2026.06.25
#クリエイターズインタビュー No.103“眠れる名作”が1,000万ダウンロードを達成!データが導いた発掘と再生
今から3年前にリリースされた『Cannon Bowling(キャノンボーリング)』 。開発当初は社内のローンチ基準に届かずお蔵入りしたゲームが、1,000万ダウンロードを突破した。 なぜ再び日の目を浴び、1,000万まで伸びたのか。「このゲームはCPI(効率的なユーザーの獲得)じゃない、継続率だ」という仮説を武器に、100本以上のデータを読み解いてポテンシャルを見抜いたプランナーの佐野と、ゲームデザイナーの感覚を併せ持つエンジニアのウェイ 。ゲーム事業部 改善チームの2人が、1,000万到達までのプロセスを語ります。
(向かって左から、佐野貴志、Wei Jiaxing)
CPIが高くても、1,000万は到達できる
― 『Cannon Bowling』1,000万ダウンロード突破、おめでとうございます。まず、率直な感想をお聞かせいただけますか。
ウェイ
ありがとうございます。
1,000万に到達するまで、カヤックで一番時間がかかったゲームかもしれませんね!
佐野
実はもうだいぶ前に作ったやつなんですよ。3年前の4月か5月にワールドローンチ(全世界公開)して。正直、1,000万には届かないんじゃないかと思ってましたね。
ウェイ
当時のCPI(ユーザー1人あたりの獲得コスト)が高くて、ユーザー獲得の効率がそんなに良くなかったんです。
佐野
例えば広告費を1,000万円使ったとして、他のタイトルだとかなりの人数を獲得できると思うんですが、これは1人あたりの獲得単価が5倍から10倍くらい高かったんですよね。わかりやすく言うと、通常1人あたり10円かかるところが50円とか100円とか。だから同じ売上でも、獲得人数は5分の1や10分の1になってしまう。逆に言うと、5倍~10倍の単価でも回収できたということでもありますが。
ウェイ
でも…時間をかけて1,000万になりましたね。

「CPIじゃない、継続率だ」100本以上を見直して、19分の1の"お宝"を見つけ出した
― リリース当初から「伸びるだろう」という手応えはありましたか?
佐野
売上については手応えがありました。ただ、ダウンロード数はそんなにいかないんじゃないかという感覚もあって。実はこのタイトルには特殊な経緯があるんです。当時、うちではMetaでCPIテストというのをやっていて「一定の基準に達しないと開発に進めない」というルールがありました。
ウェイ
広告のポテンシャルのテストですね。
佐野
で、実はその基準に到達していなかった。『Cannon Bowling』は、もともとマンガ雑誌『月刊コロコロコミック』とコラボしている『ケツバトラー』を企画したトモぞヴP(以下、トモぞヴ) が作ったんですが、テストを通過しなかったので一旦脇に置かれていたんです。
僕とウェイさんは当時、「1人あたりのLTV(ユーザーが生涯を通じてもたらす収益)が高いタイトルを作れないか」ということにチャレンジしていて、いろいろ試していたところでした。そんな中で『Cannon Bowling』を改めてデータで見ると、CPIは足りないんですが、継続率やプレイタイムが非常に高くて「ワンチャンあるのでは!?」という感触があったんです。
ウェイ
当時のテストの判断基準はCPIの成績だけを見ていたんですが、僕と佐野さんは「別の勝ち方を見つけよう」という目標でやっていて。今回のゲームで「継続率が良い」という指標も大事だとわかりました。
佐野
そうそう。当時、継続率とプレイタイムが社内で特に高かったタイトルが『Number Master(ナンバーマスター)』と 『Ball Run 2048(ボールラン2048)』で、その2タイトルがずっとトップだった。『Cannon Bowling』はその2タイトルほどではないけれど、数字がかなり近いことがわかって。継続率の良さが「伸ばせるかどうか」に関わるんじゃないか、という読みがありました。これは改善する価値があるんじゃないかと感じたので、当時のリーダーに「こういう根拠で可能性があると思います」と説明して、OKをもらいました。
ウェイ
他のメンバーはほぼ全員が新作タイトルを作っていて、僕たちだけが既存タイトルの改善や『Cannon Bowling』のような眠っているタイトルの再挑戦に取り組んでいました。改善チームにいたからこそできたことだと思います。
佐野
テストの基準を通過するタイトルって多分、20本に1本ぐらい。逆に言うと、19本は眠っているタイトルになるんですね。ただ、その19本はほぼ可能性が薄いタイトルが多くて。100本以上を見直して、その中で候補に挙がったのが『Cannon Bowling』でした。いろんなタイトルの数字を見ていたから、うまくいっている既存タイトルに近いんじゃないかと気づけたんです。いざリリースしてみると広告の回収率が高くて、少なくとも2人分の人件費は稼げるんじゃないかという手応えがありました。

「いちばんの功績は、ゲームを発見したこと」
― 改善していくにあたって、特に手をかけた部分はありますか?
佐野
トモぞヴが作るゲームは本当に面白くて手触りがいいので、ちゃんと伸ばしていければうまくいくだろうという、ある意味で信頼感があります。ボーリングを飛ばして倒すという遊びなので、例えば「バウンドする壁」を追加したら面白いんじゃないか、という感じでいろんな遊びを加えていって、どんどん楽しいゲームにしていければ伸びるんじゃないかなと。このタイトルは特に手触りの修正をほとんどしなかったよね。
ウェイ
うん。最初から面白いゲームだった。
佐野
ステージの追加はしましたが、「眠っていたものを掘り起こしただけ」という感覚。
ウェイ
振り返れば、特別なことはそんなにしていない。いちばん特別なことは、そのゲームを「発見したこと」かもしれません。
佐野
中毒性が最初から高かったんだと思います。その中毒性はそのままに、いろんな遊びを追加するだけでどんどん伸ばせた、というタイトルだったんじゃないかな。
「CPI以外の判断基準がないか」と2人とも考えていて「継続率なんじゃないか」という仮説がたまたま当たっていた。かつ、キャノンというタイトルがそれだけのポテンシャルを持ってくれていた、ということです。
ウェイ
こういうギリギリポテンシャルがあるタイトルはそんなに多くないんです。そのままほったらかしにされていた可能性もあったかもしれないので、いろいろ偶然が重なりました。
【企画開発者・トモぞヴPのコメント】
『Cannon Bowling』はおふたりの改善のおかげで世に出たゲームです。本当にありがとうございます!
自分で作ったのはキャノンの発射アクションくらいなものですが、なかなか気持ちいい挙動になっているとおもいます。

継続して伸ばす面白さ、それぞれの強み
― お二人で一緒にやろうと決めた理由はありましたか?
佐野
2人で改善チームを組んでいたので、その流れですね。『Ball Run 2048』や『Gun Sprint(ガンスプリント)』など他のタイトルでも何度か一緒に改善を進めていて、2人とも慣れているし、ウェイさんと一緒にやるのが一番速いと。
― お二人の役割分担はありますか?
佐野
企画や数字を見るところは2人ともやっています。役割は、自分はプランナー(企画)なので、アイデアを出したりデータを見たりするところを担って、実装はほぼウェイさんにお願いしています。自分がUnityを触ってレベルを作ったりすることもありますが、仕組みを作るのは基本的にウェイさん頼りで、ウェイさんがいないと成り立たない。本当にウェイさんありき、という感じです。
ウェイ
僕は半分エンジニア、半分ゲームデザイナーなんですが、ゲームデザイナーとしての経験は少ないので、アイデアに関しては佐野さんによく意見をもらっています。1人だとAにするかBにするか悩みがちなんですが、佐野さんがいると迷わず進められる。
― 佐野さんから見て、ウェイさんの強みはどういったところですか?
佐野
ゲームデザイナー的な感覚を持ちながら実装してくれるというのが1つ。もう1つは、カヤックって新しいことを始めるのが好きな人が多いんですよ。「面白い」って新しく始めるのはめちゃくちゃうまいけど、それを継続して伸ばすのが苦手な人が多い。ウェイさんはそこが得意で、地味な作業でも進んでやってくれる。エンジニアの中では珍しいタイプだと思います。
ウェイ
いや、でも自分は地味だと思ってないんですよ。ゲームデザインが好きなので、伸ばしていく過程がゲームデザイン的に面白くて。あと、面白いゲームなのにテスト基準を達成できなかっただけで捨てられるのはもったいないという気持ちもあって。「面白いゲームをできるだけ世に出したい」という思いで改善に取り組んでいます。チームに入った当初の面談でも「新作じゃなくてゲームの改善をやらせてほしい」と言ったほどで、改善チームができたときもすぐ手を挙げました。
― ウェイさんから見て、佐野さんの強みはどこですか?
ウェイ
佐野さんはアンテナが高い。今どのゲームが流行っているかを見るのはチームで一番早いと思います。ゲームの仕組みにも詳しくて、「この機能が足りないんじゃないか」という提案をよくしてくれます。参考タイトルをかなり時間をかけて深く遊んで、どこが良いかを話してくれる。研究者かもしれないですね。
― お二人の意見がぶつかることは?
佐野
ありますね。その時はお互い話して、それでも「いや、自分が正しいと思う」となった場合は、とりあえず両方やる。どちらを先にするかという話はあるんですが、最終的にはABテストでプレイヤーが判断してくれるので、「プレイヤーにお任せします!」という感じです(笑)。
ウェイ
プレイヤーの声を聞くのが一番正しい(笑)。

ソシャゲからハイカジ、ブリカジへ。2人がゲームを作り続ける理由
― ここからは、ゲームとカヤックとの出会いを教えてください。
ウェイ
僕は中国出身なんですけど、小学生の頃からゲームを作りたいと決めていて、大学も情報系の学部に入りました。子供のころから日本のゲームに憧れていたので、日本に行こうと決めた。その時カヤックが中国で求人を出していたので、応募しました。最初に入ったのは『ぼくらの甲子園!ポケット』というソシャゲ(ソーシャルゲーム)のチームで、リリースから2年目のタイミングでした。それからハイカジ(ハイパーカジュアルゲーム)やブリカジ(ハイブリッドカジュアルゲーム)を作るようになって。
佐野
僕はもともと別の会社でサッカーのソーシャルゲームを作っていて、カヤックの『ぼくポケ(ぼくらの甲子園!ポケット)』が出た時に、ライバルだなと思って研究がてら遊んでみたら、激ハマりしてしまって(笑)。「なんて面白いゲームなんだ!」と。その後、自分の会社を立ち上げたりしたんですがうまくいかず、次はどうしようかと考えた時に、好きなタイトルを作っている会社に入ろうと思いました。カヤックの採用ページに「既存のサービスで改善したいことはありますか?」という質問があって、そこに『ぼくポケ』への改善アイデアをがーっと書いて応募したら「なんかやばいやつが来た」みたいになったらしいです(笑)。ぜひ『ぼくポケ』チームに入りたいとお願いしたんですが、実際に入ったのは『Lobi』というサービスで。あまりにもヘビーユーザーすぎて、そんなやつを入れるのはさすがに怖い…という話になったみたいです(笑)。
ウェイ
当時、『ぼくポケ』のヘビーユーザーがカヤックに入ったと社内で話題になりました。でも1年間ぐらいチームに来ないな、と思っていて(笑)。
佐野
企画の人から「この機能どうですかね?」と個別に聞かれたら答える、ぐらいの関係でしたね、当時は。最終的にはチームがバタついて忙しくなった時に「教育しなくても即働けそうな人が社内にいないか」という話になって、「それは俺だろ」と(笑)。仕様もほぼ把握しているし「即戦力になります」ということで入らせてもらって、イベントを考えたら売上がかなり上がったりしましたね。
ウェイ
その時、佐野さんは伝説的な人だなと思いました(笑)。今考えると、ハイカジやブリカジの分析にもその特性が活きていますね。ゲームを深く遊んで機能を分解・分析する、というのはソシャゲ時代からずっと続いている。
― ソーシャルゲーム、ハイパーカジュアルゲーム、ハイブリッドカジュアルゲームと3つを経験して、違いや共通点はありますか?
ウェイ
ソシャゲ時代は、長く遊んでくれている プレイヤーのために新しい体験を提供したいという気持ちでやっていました。ソシャゲもハイカジも好きですが、ソシャゲは日本国内向け、ハイカジは全世界向けなので、ソシャゲよりはるかに多くの人に遊んでもらえるのは、とても嬉しい。1万倍ぐらいの違いがあるかもしれません。エンジニアとしても、ハイカジはエンジニア1人がアイデアを出してリリースまで作ることができる。自分のアイデアを世に出せるのは、大きな違いですね。
佐野
ソシャゲとハイカジの間にあるのがブリカジだと思っていて。ハイカジは広告収益、ソシャゲは課金、それが融合したゲームなので、今やっているブリカジは両方の経験を生かせると思います。ただ組み合わせるのは難しくて、ソシャゲでうまくいっていたことがそのまま適用できるわけじゃないし、タイトルごとに課金設計を都度考えないといけない。経験を生かしつつ、新たに考えながらトライしている状態ですね。現状、ハイカジを作るチームが大きくて、ブリカジもうまくいけばさらに力を入れていきたいというところです。市場規模が伸びているので、今やった方がいいよねというのもある。ただ全部突っ込むのは怖いので、ハイカジを守りながら新しい分野にも取り組むという感じでやっています。
― ゲームを作り続ける中で、大事にしていることを教えてください。
ウェイ
やっぱり世界中の人に沢山遊んでもらえるゲームを作りたい、という気持ちはありますね。それと『Cannon Bowling』の改善に取り組んだのは、他社のゲームには「伸ばす仕組み」がいっぱい入っているのに、当時うちのハイカジはコアな遊びだけで伸ばす仕組みがなかったから。他社に負けたくないという気持ちもあって、参考にしながら取り組みました。
佐野
僕はプレイヤーを楽しませること、ですね。自分もプレイヤーなので、できれば自分も面白いと思えるものを作りたい。ただハイカジは世界のプレイヤーなので、自分とは違う価値観の人たちを想像しながら作っています。ABテストでプレイヤーに問う仕組みがあるのは、そういう意味でとても助かっています。
― 最後に、ゲーム業界を目指す方々へメッセージをお願いします。
ウェイ
ゲーム制作に興味がある方は、ぜひハイカジの作り方を体験してほしい。ハイカジの「速く作って速く判断する」という制作手法は、実はゲーム作り全般に役立つと思います。ソシャゲでも、速くプロトタイプを作ってテストして、ダメなら次を作る方が効率がいいはず。インディゲームにも同じことが言えますよね。どんなジャンルのゲームを作る人にも、きっと役に立つと思います。
佐野
そうですね。最近のSteamインディゲームの作り方にもハイカジは近いと思う。試作して小さい状態でプレイヤーに遊んでもらって、数字を見て改善していく。とてもいい作り方だと感じています。ハイカジを作っている会社は日本だとほぼなくなってきていて、ハイブリッドカジュアルに移行しているところも多い。でもハイカジって枠組みが広くて、いろんなゲームが成り立ちやすい。ソシャゲはガチャという仕組みの制約がある分、ハイカジやハイブリッドは自分のアイデアをより自由に形にできる市場だと思います。「面白いゲームを自分で考えて作りたい」という人は、ぜひカヤックに来てほしいですね。
(取材・編集 小林そら/ ライター 川島由美子 / 写真 jungjieyun)
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