新刊『鎌倉資本主義』の「はじめに」と第一章を全文無料公開します。 | 面白法人カヤック

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2018.11.16

#面白法人カヤック社長日記 No.47
新刊『鎌倉資本主義』の「はじめに」と第一章を全文無料公開します。

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鎌倉から、地域ならではの新たな資本主義のかたちを発信できるのではないか。そう考えて「鎌倉資本主義」について、少しずつ発信を始めたのは、去年のことです。

地域には、豊かな自然だったり歴史だったり、ごはんがおいしかったり、人と人のつながりがあったり、さまざまな独自の魅力があります。そうした資本を、目に見えるかたちに指標化し、企業や自治体が連携して増大していくことで、持続可能な新しい資本主義を実現できるのではないか。そんな考え方です。

一年以上、いろいろな人たちの力を借りながら考えてきた「鎌倉資本主義」を、このたび、一冊の本にまとめました。

11月29日の発売に先がけて、書籍の「はじめに」と第一章を全文無料公開します。

正直、まだ完成されたものではありません。完成には、長い時間がかかるのだろうと思います。ただ、なぜカヤックが鎌倉にこだわるのか、「まちの社員食堂」などのコンテンツがどのように生まれ、どのように運営しているのか、なぜ面白法人がこのテーマにこだわるのか、現段階で言語化できることをすべて書いたつもりです。

12月10日には、アカデミーヒルズで、鎌倉仲間でもあるWIRED日本版編集長の松島倫明さんと出版記念セミナーを行います。

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鎌倉資本主義

ジブンゴトとしてまちをつくるということ

はじめに

面白法人カヤックは、2018年11月26日、鎌倉へ帰ってきました。

カヤックの本社は2002年以降、ずっと鎌倉にあるので「帰ってくる」というのは少し変な言い方になりますが、組織拡大とともに手狭になって、ここ数年は主要拠点を横浜へ移していました。このたび新しいオフィスが完成して、数百人の社員が鎌倉に戻ってきました。

「なぜ、鎌倉なんですか 」とよく聞かれます。答えは簡単で、僕を含むカヤックの立ち上げメンバー3人が、学生時代に好きだった場所だからです。誰も鎌倉出身ではないのですが、起業した頃から「いつか鎌倉に住んで、鎌倉で働こう」と思っていました。

そんな鎌倉にこの春、新しい「場」をつくりました。地元で働く人たちみんなが、美味しい朝食で1日のエネルギーを蓄えたり、ランチミーティングをしたり、軽く飲みながら交流を深めたりできる「まちの社員食堂」です。この食堂が面白いのは、料理は週替わりで、地元のレストランが提供しているという点です。

オープン以来、たくさんの取材をいただき、日本全国の自治体や企業、国の行政機関などから多くの視察が訪れています。

なぜこんなにたくさんの人たちが、「まちの社員食堂」に興味を持ってくれるのか。それには、2つの理由があると思っています。

1つは、僕たち面白法人が得意としているアプローチで社員食堂を再構築したこと。つまり「普通」の社員食堂のつまらない部分はどこなのか、どうすれば面白くなるのかを徹底的に考えて、その逆をいく社員食堂を開いたのです。カヤックが自社社員のためだけに社員食堂をつくったのであれば、これほど注目されることもなかったでしょう。

そして興味を持ってもらえるもう1つの理由は、「まちの社員食堂」 はその名の通り、地元企業や飲食店などを巻き込み、新しい地域活性化コンテンツになっているということ。しかも、そこにはこれからの資本主義を考えるうえでのヒントが詰まっているということです。

面白法人として、どのような思考プロセスでこのコンテンツを生み出したのか、そしてこのコンテンツのどこが新しい資本主義へのヒントになり得るのか、この本ではそれを詳細に解説します。

そして「面白」を追求することが、結果として、新しい資本主義につながっているということもお伝えしたいと思っています。

Part 1 資本主義が面白くなくなった?

日本中が 東京にならなくてもいい

僕たちは面白法人と名乗り、面白い社会をつくっていきたいと考えています。

面白いってどういうこと? と聞かれたら、まず「自分たちが楽しんでいるかどうか」と答えます。そして、楽しんでやっていることに「オリジナリティ」 や「個」があることです。

そのためには、いろんな人がいていいし、いろんな人がいなくちゃダメだと思います。同じような人が、同じような格好をして、同じようなことをしゃべって、同じようなことをしていたら、全然面白くないですよね。

だから、カヤックは「面白さ」を「多様性」と考えています。

地方都市にいくと、"リトル東京"のようなところが少なくありません。東京はたしかにすばらしい都市ですが、日本中が東京のようになったら、ちっとも面白くない。

僕たちが面白いと考えるのは次のような社会です。

多様性が認められる社会
すなわち一人ひとりが輝く社会
一社一社が特徴的である企業社会 地域ごとに特徴がある地域社会

鎌倉は都心から離れているぶん、不便です。東京のように「何でも」揃っているわけではありません。それでもここに住みたい、ここで働きたい、という人は、きっと「平均」からはズレている人たちです。だからこそ面白い。

誰もが東京を目指すのではなく、地域がそれぞれの個性を強みとして繁栄していく地方創生は面白い。そして、地方創生に取り組むことは、いま資本主義 が抱えている課題に取り組むことそのものではないだろうか。

鎌倉で活動するうちに、そんな仮説を持つようになりました。

従来の資本主義が抱えている課題について、多くの人がたくさんのことを語っています。僕も専門書籍も含めて何冊か、それに関する本を読んでみました。そのうえで、いま資本主義が直面している最大の課題を挙げるとするなら、次の2つになると思います。

・地球環境汚染
・富の格差の拡大

なぜ、このような問題が生まれるのか。それはGDP (国内総生産)という単一の指標を企業や国が追い求め過ぎていることに起因しているのではないかと思いました。 GDPは経済活動の状況を示す指標ですが、この一世紀近く、経済的な豊かさを測るための指標としても使われてきました。GDPが右肩上がりで成長し続けることが、よいことだとされてきました。

でも、本当にGDPだけが豊かさの指標になるのでしょうか。

たとえば、鎌倉などの地域に住んで、職住近接のワークライフスタイルを実現する。地産地消の食材を楽しむ。コミュニティでつながりが生まれて、金銭の介在しないプロジェクトをみんなで立ち上げて、自分の住むまちをよくしていく。

そうした活動は、GDPの増加には貢献しません。職住近接ではなく、多くの人たちが長距離・長時間の電車通勤をするほうが、輸送にお金が使われるぶん、GDPは増加します。地元でとれた食材を食べるより、海外から飛行機で 輸入した食材を消費するほうが、GDPは増加します。

でもそれって、なんだかおかしくありませんか? 通勤時間は短いほうが疲れないし、地元の食材のほうが輸入品より安くて新鮮です。 GDPだけを見ていると、こういうちょっとした矛盾が積み重なって、結果的に大きな問題になってしまう。そういうことなのだと思います。

東京一極集中だけではなく、地域での生活や仕事を多様化していくこと。そんな取り組みのなかに、従来の資本主義が直面する課題を解決するヒントがあるのではないかと思うようになりました。

その直接のきっかけとなったのは「カマコン」という地域団体での活動でした。

ジブンゴト化すると 面白くなる

面白法人が面白くあり続けるためには、鎌倉という土地の力が必要です。だから、ずっと鎌倉に元気でいてもらわなければいけない。よりよい地域になるよう、自分たちがもっと主体的に関わることができたら、もっと面白くなるはず。そのためには、何をしたらいいのか。

5年前にカヤックをはじめ鎌倉に拠点を置くベンチャー企業の経営者が、鎌倉をもっと元気にすることを目的に、地域団体「カマコン」を立ち上げました。 現在メンバーは150人近くになり、毎月1回、鎌倉で定例会を開いています。

定例会では、有志がプロジェクトを持ち寄ってプレゼンし、全員でブレインストーミング(ブレスト)を行って、どうしたらそれが実現できるか議論します。

このカマコンから、さまざまなプロジェクトが生まれました。さきほどご紹介した「まちの社員食堂」もその1つですし、地元のお寺でミツバチを飼育して採れた鎌倉産のハチミツの商品化、地元の市議会選挙に投票に行くと、帰りに人力車に乗れるキャンペーン、地元の風景の今昔を比べられるアプリなど、どれも鎌倉という土地と密接に結びついたものです。土地に密着したプロジェクトが生まれることで地方創生にもつながっていきます。

なぜ、手弁当にもかかわらず、ユニークなプロジェクトが次々に生まれ、実現していくのか。その詳細なメカニズムは後ほど解説しますが、とにかく僕自身も含めて、カマコンに参加している人が口を揃えて言います。「楽しい」と。 カマコンを通じて自分の住んでいる地域の課題を「ジブンゴト(自分ごと)」化 すると面白くなってくる。「面白い」には人を動かす力があるのです。

カマコンという活動を通してわかったことがあります。

ボランティア活動を通して地域のコミュニティにも積極的に参加し、自分たちの住むまちを自分たちでよくしていくことは、精神的な満足感に直結しているということです。

僕は自分で会社を起業したので、毎日が決断の連続であり、主体性を持って自分の仕事に取り組んでいます。だからどんなに忙しくても最高に楽しい毎日を送っていましたが、地域のコミュニティに参加すると人生が2倍どころか3倍楽しくなりました。

この経験から、人の幸せ度を上げていくためには、地域コミュニティにヒントがあると思うようになりました。

さきほど従来の資本主義の限界という話をしました。新しい資本主義を考えるとしたら、大前提として人の幸せ度を上げるようなものでなければならないと思います。

GDP以外にもモノサシを持とう

僕は経営者ですから、会社を成長させたいし、経済成長を否定するつもりはまったくありません。企業は、資本主義という経済体制のなかで、ルールを守って利益を出している限り存続を許されます。ゲームのように勝敗のある世界であり、資本を増やして成長し続けることは、単純に面白くもあります。

ただ、それだけを追い求めていてもどうも面白くない。経済成長を重視しながらも、同時に、精神的な豊かさや幸福感を増やしていくことがこれからの社会に必要ではないか。いまさら限界論を持ち出すまでもなく、多くの人が肌で感じていることではないでしょうか。

個人がそう感じているのであれば、企業もそれに対応していかなければなりません。つまり、定量化された指標を追い求めることで資本を増やすという、株式会社の得意とする仕組みを使って、個人の「幸せ度」にリンクする好循環をつくれたら、もっと面白くなりそうです。

GDPという指標は、物質的な豊かさとリンクすることから、戦後復興から高度成長期にかけて、各国はそれを増大させることに邁進してきました。けれども、 GDPの増大が豊かさと直結するわけではないことに、多くの人が気づいています。またGDPだけを追い求めた結果として、先ほど指摘したような「地球環境汚染」と「富の格差の拡大」といった大きな問題が起きています。 そろそろGDPに代わる、あるいはGDPを補足する新たな指標が必要ではないだろうか。それはどうやら地域コミュニティに関連したものになりそうだ。 そう直感したのです。

それでたどり着いた1つのコンセプトが、地域を中心とした新しい資本主義のかたち、「鎌倉資本主義」です。

「地域資本」という 考え方

とりあえず「鎌倉資本主義」とネーミングしてみたものの、自分ひとりで考えるには限界があります。そこで、経済や地域活性化の分野に詳しい人たちに一緒に考えてもらおうと、2017年10月、「鎌倉資本主義を考える日」 というイベントを開催しました。気鋭の起業家やファウンダー、経済学者、鎌倉の老舗企業の経営者、カヤックと親しくさせていただいている人たち、そしてカマコンの仲間たちなどに、鎌倉の建長寺に集まってもらいました。

そこでの議論から見えてきたものが「地域資本」という考え方です。

僕たちが考える「地域資本」は次の3つの資本で構成されています。

・地域経済資本― 財源や生産性
・地域社会資本― 人のつながり
・地域環境資本― 自然や文化

従来資本主義における資本や売上に当たる部分が地域経済資本です。それに、地域社会資本と地域環境資本の2つを追加して、地域資本と定めます。

この3つの資本をバランスよく増やしていくことが人の幸せにつながる。そのために企業、行政、といった地域のステークホルダーが一緒になって取り組む。

これが鎌倉資本主義の骨子です。経済資本以外の2つの資本は、これまであまり定量化されてこなかった価値です。こうした新しい価値は、従来のお金(法定通貨)だけでは、おそらく測れません。それもあって、この本では新しい 金の話にも少し触れます。

鎌倉資本主義は、いわゆる短期的な経済合理性だけを追い求めるのではなく、 地域資本という価値を新しいモノサシで測ることによって、より持続的な成長 を目指す。その結果として、地域の多様な発展を推進し、従来資本主義の課題 である「地球環境汚染」と「富の格差の拡大」の解決につながっていく。いわば持続可能な資本主義です。

この3つの資本をどのように増やしていけるのか。 それを測るためにはどんな指標が必要なのか。

この本では、そのための取り組みと考え方を紹介していきます。

ちなみに、僕たちは鎌倉から地域資本主義を発信していきたいと考えて、「鎌倉資本主義」という言葉を使っています。今後、鎌倉に限らず、さまざまな場所ごとの地域資本主義が発信される。そんな社会になったら面白いと思っています。

この広大な計画は、始まったばかりです。これからかたちにしていく段階ではありますが、多少なりとも似たようなことを考えている仲間のヒントになり、社会をもっと面白く、元気にするための きっかけとなってくれればうれしく思います。

当日記の無断転載は禁じられておりません。大歓迎です。(転載元URLの明記をお願いいたします)

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