2026.09.08
#クリエイターズインタビュー No.107非エンジニアが、いかにして全米1位を成し遂げたのかー「AIと感性」を武器にしたゲーム哲学
ハイパーカジュアルゲーム『Pistol Duel(ピストルデュエル)』が、累計1,000万ダウンロードを突破。さらに、Google Playの無料アクションゲームランキングで全米1位を記録した。
このゲームを手がけたのは、ゲーム事業部のプランナー・マルヤマ タツキ。企画から開発、リリース後の改善までを担い、世界中で遊ばれるゲームへと成長させたマルヤマだが、彼はエンジニアやデザイナーの技術は持っていない。AIを活用しながら一人で『Pistol Duel』をつくり上げたという。
なぜ、非エンジニアがゲームをつくり、全米1位まで育てることができたのか。『Pistol Duel』誕生の裏側やヒットにつながった独自のゲームづくり、そしてマルヤマがカヤックでゲームをつくり続ける理由について聞いた。
3Dプリンターで自作した、赤と青のピストル模型を見せるマルヤマ
どうも、「全米1位の男」です
―『Pistol Duel』全米1位、そして1,000万ダウンロードおめでとうございます!
マルヤマ
ありがとうございます。全米1位は、嬉しかったのを通り越して面白かったですね。普通に生きていても「全米1位」を名乗ることなんてないじゃないですか。ハイパーカジュアルゲームの制作は面白い仕事だなと実感した瞬間でしたね。ちなみにSlack(社内コミュニケーションツール)の名前も「全米1位の男 丸山」に変えました 。
―「全米1位」の肩書きはスゴイですね!それほど大ヒットした理由は、どのように分析していますか?
マルヤマ
2つあると思っています。ひとつは、そもそもの企画にポテンシャルがあったこと。もうひとつは、ゲームを改善する中で、他のハイパーカジュアルゲームとは違うことをしたことですね。企画段階から「普通はやらないようなこと」をやろうと意識していました。
あえて目指した「シンプルかわいい銃」
―どんなところが「普通はやらないこと」なのでしょうか?
マルヤマ
例えば、このゲームに出てくる銃。すごくシンプルな形をしていて、ゲーム開発ツールに基本図形として入っている単純な四角形を、3つくっつけただけのモデルなんです。
普通だったら、ちゃんとしたかっこいい銃にしようと思うんですよ。もっと飾りたくなる。大事なプレゼンの資料に、無造作な初期フォントでそのまま提出する人って、あまりいないじゃないですか。
『Pistol Duel』は、シンプルな銃が回転しながら対戦するゲーム―実際に遊んでみて、そのシンプルさが誰にでも受け入れられやすいと思いました。リアルな銃のゲームだったら、好みが別れるんじゃないかと思います。
マルヤマ
結果的には、それがよかったんだと思います。僕自身、ミリタリー系のリアルな銃が特別好きなわけではなくて。というか、そもそも僕は、3Dのかわいいゲームが作りたかったんですよ。シンプルな3Dの図形のかわいさは前から感じていて、特にそれが跳ねたり、回転したりする動きはずっと見ていられる。そういうゲームをつくりたいなと思っていたんです。そこに、銃のゲームは人気があるよな、というビジネス的な認識があって。その「かわいさ×銃」でヒットゲームができないか、というのを試したんです。参考にしたのは弊社の『Gun Sprint』(ガンスプリント)という銃のゲームなんですが、反動で銃が飛んだり回転したりする。その動きが、図形が動くかわいさにちょうどマッチしたんですよ。
キューブを3つくっつけてつくっただけでも、その「かわいさ」は十分表現できていると思ったので、このように超シンプルな見た目になりました。情報を足せば足すほど、ディープに好きになってくれる人は増えるかもしれない。でも同時に「これは自分向けじゃない」と離れる人も出てくる。だったら僕は、必要ないと思った情報はできるだけ入れない。深くはならないかもしれないけれど、狭くもしない。結果的に、それが幅広い人に遊んでもらえる理由のひとつになったのかなと思っています。
だからと言って雑につくって良いということではなく、その「かわいさ」が表現できているからこそ「チープ」ではなく「シンプル」と言えるものになったのかもしれません。
銃を撃つ反動で移動する動きは『Gun Sprint』からヒントを得た何かが物足りない、答えはプレイヤーの表情にあった
―改善でも「他のハイパーカジュアルゲームとは違うことをした」とおっしゃっていました。
マルヤマ
そうですね。ハイパーカジュアルゲームって、基本的には「簡単なものにすべし」というセオリーがあるんですよ。気軽にインストールする人が多いので、難しかったらすぐやめてしまうと言われている。敵を一方的に倒せたり、失敗せずにどんどん次へ進めたり、誰でも勝てる心地よさを重視する傾向がある。僕は対戦ゲームが好きだったので、それとは違うものをつくりたいなと思いつつ、最初はその定石に従って、プレイヤーの体力を多くしたり、誰でもクリアできるようにつくりました。でも、ゲーム開発の事情を知らない友達に遊んでもらうと、クリアしやすくしたのに、クリアしても全然嬉しそうじゃないんですよ。つまらないとは言わないけど、表情が曇っている。それを見て、「これ、おかしいな」と。
―そこで、逆に難しくした?
マルヤマ
はい。そもそも『Pistol Duel』は「くるくる回転する銃をタイミングよく撃つ」という、当たる確率が低くて難しい仕組みのゲーム。だから、「ハイカジは簡単な方がいい」というセオリーは、最初からこのゲームには当てはまらなかったんです。そこに「自分は死なない」という簡単さが加わると、プレイヤーに残る行為は「狙う」だけになる。当たるまでひたすら狙い続ける、面倒なだけの作業になってしまう。それがつまらなさの正体だったんです。
だから、プレイヤーのHPを減らして「普通に負ける」ようにしました。そうすると、狙うだけじゃなく、相手の弾を避けたり、位置を調整したりすることが必要になる。狙う難しさも含めて「戦う」という魅力的な体験に昇華させることができました。改めて友達に遊んでもらったら、クリア時の表情がまるで変わっていましたね。ドヤ顔でこっちを見てくる。実際、プレイヤーの失敗回数は5倍くらい増えたのですが、プレイ時間は伸びました。
僕はもともと、負けた瞬間に「くそっ!」と声を出したり、勝った時に「よし!」とスマホを放り出してしまうような「ゲーム的で濃い感情体験」をプレイヤーにしてほしいと思っていて。「簡単にはクリアできない」と感じるところから、そこに近づけたと思います。
ハイパーカジュアルゲームの中では珍しく、簡単にはクリアできない
AIと共創する中で人間の役割を考える
―『Pistol Duel』のもうひとつの特徴は、エンジニアではないマルヤマさんがAIを使って、最初から最後まで一人でつくられたことですよね。
マルヤマ
そうですね。今では珍しい話でもないですが、『Pistol Duel』をつくり始めたのは2025年9月頃で、カヤックでは初めてリリースされたAI活用ゲームになりますね。
とはいえ、AI活用といっても、みなさんが思うほどすごい使い方はしてないかもしれないです。
―どういうことですか?
マルヤマ
「AIでこんなにすごいものがつくれました!」みたいな話って多いじゃないですか。でも僕の場合、AIを使うのも初心者だし、ゲームをつくるのも初心者だった。初めてのことを同時に増やしすぎると、「何が原因でうまくいっていないのか」がわからなくなる。AIなら何でもできそうに見えるから、「もっとかっこいいモデルにできるかもしれない」「もっとすごい演出ができるかもしれない」「もっともっと…」って、選択肢が無限に増えてしまう。それで頭がこんがらがってしまったので、逆にAIにお願いする範囲を最小限に絞ることにしました。
―具体的には、どこで使ったのでしょう?
マルヤマ
主にプログラムを書くところです。「銃を撃ったら反動でこう動く」「弾がこのくらいの速さで飛ぶ」ということは、言葉では説明できる。でも、それを実際のゲームの中で動かすためにはコードが必要です。他にもエラーを解決してもらったり。自分で調べてもできなくはないだろうけど、初心者だと「ウッ」となる部分をAIに補助してもらいました。逆に、「できる限り最高の感じでよろしく」といった、自分では想像もつかないすごいことをAIに期待するような使い方はしていません。
―AIを使っても、誰でも『Pistol Duel』をつくれるわけではないと思います。ゲームをつくるために必要な能力って何だと思いますか?
マルヤマ
僕自身、ゲームをつくる能力があるのかはわからないです。実はまだ4本しかつくったことがないですし。でも、ゲームをつくることが、自分の能力の延長線上にないような「すごく特別なこと」だと思っていたらつくれないんじゃないでしょうか。
僕はコードも書けない、絵も描けない。じゃあ何ができるんだろう?と考えると、自分の「感性」だけは鋭いと思っているんです。そこに動くものがあれば、それが面白いかどうかの判定はできるし、どこが面白いのか、なんで面白くないのかっていう分析もできると思っていて。だから僕の場合は、AIに動くところまでつくってもらえれば、そこから先のゲームを面白くするところはなんとかなるだろうなと思えて。だからつくれたんでしょうね。
―お友達の表情のエピソードもそうですが、理屈ではなく、直感や「身体の反応」を大事にされているんですね。
マルヤマ
ゲームって、ゲーム性がどうとか、どんなキャラクターが登場するとか、ゲームソフトが持つ機能に目が行きがちです。でも本質は、すごく受け身なエンタメだと思うんですよ。常に人間が操作していないと動かない。だから「動いているゲーム」を指すときには、ゲームソフトだけじゃなくて、ゲームソフトと人間(プレイヤー)がセットになって、初めて「ゲーム」の定義になると思っていて。つまり、人間の脳とか感情とか、人間の内面の機能っていうのも、ゲームの機能の一部なんじゃないかと。僕はその人間の方に興味がある。だから他の人よりも、感覚的な部分というか、自分がどう感じているかというところに着目してつくっているのかもしれないですね。
例えば、「面白い」と「つまらない」の境界線みたいなものがあると思っていて。難易度やタイミングといった細かい部分の微調整を繰り返していくと、つまらなかったものが面白くなる瞬間があるんです。それはゲームの中にあるというよりは、僕たちの頭の中にあるものだと思っているんですよね。僕たちの脳は、常に「つまらない、ゲームなんかやめろ」と叫んでいる。その脳のブレーキに打ち勝てるくらいゲームの魅力が強くなった時に、初めてそのゲームは「やっていられる」面白いものになる。僕は、その境界を越えたかどうかの判定は自分でわかると思っているので、そうなるところまで微調整を繰り返すということですね。これはまだ、AIにはわからないでしょうね。

みんなで遊ぶ「ゲーム」はなんでも大好き
―そもそもマルヤマさんは、小さい頃からゲームが好きだったんですか?
マルヤマ
遊ぶのは好きでした。でも、他のゲームクリエイターとはちょっと違って、僕にとっては「ビデオゲーム」がそこまで特別なものではないんですよ。ゲーム業界には、「この作品に人生を変えられた」とか、「このクリエイターの作品が好きで、自分もゲームをつくりたい」という方も多いじゃないですか。もちろん、その熱量からすごいものが生まれるんだと思います。でも僕の場合は、ドッジボールでもいいし、ザリガニ捕りでもいいし、カードゲームでもいい。“遊び”そのものが好きなんです。
―子どもの頃は、どんな遊びを?
マルヤマ
僕らの世代だと、『ムシキング』とかカードゲームが流行っていたんです。スマホもなかったので、学校のみんなが同じものをやっていて、そのゲームが強いやつが偉い。僕は学校で偉くなりたかったので、めちゃくちゃやり込みました。特に『ムシキング』の公式大会では3回くらい優勝して、優勝者だけが出られる大会でも優勝しました。でも、その楽しさはゲームそのものにのめり込んでいたというより、友達との関係性の中にあるものだった。周りがやってなければそこまで遊んでなかったと思います。僕にとってゲームは、みんなで集まって遊ぶための「公園の遊具」みたいな感覚なんですよね。
―そんなマルヤマさんが、なぜゲーム会社に?
マルヤマ
ゲームをつくる中で「楽しいとは何か」ということを学べるだろうと思ったからです。正直やりたい仕事なんてなかったし、社会人になった自分が楽しく過ごしてる姿がどうしても想像できなかったんですよ。ゲームづくりが楽しいかはわからないけれど、少なくとも「楽しい」についてずっと考え続ける仕事だろうから、大人になっても楽しく過ごす手がかりが得られたらいいなと。あとは学生時代、スマホゲームを世界ランカーになるくらいガチでやっていたんですが、逆にそれ以外、就職活動で話せるエピソードがなかったのもあります。
―なぜ、カヤックを選んだんですか?
マルヤマ
カヤックのWebサイトが一番楽しそうだったからですね。普通の会社って、Webサイトを見ると「お客様にバリューを提供します」とか、すごくちゃんとしたことが書いてあるじゃないですか。それに対して就活生も「私もバリューを提供したいです」って言う。僕にはそれが言えなかったんですよ。
カヤックのサイトには「まずは自分が面白く働こう」って書いてあって、そんなことを言ってる会社は他にありませんでした。この会社なら、嘘をつかずに素直に「仲間に入れてください」と言えると思いましたね。
AI時代だからこそ、「頭」より「身体」を鍛えたい
―マルヤマさんが最近ハマっている「遊び」はなんですか?
マルヤマ
最近は週末、ファミレスに行ってずっとAIと話しています。僕は人と話しているとき、突然、全然関係ない着想を得たりして、無限に脱線していくんですよ。人間相手だと失礼だし知識に限界がありますが、AIは知識量がすごいし会話の流れを全て記憶できるしで、どこまで脱線してもついてこれる。会話が生き物みたいに広がっていくのが楽しいんですよね。人と話すのも好きなんですけど、AIとの会話は格別な楽しさがありますよ。
―AIがさらに進化していく中で、クリエイターはどう変わると思いますか?
マルヤマ
僕自身、AIと喋っているのが楽しいと感じている経験からも、「頭の中でうまく論理を扱えます」とか、「それっぽい説明ができます」とか、人間のそういう能力はもうAIに勝てなくなるしいらないんじゃないかなと思っていて。
僕はそこで、「頭」のかわりに「身体」なんじゃないかと思っています。「頭」が優位になっていると、目の前で起きていることに知っている名前をつけて、その枠組みの中でしか捉えられなくなる。でも、感覚の実態はもっと複雑で、言葉にした途端、情報が削ぎ落とされて別のものになってしまうと感じます。そうじゃなくて、体が受け取った感覚のまま味わう。
『Pistol Duel』をつくった時も、僕がいちばん使っていたのは結局「感覚の部分」だった気がします。そもそも頭で考えていると、自分の体の存在って忘れ去られちゃうんですよ。脳じゃなくて、体の方の知性。「あ、そこにあったのか」みたいな。そっちを鍛えるのが面白いんじゃないかなと思っています。
入社したその日から「打席」に立てる
―最後に、カヤックに興味を持っている人へ、ゲーム事業部の魅力を教えてください。
マルヤマ
カヤックは、入社したその日から、「自分がつくりたいゲームをつくっていいよ」と言われる環境なんですよ。普通だったら、最初は球拾いをしたり、先輩のサポートをしたりして、なかなか自分の番が来ないじゃないですか。でもゲーム事業部には、それがほとんどない。入った瞬間から、自分の考えを示して、実際につくることができる。
これからAIによって、いろいろなスキルの価値も変わっていくと思います。だからこそ、みんなと同じ道を選ぶんじゃなくて、「人が選ばない選択肢を選んでみる」のもいいんじゃないでしょうか。
カヤックのゲーム事業部は、自分で打席に立ちたい人にとって、本当にすごくいい環境だと思います。

(取材 廣濱舞 / 編集 小林そら / 写真 jungjieyun)
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