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2020.04.21

#面白法人カヤック社長日記 No.69
アフターコロナ時代の「住む場所、働く場所」を考える。『リビング・シフト』本文一部を公開。

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以前の社長日記でも少し書きましたが、3月18日に『リビング・シフト』という本を出しました。

リビング・シフトというのは、僕らの造語です。「誰とするか」「何をするか」に加えて、カヤックが大事にしてきた「どこでするか」。2002年から鎌倉に本社を置いているのも、「旅する支社」制度をつくったのも、ネット環境があれば、どこでも仕事できると考えているからです。

新型ウイルス感染症拡大防止の観点から、すごい勢いでリモートワークが広がっています。アフターコロナの時代には、みんなが大都市に通勤するのではなく、この本に書いたように、住みたい場所や働きたい場所を自分たちで選ぶ動きが加速化していくのではないかと思います。そして、会社というコミュニティの価値も見直されていくのだろうと思います。

原稿を書いていた昨年末には、世の中がこんな風になるとは、さすがに思っていませんでした。いま、本に書いた以上のものすごい勢いで、働き方はもちろん、産業や社会のあり方までも見直されていると感じます。

この本では、「リビング・シフト」つまり住み方や働く場所の変化が、働き方、地域と人の関係、コミュニティ、経済をどんな風に変えていくのか、ということを書いています。

その『リビング・シフト』の第1章の一部を公開します。どうぞお楽しみください。

第1章 東京vs地域 地方人気はなぜ生まれたのか

「場所の制約」から解放されるパラダイム・シフト

「ITベンチャーの経営者といえば、六本木の高層マンションに住んでいるんでし ょう?」

 少し前ですが、そう言われた時代がありました。かつて、時代の寵児となった起業家たちが六本木ヒルズに住んでいたことが話題になったからかもしれません。
 でも、時計の針を2020年に進めると、むしろ、こんなふうに言うのが正しいんじゃないかという気がしています。

「ITベンチャーの経営者といえば、地域に移住するんでしょう?」

 ちょっと極端かもしれませんが、実際、ある大手IT企業の社長は千葉の房総半島に手づくりで家を建て、広大な自然に囲まれて暮らしています。都心のマンションを売り払って、湘南や小田原、長野などに移住する経営者もたくさんいます。堀江貴文さんは、いまや定住のための家すら手放して、宇宙ビジネスを手がける北海道をはじめ、各地を飛び回りながらホテル住まいをしているそうです。サイバーエージェントの管理職だった市橋正太郎さんも、転職をきっかけに、〝アドレスホッピング〟という固定の住居を持たない移動生活を始めました。それまで持っていた家具などは売却し、持っていた本は電子化。普段使わないものは貸し倉庫に預け、 身の回りのものは18リットルのバックパックひとつにまとめて持ち歩いています。 ゲストハウスやホステルに泊まって、月に10万円前後かかるそうですから、お金がないから家を持たないわけでもなさそうです。

 そして、僕自身は、2002年から鎌倉に暮らしています。
 経営者に限った話ではありません。むしろ、こうした動きは若手ビジネスパーソンに顕著だと感じています。

「東京に住んでいたけれど、移住することにしました」
「二拠点生活を始めることになりました」
 みなさんも、まわりでこんな話を聞くことが増えているのではないでしょうか。
 僕らが住む鎌倉や逗子・葉山に東京などから移住してくる人も多いですし、仕事で地方に行くと「実は最近、移住してきたんです」「こっちに移住したいと思って、 下見に来ているところです」と言う人に会うことが、以前と比べて明らかに増えてきた実感があります。

 なぜでしょうか。

 まず、最大の要因としてはいうまでもなく、インターネットの技術が進んだことで、パソコンやスマホ一台あれば仕事できる環境が整備されてきたことが挙げられます。

 メールや Slack(スラック)などのメッセンジャーサービスで社内外のコミュニケーションを行い、メンバーが遠隔にいても、プロジェクトが進められるケースが増えています。テレビ会議は、ひと昔前は、つながらない・固まる・聞こえないといった問題がありましたが、品質の改善が著しく、目の前にいるのとあまり変わらない情報量でやりとりすることができるようになりました。2019年に上場した企業向けWEB会議サービスの Zoom(ズーム)なんかもかなり便利です。僕の知人の経営者は、自分がシンポジウムに登壇するときも、テレビ会議でつないで遠隔から壇上に登場しています。
 IT企業のビジネスは、比較的、こうした働き方と相性がいいのだと思います。

 パソコンやスマホがあれば仕事できるということは、場所の制約から自由になれるということです。高い家賃を払って都市部に住み続けなくてもいいので、だったら自分の好きな場所に移ってもいいんじゃないかということになります。

 もうひとつの理由は、移動に伴うコストの低下や技術の進歩です。LCC(格安航空会社)の普及などによって、移動コストが下がっています。地域を飛び越えて、 シンガポールやマレーシアに移住する人も少なくありません。最近、軽井沢や熱海から都内に通勤するビジネスパーソンが増えていますが、2027年にリニア中央新幹線が開業すれば、ますます住む場所の選択肢が増えます。
つまり、どこにいても仕事ができるようになる。 少し大げさに言えば、それは人間が「場所の制約」から解き放たれる時代へのシフトではないかと思うのです。

 産業革命以降、資本家が工場をつくり、それまで家のまわりで畑を耕したり、家内制手工業でものをつくっていた暮らしから、大きなシフトが起こりました。人々は工場の生産設備を使うために、毎日出勤するようになりました。工業化が進むにつれて、大きな工場が必要になり、自宅にいては対応できない仕事が増えたからです。

 けれども、インターネットの進化や産業構造の変化によって、パソコンやスマホ一台あればできる仕事が増えていったら、どうでしょう。

 わざわざ工場に行かなくても、産業革命前と同じように、自宅で仕事することができるようになります。
 ヘーゲルが言ったように、世界は螺旋的に発展する。まさに螺旋を一周回って戻ってきたような感覚です。もはや自宅を固定する必要さえなくなるかもしれません。自分の好きな場所に移り住んだり、季節ごとに快適な地域を選んで住むことだってできるようになるかもしれない。

 ある時代において、あたりまえとされているものの見方や捉え方のことを、パラダイムと言います。インターネットの進化によって、自宅やカフェで仕事ができるようになったことで、ワークスタイルはもちろん、どうやって住む場所を選ぶか、どうやって暮らすかという価値観もまた大きく変わっています。まさにパラダイムが変わろうとしているのです。
 そのパラダイムの変化を、僕たちは「リビング・シフト(住み方の変化)」と呼んでいます。

 東京はとても魅力的な都市ですし、実際、統計で見れば、今も東京一極集中が進んでいます。けれども「どこでも働ける」環境が整備されてくると、東京は、そのほかの地方都市と同じように「選択肢のひとつ」でしかなくなってきます。つまり、東京の絶対的な優位性というものが徐々に薄れて、みんなが好き勝手に自分の住みたい場所、働きたいところを選んで、ワークライフスタイルを組み立てるようになる。
 その結果として、やはり東京などの大都市部に住むことを選ぶ人もいれば、「別に東京じゃなくてもよかったんだ」と移住を選ぶ人もいる。あるいは最近増えているように、平日は都市部で働いて、週末だけ郊外の家で暮らすといった、二拠点居住・多拠点居住を選ぶ人もいます。ITベンチャーの経営者や若者たちの動きは、一部の例外的な現象ではなくて、これから来るべき時代の大きな変化の始まりなのではないか。そう思うのです。

 もちろん業種や働き方によって「そんなことは言っていられない」と言う人もいます。飲食店や医療、介護など、目の前にお客様がいる仕事などは特にそうですし、 警察・消防などもそうでしょう。
 けれども、遠隔医療や行政窓口のオンライン化が進み、少しずつ、これまでの場所の概念が変わりつつあります。人気シェフが「旅するレストラン」を各地で開催しながらあちこち移動することも、あたりまえになるかもしれません。多くの人が週五日会社に通って、その近くに家を構えて、一生住むというスタンダードが変わろうとしている。
 そんな時代になってきていると思うのです。

住む場所を選ぶ「モノサシ」が変わっている

 そんな時代のシフトもあって、僕らが活動拠点にしている鎌倉や逗子・葉山にも、これまで以上に移住者が増えています。渋谷・新宿・池袋まで一本で結ぶ湘南新宿ラインの本数も増えて、都心に通勤しやすくなったことも、その要因のひとつです。

「鎌倉や逗子・葉山に移住してくる人たちの共通点はなんだろうか?」

 地元の仲間たちと話していたとき、そんな話題になりました。
 自然の美しさや、オン・オフの切り替えのしやすさなど、いくつかの理由が挙がりましたが、みんなの意見が一致したのは、「必ずしも合理的でない、自分だけのこだわりやモノサシを持つ人が集まりやすいのではないか」というものでした。

「鎌倉から東京まで横須賀線で一本とはいえ、一時間かかるしね」
「自分の時間単価を高めたいという価値観を優先する人は、都内に住む方がきっといいよね」

 と話したのを覚えています。
 海の近くに住みたいからとか、トレッキングが好きだからとか、子どもが小学校に上がる前に、豊かな自然環境のあるところに移りたいからといった理由で移住してくる人もいます。

 効率を追求するなら、やっぱり東京はとても便利です。効率がいいとか便利というのは、どういうことなのか。別の言い方をすると、スピードの速さということになるのではないかと思います。

 これは自分の体感としてもそうですし、皆さんも地方に行くほど感じると思うのですが、それぞれの地域で流れている時間のスピードが違うのです。鎌倉にも「鎌倉時間」と呼ばれる時間があります。住んでみてわかるのですが、東京に比べると明らかにゆったりしている。
 企業にとっては、スピードを優先することが合理的な選択になりますから、都市に拠点を置いた方がいいということになります。一方で、個人においてはどうでしょうか。「鎌倉時間」を一度体験してしまうと、より人間的で、これまでいかに自分が急かされてきたのかが見えてしまう。自分にとってはスピードよりも大事なことがある。そうした自分ならではのこだわりやモノサシがあるから、わざわざこの界隈にやってくるということになります。

 つまり、多くの人が、従来の経済合理性では測れないものの価値を自分のモノサシで計り、自分の住みたい場所を選んで、移住しているのです。

 学校を出たら、まず会社に勤める。定年までその会社で勤め上げることを前提に、なるべく通勤しやすいエリアに家を買い、住宅ローンを組んで、30年か40年かけて返済する。あるいは転勤の辞令を受けて、会社の決めた地域に住む。数十年前は、そんな住まいの選び方が「王道」ともいうべきものでした。
 言ってみれば、自分の勤め先を中心にして、通勤一時間とか二時間以内という円をコンパスでグルッと描いて、その中でなるべく自分の経済的条件に合った物件を探す。そのコンパスと経済的条件が、住む場所を決めるための言わばモノサシでした。けれども、そうではないモノサシを持つ人たちが少しずつ増えている。この数年、そんなふうに感じるのです。

 まず、自分が実現したいワークライフスタイルが明確にある。
 どこに住んで、どんな毎日を送りたいか。そのイメージに沿って、住みたい場所を選び、働き方を組み立てる。
 もちろん鎌倉に限った話ではありません。熱海や房総、長野などに住居を構えて、週に何度か上京するというビジネスパーソンの話は、もはや珍しいものではなくなってきました。それぞれ自分ならではのモノサシで、その地域を選んでいるのだと思います。
 まだ大多数ではありません。でも、そうした人たちを「変わり者」と言って済ませることはできないくらいには、自分のまわりにも増えてきている。そう感じている方も多いのではないでしょうか。

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