眼球運動が実はマインドフルネスにつながるという話。 | 面白法人カヤック

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2020.09.24

#面白法人カヤック社長日記 No.76
眼球運動が実はマインドフルネスにつながるという話。

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「上場企業の経営者はストレスが溜まるでしょう?」と質問されることがあります。生きている以上、ストレスがない人生というのはないはずなので、上場企業の経営者といえども特別ではなく一緒ですよ。と答えることもできますし、いやぁ、おっしゃる通り、常に心労が絶えませんし、大変です。と答えることもできます。どちらも正解ですが、ストレスというものをもう少し見つめてみると、上場する前とする後でいくつか、ストレスの質は確かに変わっていきます。

たとえば、そのひとつは、未来のことに対して約束をし、その約束を果たし続けなければいけないというプレッシャーです。上場企業は、株主に対して、未来の計画を伝えます。期初に今年の目標を発表したり、あるいは数年先の中期計画を発表します。そして、その計画が外れそうだとわかった時点は、速やかに修正を発表します。修正を繰り返していると、約束を守れなかったということになるので信頼を失います。そもそも上場企業の評価のひとつである時価総額というものも、本来は、過去の業績に対する評価ではなく、未来への期待値、つまり将来これくらいの利益を出す会社になるだろうということから計算された価値になっています。ですから、たとえ赤字でも時価総額が高いという企業が存在するのです。

ただ、自分が計画した未来の通りに動く。この繰り返しは、本質的に本来の人間の生き方とそこまでマッチしていないような気がします。個人としてストレスなく楽しく生きるためには、未来にも過去にも縛られない方が良い。いまこの瞬間を精一杯生きて楽しむことが、ストレスなく楽しむための秘訣です。仏教の世界でいう即今只今や、いわゆるマインドフルネスにもそういった要素があるかと思います。

ですが、会社という人工的な生き物、特に上場企業においてはそうもいきません。未来のビジョンを示し、そこにたどり着くまでの道筋を示し、あらゆる自体を想定して、どんな事態が起きても計画通り着地させるということが経営力の高さと言われます。ちなみに今回のコロナのような未曾有の事態が起きると「計画が予想できません」ということも許され(実際にかなりの数の上場企業が今年は計画を発表していません)ますが、次に同じようなことが起きたときは、そうした危機をも見越した計画を立てられている企業こそが経営力が上で、信頼される存在になるのだろうと思います。

つまり、常に未来に約束し続けなければならない、そのような力学にさらされているという種類のストレスは、上場前を経て増えた部分です。

この他にも、ストレスが減ったものもあれば、増えたものもあります。ストレスがかかりすぎると、人間は冷静な判断ができなくなります。経営者という職業は、判断を誤ると影響が大きいので、間違った判断をしないために、自分なりのストレス発散の工夫や、あるいはマインドフルネスな状態にする訓練が必要になります。

そして、ここからが今回の社長日記の本題です。
この工夫のひとつを今日の日記ではお話ししたいと思います。

それは、眼球運動がマインドフルネスにつながるということです。そこに行き着いたエピソードをご紹介いたします。

ある時、あるきっかけで速読の先生に出会い、速読術を学んでいたことがあります。先生の受け売りですが、速読には、大きく分けると、本を飛ばし読みして概要を掴むといったやり方と、脳の潜在能力を高め、瞬時に脳が処理する文字数を増やすことで読むスピードをあげるという2つの方法があるそうです。その中でも、僕は後者の方法に取り組んでいました。

どういうものかをもう少し解説しますと、たとえば、この社長日記を読まれている時、「社長日記」という4文字の漢字を、「社」「長」「日」「記」と1文字1文字頭の中で処理して読んでいるのではなく、「社長日記」という4文字の塊(かたまり)で人間の脳は認識し処理しています。そのように塊で瞬時に処理する脳の力というものがあり、この塊の範囲を徐々に広げて行けば、単純に読むスピードが早くなる。という理屈です。そして、最終的にその能力を高めて行くと、通常の本であれば見開き2ページを1秒もかからず同時に脳が処理することが可能だということになっています。実際に速読の達人と呼ばれる人は笑っちゃうほど速いスピードで読書ができます。

でも実際、この理屈は正しく、たとえばYouTubeなどの動画には再生速度を速める機能があるように、二倍速で人の話を聞くのは、最初は辛くても、ずっと聞いているうちに慣れて処理できるようになります。カヤックのエンジニアでも、日頃からYouTubeを倍速で聞いているので、コードを書くのが速いんですと言い切る社員もいました。

ちなみに、このコロナ禍において自分の能力を高めてみようと実験したことがひとつあります。それは、会議がオンライン化したので、2つの会議に同時に出るということをやってみました。イヤホンをつけて右耳と左耳にそれぞれ別の会議の音声を出して参加して見たのです。ですが、実際は無理でした。やっぱり聖徳太子はすごいです。

・・・と話がそれましたが、速読は脳の処理速度によって可能になるということであり、訓練することで誰もが本を速く読めるようになるということなのです。そして、この脳の潜在能力を鍛えるために、この速読術の訓練では、様々なことを行います。

その中のひとつに眼球運動がありました。それは目を柔軟にし視野を広げるために行うという理屈になっています。これはどういうことかというと、見開き2ページを1秒切るスピードで読むレベルになるためには、見開きページの右上の文字と見開きページの左下の文字をすべて同時に視野に入れなければなりません。ですが通常の視野ではそこまで見えないのです。試しにやってみるとわかりますが、目を動かさずに同時に認識することができません。であればいくら脳が処理できる潜在能力があるとしても脳にインプットされる目がそこに追いついてないと処理できないので、まずは視野を広げる訓練をするのです。

かくして速読術と眼球運動は切ってもきれない関係になっています。

しかしながら最終的には、自分にはこの超人的なレベルまで速読術を身につけることはできませんでした。二倍程度には読むのが早くなった実感はありますが、超人のレベルまではやりきれませんでした。そこまでストイックにする意欲がなかったというのもありますし、信じ切れなかったということもあるのかもしれません。それに、そもそもそれだけのスピードを身につけたところで、そこまでたくさん読みたい本がないということも原因だったかもしれません。

ということで、自分の中での速読ブームがひと段落ついていたわけですが、その数年後、とあるきっかけで、別の速読術=「楽読」に出会います。

これがまた新しい取り組みを生み出すきっかけとなりました。この「楽読」というものも、上記で説明した速読の2つの種類のうち脳の潜在能力を高めるという方向の速読です。ただ、僕が取り組んでいた速読術と違うのは、楽読という名のとおり、もっと楽しく、簡単に脳の潜在能力を高めるという工夫がありました。仕組みをお話しすると、本を読みながら、3倍速の音声を流し、みんなとおしゃべりしながら、体を動かすという方法を取ります。どういうことかというと、ただ本を早く読むだけではなく読むときに他のことも同時にしなければいけない負荷もかけることで、脳の処理能力を強制的に高める負荷をかけます。そうして脳をパワーアップさせたところで、普通に本だけを読むと早く読めるようになるという理屈です。また、僕の参加していた速読術と同様、眼球運動も行います。目が柔らかくないと脳の処理も早くならないこれは同じ理屈です。

なるほど。これはさらに良い理屈だなと。ただ一方で僕はもう十分な速度だなと思っていましたので、また速読のトレーニングをしようということにはならなかったのですが、この「楽読」の前代表理事の石井さんにはもうひとつの思いがありました。

それは、単に速読術を広めるのとは別に、速読を通して人を元気にしたいんだという思いが根っこにあるそうです。

それは、代表の石井さん自らがこの楽読教室に参加して、鬱だった自分が元気になったという体験があるそうです。速読でなぜ元気になるのかというと不思議な話ですが、おそらく脳の活性化を図ることが何らか効果があるんだろうと思います。実際、高いストレスがかかっている時などは、脳が動きが鈍くなっていることがある。確かに、元気がないときは、世界にもやがかかったような状態になっています。それがこの速読の訓練を通して実際に脳が動き出し、スッキリして元気になる。そんなところなのではないでしょうか。

考えてみれば、脳に直接的に近い形で繋がっている器官といえば眼球です。眼球運動は、視野を広げるためだけだと思っていましたが、そうではなく眼球運動をすることでより直接的に脳を動かす、これは脳の潜在能力の開発にも役立つし、なんらかの原因で動きが鈍くなっている脳を動かすことにも、ダイレクトに影響があるということなのかもしれません。

ちなみに、実際に心理療法の世界でも、過去のトラウマを克服する治療法のひとつとしてEMDRという眼球運動を用いる研究があるようです。そもそもトラウマというものが問題なのは、現在ではなく過去に起きたことなのに、あまりにも衝撃的だったため、似たようなことが現在に起きると、まるで今起きたことにように体が錯覚してしまって、現在に様々な影響をもたらすからです。それによって人は苦しめられます。トラウマを感じているときに脳を調べてみると、ある種の活動を停止していたりすることがあるそうです。つまり、過去のトラウマによって脳が時に停止したり萎縮している状況に、眼球運動が脳を活性化し、過去と今は違うんだと冷静にさせてくれるということなのだと僕は理解しました。この理屈はある程度、納得感があります。

そのように考えると、眼球運動を訓練し、脳の潜在能力を高める速読、楽読という方法が、人の気持ちを安定させるというのはわからなくもありません。また楽読の場合は、速読というメソッドを使って、人とのおしゃべりをして人とのつながりも感じますので、人のつながりがより脳を元気にさせるというロジックもあるんだろうと思います。もし、これが本当に効果的なら、世の中を楽しむ人を一人でも増やしたいという面白法人の理念にも近いものがあります。そんな風に思いましたので、その後、楽読さんとの共同の実験を昨年何度かさせていただきました。

たとえばカヤックのエンジニア陣から、希望者を募り楽読を継続してもらうことで、以前よりエンジニアのコードが早くなるという結果にならないか、それを測定して実験する(測定方法が難しかったのですが)などなど。残念ながら数字で目に見えた効果は出せていないのですが、参加者の実感値としては皆頭がスッキリしたり、集中力が増したというアンケート結果が出ています。

そんな実験をしていたら、その話を聞きつけたNECさんからのお声がかかりました。

NECもどうやら社内でマインドフルネスを新規事業にしようと検討している部署があったのです。その方々と色々と話している間に、新しい事業を立ち上げることになりました。

それは、楽読のメソッドを使ってオンラインのメンタルフィットネスジムです。

オンラインのメンタルフィットネスジムとはなんでしょうか。僕らは体の健康のためにジムに行きます。それと同様近い将来、心の健康のためにメンタルフィットネスジムにいく。そんなことが当たり前になる世界が来る。それは心のトレーニングなので物理的な空間を必要とするジムではなく、オンラインで参加して自宅でトレーニングする感じになります。

常に心を整えておくためのジム。心の安定が成果に直結するスポーツ選手のような人はもちろん、日々のビジネスにおいても、安定した気持ちで取り組みたいあらゆるビジネスマンにも喜んでもらえるサービス。
コロナによって人のつながりが減り、鬱屈とした人が増えている今だからこそ、こういったサービスが必要ではないだろうか、ということでスタートしたサービスがこちらです。

NEC×楽読×カヤックが協業し、自宅メンタルフィットネスジム 「Botto(ボットー)」をテスト開校

何回か続けてもらえれば、自信を持って価値があると体感できるサービスではありますが、なんせ新しい概念すぎてチャレンジしてもらえる人がなかなかいないという難しさがあります。ただいま、初月無料で参加者モニターを絶賛募集中です。お待ちしております。

P.S.(追伸)
ちなみに、僕も自主的に、眼球運動は日々の習慣に取り入れています。これには、マインドフルネスにという意図もありますが、仮にその効果がなくても、老眼防止に役立つ実感があるからです。40代後半にもなってくると、老眼が進みますが、できる限り、本やスマフォを見るときに、この仕草はしたくない。

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そもそも老化とは、体が硬くなることを言います。よく老人になると頑固になると言いますが、頭が硬くなると頑固になります。頑固にならないためには、日頃カヤックが推奨しているブレインストーミングも、脳を柔らかくするので有効です。一方で脳に入る情報の大半は視覚から入ってくるので、眼球が硬くなると、入ってくる情報が狭くなります。柔らかければ視野も広がり多くの情報が入りますし、物事を柔軟に見ることができるようになります。

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