなのはわかるんですが、「意外と何でもないんだな、1000万って」という感じで。「こんなものなんだな」というのが、率直な感想です。
― 1000万ダウンロードに向かう道のりで、「ここが転換点だった」と思う出来事はありますか?
要名本
やはり1番は、ブラウンさんが僕に「イラスティック・プレイグラウンド」(以下、イラスティック)を任せてくれたことが大きいですね。もともとブラウンさんが0から企画、開発してたものを、その後、ブラウンさんが別のチームに異動することになって、続きを僕が引き継いで改善していったんです。
― 引き継ぐ方が要名本さんに決まるまで、どのような経緯があったのでしょうか?
ブラウン
ゲーム事業の体制が大きく変わるタイミングで「ハイパーカジュアルゲームとは別の軸でヒットを狙う、新チームに入ってくれないか」という相談を受けました。カレンダーに突然「お時間ください」と入っていて、「怒られるのかな」と思ったら(笑)、新チームへの話だったんです。
僕としては「イラスティック」の改善を続けたい気持ちもありましたが、異動を承諾しました。ただ、改善途中のゲームを誰かに引き継ぐ必要があって、僕から事業部長に「ジョナサン(要名本)が良いです」とお願いしたんです。
― 要名本さんは、引き継いだ時どんな心境でしたか?
要名本
プレッシャーはすごかったですね。自分で出したゲームなら比較的のびのびと改善できるんですが、ブラウンさんが企画して作ったゲームを引き継ぐ形だったので、「ちゃんと伸ばさないと申し訳が立たない」という気持ちがありました。でも、アクション性や手触りが重要なゲームには自信があったので、不安ながらも「やってやる」という気持ちもあって。頼ってくれたのが嬉しかったというのも、正直ありましたね。
― 引き継ぎ先を要名本さんに決めた理由は何でしたか?
ブラウン
理由は大きく2つあります。1つは、本人も言っていた通り、要名本さんがすでにローンチしていたゲームに、今回のゲームと似たゴムっぽい挙動があって、技術的に適任だろうと思ったこと。もう1つは、若手ながらユニットリーダーを任されていて、将来性があると感じていたので、そういう人にお願いしたかったんです。うまくいかなかったとしても、面白い経験になってくれたらいいなと思って渡しました。
要名本
理由を改めて聞くと、なんか、ちょっとこっぱずかしいですね(笑)。ブラウンさんを本当にすごいエンジニアだと思って尊敬しているので、「期待に応えられるようになりたい」と必死でした。
「大きな荷物を渡してしまった」── 完成直前のバトンを引き継ぐ重さ
― 引き継いだ時点で、ゲームはどのような状態でしたか?
ブラウン
グローバルローンチ※のフェーズにはすでに入っていたので、社内の判断としては「もういける」という状態ではありましたね。
要名本
最初から広告の反応も含めてかなり勢いがあって、「これはいけるね」という状態でした。ただ、ゲームって「いけそう」と思ったあとに、グローバルローンチまでちゃんと伸びるかどうか、もう一段壁があるんですよ。引き継いだ時点では「ローンチはできる。その先、どれだけ伸ばせるか」というフェーズでした。
※限られた国でテスト配信しながら改善を重ねるソフトローンチを経て、広告予算を大きく増やしても問題ないと判断されたゲームのみ、全世界への広告配信に移行すること。
― それはプレッシャーですね。
要名本
そうなんです(笑)。「変なことしてローンチできませんでした」なんてことになったら、見てられないですから。
― そこからどう伸ばしていったのでしょうか?
要名本
ゲームの中身の改善と、広告の改善です。「イラスティック」はゲーム自体の中身でも一定プレイタイムが伸びたんですが、実際に手で触って遊ぶ「プレイアブル広告」を改善した時にもう一段跳ねたんです。それが1000万ダウンロードに到達するきっかけになったと思っています。
― ブラウンさんは引き継いだ後も様子を見ていたのでしょうか?
ブラウン
「大きな荷物を渡してしまった」という感覚はずっとありましたね。「好きにやってほしい」と引き継ぐときに言ったんですけど、それは嘘じゃないですが、元の企画者として完全に放置するわけにはいかないという思いもあって、たまに気にかけていました。
要名本
「お前そんなの入れても勝てるわけないじゃん」とか、そういうことは一切言われなかったですね。もしかしたら心の中では思ってたかもしれないけど(笑)。でも、僕も「負けるだろうな」と思いつつ、「物は試しで1回やろう」みたいな改善なども入れて挑戦してました。

ABテストに泣き、ブラウンさんに見せに行く
― うまくいかなかった時期はありましたか?
ブラウン
僕の頃はなかったんですよね。毎週マーケティング担当と話すんですが、「順調ですよ」「全然問題ないです」みたいな返事しか返ってこなくて(笑)。
要名本
確かに初期は何しても上がる状態でしたよね(笑)ただそれも、数ヶ月経った後に頭打ちになってきて。だからゲームの面白さを崩さず、機能改善を考えて「時間制限で敵をたくさん倒す」みたいなミッションモードを入れたんですが、これがABテストでも全然勝てなくて、泣く泣く外しました。自分が「面白い」と思って入れたアイデアでも、ユーザーのニーズに合ってないと外すしかない。大きな実装を外すのは、ちょっと落ち込みますね。
ただ、なくすだけだと悔しかったので、ブラウンさんに見せに行って「入れたかったんですよね~」って(笑)。
ブラウン そういえば、そんな話ししてたな(笑)。
要名本
それで「ぶっちゃけ、入れたかった機能ってありましたか?」と聞いたら、「敵のリアクションとか、ちょっと入れたかった」って教えてくれて。「敵同士がコミュニケーションして、それをゴムで引っ張っていたずらするみたいなものが面白そうだったな」って。
ブラウン
うん、言ったね。
要名本
それを聞いて「あ、それじゃん!」と思って。ステージに複数の敵がいる時に、1体倒したらもう1体が驚いたり、顔でリアクションを取ったりする実装を入れました。ユーザーが操作するだけで、ゲームの世界がちゃんと反応してくれる。それがあると飽きずに長く遊んでもらえると思って。これはブラウンさんと話してすぐ「入れよう」と思った実装の1つです。

「好きにやれ」── 信頼が解き放ったもの
― 引き継ぎの際、ブラウンさんから何か条件や希望は伝えましたか?
ブラウン
要望は1つだけ。「僕のことは一切気にせずに、好きにやれ」というのだけ伝えました。
― その言葉で、気持ちは変わりましたか?
要名本
だいぶありがたかったですね。「自分じゃないと思いつかないようなアイデアも積極的に試していこう」という気持ちになれました。ブラウンさんの考えで伸ばせたところもあるとは思うんですが、「好きなようにやっていいよ」と言ってもらえたからこそ、新しいアイデアをどんどん入れられたと思います。
― 要名本さんが、ブラウンさんのベースをいかしながら加えていった部分はどんなところでしたか?
要名本
半年間いろいろ手を加えたんですが、1番大きいのはゴムの挙動——手触りの部分の改善です。もともとは2つのオブジェクトをゴムで繋いで遊ぶゲームで、ゴールはラグドール人形をバラバラにすること。でも、自分で遊んでいる中で「少しずつ壊れていく過程も楽しめたほうが面白い」と思って、ダメージが加わった時に煙のエフェクトが出るようにしたり、プレイヤーが軽く触っただけでもリアクションが出る工夫を加えていきました。
ハイパーカジュアルゲームは「最初の数秒の手触りでポテンシャルが決まる」と思っているので、「点と点を結んでゴムにして、キャラを壊す」という一瞬の体感をいかに最大限楽しめるようにするか、ずっと考えながら改善していました。
― 引き継いだプロジェクトならではの学びもありましたか?
要名本
すごくありましたね。ブラウンさんのコードには、アニメーションを自動で入れる機能や、独自のABテストの仕組みなど、自分のやり方では実装していなかったものがたくさんあって。それを読み解きながら進めるのが、すごくいい経験になりました。1人だけでゲームを作っていたら絶対に得られなかった経験だと思います。
迷わないために、あえて一人で作る
― 「イラスティック」のゲームアイデアはどこからきたんですか?
ブラウン
とある漫画に、ゴムでもありつつ、モノにくっつきながら引き寄せ合う性質を持った技を使うキャラクターがいて。それを見て「ゲームにしたら面白いんじゃないか」と思って、その部分だけ切り出して突っ込んでみたんです。ゲームアイデアは、大体はそういうパターンが多いですね。エンタメに限らず、日常生活で目に入ったものの中で「絵が浮かぶ」ことがよくあって、それを具現化していく感じです。
― アイデアを形にする時、ブラウンさんのスタイルは?
ブラウン
基本的に、他の人の意見はあまりもらわずに作るんです。聞いてしまうと自分の中で迷子になってしまうので。ハイパーカジュアルゲームは1〜2週間で作るのが適切なペースなので、途中で他の人の意見を入れると、自分の中にあったビジョンがぼやけてしまう。迷う時間がかかるくらいなら、最初から誰にも聞かずに、迷いのない状態で作って結果を見るほうがいいんです。自分が迷っていない状態で出た結果は、くっきり受け止められますし、次につなげやすい。逆に、ぼやけた状態で結果が来ても分解しきれなくて、効率が悪いんですよね。
― 要名本さんのインスピレーションの源は?
要名本
子供のころに遊んでいた遊びをゲームにできないか、とよく考えますね。「イラスティック」を作っている時も、切れた輪ゴムを伸ばして遊んだりとか、タイミングよく手を離したら飛んでいくとか、今思うとくだらないんですけど、当時は楽しくてたまらなかった手遊びみたいなものを思い出しました。「楽しい」と思ったことって、大人になっても根っこに残っているものだと思うんです。そういう記憶と身の回りのおもちゃや遊びを組み合わせながら、ゲームの企画を考えることが多いです。
1000万ダウンロードの先で問い直した「何が価値なのか」
― この経験を通じて、お2人が得たものや気づいたことを聞かせてください。
ブラウン
「1000万ダウンロード」という結果を経験できたのは良かったと思っています。なぜかというと、「自分にとって1000万は、実は大して価値がないんだな」ということを知れたからです。達成したこと自体はすごいことだとは思いますが、自分の中では大した価値がなかった。だったら「自分にとっては何が価値あるのか」「これからものづくりの中で何を大事にしたいのか」を改めて整理するきっかけになりました。
「1000万ダウンロードされたから面白いのか?」という疑問が正直あって。ビジネスとして売上は大事ですが、それで価値を測るのも自分には違う気がする。今はまだ答えが見えていないですね。なので「ただつくりたいから、つくる」というのが、今の自分の原動力です。
要名本
先輩エンジニアのコードに触れながら改善できたのは大きな学びでしたが、もう1つ、1000万規模のヒットになるとGoogleのレビューにたくさんの声が届くんです。良い評価も悪い評価も。自分が改善した内容に対してリアルなフィードバックが来る体験は、「世の中に石を投げた」ような感覚で。自分の作ったものに反応してくれる人がいることは、ものづくりのモチベーションに直結しましたね。

自分の「やりたい」を、貫いてほしい
― 最後に、ゲームの世界を目指す方へメッセージをいただけますか?
要名本
入社する前、「好きなことを仕事にすると苦しくなる」という話をよく聞いて、少しネガティブに考えていた時期がありました。でも実際にやってみて思ったのは、「やってみないとわからない」ということ。僕は「自分の考えたものを形にできるのは楽しいことだ」と感じられたので。悩んでいるなら、1回やってみてから考えてもいいんじゃないかと思います。
ブラウン
本当に、「試さなきゃわからない」というのに尽きますね。自分が「やりたい」という気持ちが1ミリでもあるなら、たとえ他人が「無理かもしれない」と言っても、やって欲しいです。
そして、「やりたいこと」がある人にとって、カヤックはそれを形にしやすい環境だと思います。自分がやりたいことを明確に言えれば、どんどんそこに集中させてくれる。僕もまだ新しいチームで新しい挑戦の途中ですが、自分が面白いと思うものを作り続けていきたいですね。
(取材・編集 梶陽子/ ライター 川島由美子 / 写真 JungJieyun)
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