2025.08.27
#面白法人カヤック社長日記 No.147敵のような味方の話

今回はこのタイトルで、社長日記を書いてみたいと思います。
その前に少しだけ、背景の解説をさせてください。
実は昔、「味方のような敵」というタイトルで社長日記を書いたことがあります。
「味方のような敵」
https://xtech.nikkei.com/it/pc/article/NPC/20070817/279852/
2007年8月27日――つまり、ちょうど今から18年前の今日に書いたものです。
簡単に言うと、自分の味方のように近づいてくる人が、実は自分の世界を狭くしてしまう、という視点で書いたもので、新卒時代のエピソードを例に挙げています。
今回は、その逆の話を書いてみたいと思います。
「敵のように見えて、実は味方だった」という人の話です。
上場前夜、カヤックに起きていたこと
これは、カヤックを上場させる前の話です。
カヤックは上場準備に入り、結果として3年半で上場することができました。
当時、ソーシャルゲーム市場が立ち上がり、そこに参入したカヤックは、運良くその波に乗ることができたのです。
こう聞くと、上場まで順風満帆だったように見えるかもしれませんが、実際はまったくそんなことはありませんでした。
ソーシャルゲームに参入し、ゲームが当たったタイミングで調達を行い、最速で上場を目指していましたが、実はその予定が1 年半も伸びました。
ゲームがなかなか当たらず、むしろ外れ続けていたのです。しかもその間に、モバイル市場がガラケーからスマホに切り替わるという激動の時代に突入していました。
「次のタイトルが外れたら、上場はしばらく延期になりそう」と言われた中で、奇跡的にヒットが生まれ、ようやく上場にたどり着けたのです。しかも、僕らが上場した直後、某G社が無理な上場を行ってすぐに下方修正を発表したことで、同業界の上場がしばらく厳しくなるという事態も起きました。つまり、ギリギリのタイミングだったのです。
そのような状況下で、カヤックの経営陣は大きく入れ替わるという出来事もありました。
敵のように見えた味方たち
詳しくは書きませんが、計画通りに進まず、会社の状況も悪くなっていく中で、経営陣の意見がまとまらず、時には対立構造のように感じられる場面も多くありました。
僕自身の意思決定にも、なかなか信頼が集まらず、自信が持てない状態になっていました。周囲が敵のように見えてしまい、自分の判断がますますやりにくくなっていたのです。
その中で「後悔しないためにも経営陣を刷新したい」とお願いし、入れ替わってもらいました。結果として、奇跡的に上場することができました。
ただ、今となっては「もっとやりようがあったのでは」と思うことがあります。
当時は冷静になれませんでしたが、今振り返って書くならば、あのときの経営陣は皆、本来は味方だったのだと思います。
「上場させたい」「チームを勝利に導きたい」という根っこの思いは共通していました。やり方や進め方に違いはあったとしても、ゴールは同じだったのです。
巻き込む力と、説明責任
でも、敵のように振る舞わせてしまったのは、自分の説明不足だったのかもしれません。
あるいは、自分自身が自分を信じきれていなかったのだと思います。
もし自分にもっと信念があり、根拠やロジックも十分だったのなら、周囲を説得して信頼を得ることもできたはずです。たとえ完全に信じてもらえなかったとしても、ぶれることなく進めたのではないかと思います。
上場という経験が初めてだった僕には、自信と経験が足りませんでした。だからこそ、「自分を信じてくれる人」で周囲を固めるという選択をしました。結果上場できたので、それはそれで正解とも言えます。ですが、今となっては、また別のやり方をしても良いなと思います。
今の自分であれば、違う意見の人もそばに置きながら、信頼を得る努力をしつつ、進むべき道をしっかりと進めたと思います。
これは経営者だけの話ではない
ちなみに、これは何も経営者に限った話ではありません。
誰でも、調子が悪かったり、壁にぶつかっているときには、周囲が敵に見えてしまうことがあると思います。
そういえば、共同創業者の貝畑かいち も、自分がプロデュースしたゲームが6本連続で外れた時、「周囲が全員敵に見えた」と言っていました。端的に言って、病んでいたと自分で言ってました。でも、その中には本当に敵もいたかもしれませんが、味方も混ざっていたはずです。なぜなら、ゴール設定は同じだったのですから。
「敵のような味方」とどう向き合うか
もし、自分が成長して「敵のような味方」と向き合う余裕があるならば、その人を“敵のまま” にせず、味方として巻き込むチャレンジをしてみるのも価値があると思います。僕も、これからはそうしていきたいと考えています。
「味方のような敵」とは、あまり関わらなくていいかもしれません。
でも、「敵のような味方」は、切り捨てず、本当の味方に変えていきたいのです。
そのほうが、物事をよりパワフルに前進させていけるからです。
そして、仮にうまく巻き込めなかったとしても、それを許容して、そばに置いておく。うまくいった後にまた味方として戻ってきてもらうような工夫も必要だと思います。
人は、自分を肯定したい生き物です。
だから、たとえゴールが一緒でも、やり方が違えば「失敗するぞ」ではなく「失敗して欲しい」とすら思ってしまうこともある。つまり、一時的に敵のようになっている状態です。
だからこそ、うまくいったあとにその人の“振り上げた拳” を下ろしてもらう工夫も必要です。
「あなたの指摘があったから、自分もより深く考えることができた。必要なプロセスでした。ありがとう」――そう伝えることで、本当の意味での味方になってもらえるのかもしれません。
根っこにある“思い” を見る
その人の根っこにある思いが、自分と同じ方向を向いているのかどうか。
そこに焦点を合わせることが、とても大切だと感じています。
「味方のような敵」を書いてから、ちょうど18年。
「敵のような味方」と向き合えるようになるまで、18年かかりました。
ちなみに、今回、この話を書こうと思わせてくれたきっかけが、実はFC琉球の経営にあ
りました。
FC琉球を応援する株主、経営陣、スポンサー、サポーター、その他すべての関係者たち
は、「チームを勝利に導く」という、たったひとつのゴールを共有しています。
その思いを、1つにするために、自分は努力しなければいけないし、自分を信じないといけないなと思います。
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