周りの「できるんじゃない?」に乗っかる越境── 佐藤謙太に見る、やりたいことがない人のキャリア | 面白法人カヤック

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2026.11.04

#越境社員インタビュー No.3
周りの「できるんじゃない?」に乗っかる越境── 佐藤謙太に見る、やりたいことがない人のキャリア

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採用担当としてカヤックに入社し、2010年代後半の採用を担ってきた佐藤謙太(以下、さとけん)。2019年、eスポーツ大会プラットフォーム「Tonamel(トナメル)」のマーケティングへ異動し、大会数を10倍以上に伸ばした。その後はグループ人事の部長として人事の領域に戻り、いまは社外企業の人事支援にも入っている。
本人に、手を挙げた記憶はない。異動はいつも、周りの「さとけんなら、できるんじゃない?」から始まった。
では、周りはなぜそう思ったのか。実は、そのとき声をかけた側の一人である聞き手・丹治拓未(管理本部長)にも、理由がよくわかっていない。シリーズ第3弾は、その答えを本人と一緒に探すところから始めた。

「さとけんなら、できるんじゃない?」

― Tonamelでコミュニティマーケティングをやれる人が必要になったとき、外から専門の人を採るんじゃなくて「中にいるんじゃないか」という話になったんです。そのとき、僕ともう一人が真っ先にさとけんさんの名前を出した。でも正直、なんでだったのか、自分でもよく覚えていないんですよ。

僕も覚えてないです(笑)。そもそも、自分が「できそう」かどうかも、あまり考えていなかったので。

― 考えてなかったんですか。

迷ったのは、「ここまで採用をやってきたのに、採用の仕事を離れるのはどうなんだろう」ということくらいです。講演もしていたし、採用担当も育ててきた。思い入れはありました。でも、じゃあ採用一本で食っていきたいかと考えたら、別にそこまでじゃないな、と(笑)。

― 二つ返事だったので、声をかけた側が驚きました。

僕より周りの方がわかっていたんだと思います。「佐藤ならいけるんじゃないか」と言ってもらえるなら、行こうかな、という順番です。
僕は、仕事で成し遂げたいことも、やりたいことも本当にないんですよ。だから、カヤックみたいなブレストの会社で「さとけんさん、これできると思うよ」と言ってもらえるのは、めちゃくちゃありがたいんです。

― じゃあ今日は、あのとき僕らがなんで名前を出したのか、一緒に探させてください。

お願いします(笑)。

「失礼だ」から始めたゲーム

― Tonamelの前から、ゲームとの接点はあったんですか。

ありました。初めてグループ会社の仕事をしたのが、eスポーツの会社・GLOEがグループに入るタイミングで。採用を手伝うことになったんです。いまGLOEの管理本部をみている川瀬さんが、たぶん僕の採用第1号です。
ただ、その川瀬さんとの面接で、言っていることがまったくわからなかった。

― まったく?

出てくるゲームのタイトルも、大会の名前も、何ひとつわからない。それで「国境を越えてコミュニティを盛り上げようと行動されてきたのはすごいことだと思いましたし、私の面接としては代表面接にぜひ進んでいただきたいのですが、専門用語がわからないので、代表に伝えるためにメモを取らせてください」と言いました(笑)。

― 面接する側が、それを言うんですね(笑)。

言いました。でも面接が終わってから、すごく反省したんです。「eスポーツの仕事がしたい」と熱量高く来てくれた人を、ゲームのことを何もわからない人間が面接している。これはめちゃくちゃ失礼だな、なんとかしなきゃ、と。
それで、代表に「何をやったらいいと思いますか」と聞いて、ゲームを始めました。最初は「クラッシュ・ロワイヤル」で、ゲームは苦手なりに、上位のランクと言えるところまでやった。それが名刺代わりになりました。

― 「勉強します」で終わる人は多いと思うんです。そこまでやる人は、なかなかいない。

相手は本気で来てくれているのに、こっちが対等じゃない。それが嫌だったんだと思います。

ゲーム大会・イベント運営支援プラットフォームTonamel

いちばん苦手なゲームで、仲間になる

― Tonamelに行ってからは、朝いちばんに出社してスマブラをやっていましたよね。最初に見たとき、正直びっくりしました。あれは何だったんですか。

大会プラットフォームを運営する側として、自分も競技シーンに出て、プレイヤーと同じ目線で向き合うのが礼儀だと思ったんです。それで選んだのがスマブラなんですけど、実は、いちばん苦手なゲームなんです。子どもの頃「下手だから」と仲間に入れてもらえなかったことがあって(笑)。
仕事も家庭もあったので、オンラインが中心ではあったのですが、大会も出ましたし「スマメイト」というプレイヤーレーティングで1551までいきました。1500スタートなので、スマブラをやっている人から見れば強いとは言えませんが、「ちゃんとやってます」と言えるくらいにはなった。営業でも海外展開でも、「ちゃんとスマブラやってるんだよ」と言うと、仲間として見てもらえるようになりました。

― でも、マーケティング担当がゲームを上手くなる必要って、普通はないですよね。なんでそこまで。

当時はeスポーツが急に注目されて、いろんな会社が「うちもeスポーツを」と押し寄せていた時期でした。
でもコミュニティの人たちからすると、ずっと「ゲームなんて」と言われながら、好きで大会を続けてきたわけです。そこに、自分も含めて、外から来た人間が急に「ビジネスにしましょう」とやってくる。警戒されて当然なんですよ。
だから、まずは仲間に入れてもらうしかなかった。コミュニティやマーケティングだと言っても、ちゃんとゲームをやって、ちゃんと話を聞く。それで「この人は大丈夫だ」と思ってもらえて、初めて話が始まるんです。

― ゲームに限らず、新しい領域に入るときはいつもそうなんですか。

そうですね。まず勉強してから行きます。だいたい本を4〜5冊は読んでいく。教育ビジネスなら、スクール事業を成功させた経営者の本を一通り。サッカーの仕事のときは、Jクラブの経営に関する本を一通り読みました。
人から聞ける話はミクロなんです。本でマクロな見方を持った状態で話を聞くと、整合性が見えてくる。相手のビジネスをちゃんと理解して行くのは、信頼関係をつくるための一つのやり方だと思っています。
逆に、こっちはしっかり準備していったのに、向こうがあまり考えていないと、テンションは下がりますけどね(笑)。

採用でもコミュニティでも、やっていることは同じ

― 話をTonamelに戻すと、当時のPMが「絶対無理だと思った目標を、さとけんさんのおかげで普通に達成していて驚いた」と書いていたのを、よく覚えているんです。2019年に入って最初の四半期で大会数が3倍になって、2022年に離れる頃には10倍以上になっていました。何が効いたんでしょう。

実は、どう解いたのか、あまり覚えていないんです(笑)。
ただ、あとで柴田さんに言われて腑に落ちたことがあって。ゲームコミュニティ向けのサービスを広げるには、キーマンを見つける必要がある。そのキーマンの見つけ方がうまいのは、採用のときから同じだ、と。事業にこういう課題があって、こういう人が必要だとなったときに、「できる人はおそらくここにいる。しかも、誰々さんの周りにいるだろう」という見立ての精度が異常に高い、と言われました。

― それ、横で見ていてもすごくわかります。しかも見つけるだけじゃなくて、その人に気持ちよく動いてもらうのがうまいんですよね。

マーケティングでいう「オーソリティを取る」に近いと思います。「この人がいいと言っているから使う」の「この人」が誰かを見つけて、その人が、こっちと一緒にやりたくなる理由をつくる。
これは、採用でもずっとやっていたことなんです。

― 採用でも?

たとえばヘッドハンターの方々。優秀な人ほど、目標を早めに達成したあとは「業界を育てたい」という信念で仕事を選ぶんです。カヤックくらいの規模の案件は、本来その人たちがやっている場合じゃない。だから、その「信念側」の優先順位に入れてもらう。相手が何を実現したいのかを聞いて、そこに乗るんです。
グループ会社の社長を2ヶ月で採用できたのも、それでした。九州に、ずっと一緒に仕事をしたかったヘッドハンターの方がいたんですが、「福岡にコミットする」という軸を重視していて、何度も断られていた。ところが久しぶりに会ったら、「東京から地方へ人を動かすことに、本気で取り組みたい」と熱く語ってくれて。だったら面白いことになるかもしれない、と思ってうちの代表と会う時間をつくって熱量を共有した。そしたら、子会社の採用がすっと決まりました。

― 職種の名前は違っても、やっていることは「この人と一緒にやりたい」と思ってもらう関係をつくること。

そうですね。採用でもコミュニティでも、やっていることは同じだと思います。先に相手が実現したいことを聞いて、信頼関係ができてから、こちらのお願いをする。

自分がされて嫌なことは、しない

― 相手と対等に立つ、という話が何度も出てきます。その感覚は、どこから来ているんですか。

根っこにあるのは、人事がすごく嫌いだったことなんです。就職活動を通じて、働くこと自体が嫌になってしまった。新卒で入った会社は、1ヶ月で本当に働くのが嫌になって、行かなくなりました。6月の給与明細はマイナス300円です(笑)。
人事の人が会いに来てくれて、「本当に働くのが嫌で、就活のときから嫌で、なんならこの会社に来るのも嫌でした」と正直に話したら、「じゃあ、みんなが来たくなる会社をつくるのはどうか」と言われたんです。いい人ですよね。それで丸め込まれて、人事として復帰しました(笑)。

― 人事が嫌いなまま、人事を始めた。

嫌いだけど、やる。やるからには、プロとしてあるべき姿を求める、という感覚です。
当時の人事って、ヘッドハンターや人材紹介会社の方を下請けのように扱ったり、学生にマウントを取ったりすることが少なくなかった。自分がされて嫌だったことを、人にやっている。それがすごくダサいなと思っていたんです。
だから、カヤックに来て最初に内定承諾率の改善をやったときも、候補者の方と企業が対等の関係になるような選考設計から始めました。「会社としてはこういうことを期待している。あなたは会社に何を期待しますか」と聞く面談に変えたら、30%くらいだった承諾率が、一時期80%まで上がりました。カヤックには僕が入る前から「カヤックを変えてください」という、中途採用のメッセージがありました。なので、施策の導入はみんなに「いいね」って言ってもらえてスムーズに進められましたし、「変えた」というよりは、メッセージがよりよく伝わる設計にしたという感じです。

― ゲームコミュニティに入っていったときの話とも重なりますね。上下関係を作らず、相手と対等に向き合う。

言われてみると、そうかもしれません。そこは全部つながっている気がします。

「戻ってきた」のではなく、ホームが広がった

― マーケのあと、グループ管理部を経てグループ人事をつくり、部長に。人事の領域に戻ってきたとも言えますが、ご自身の感覚としては。

「帰ってきました」という感じではないですね。ホームを広げてきた、という感覚の方が近いです。
こちらに戻ってからも、グループ会社の人との1on1は続けています。そのせいか、グループ会社からカヤックへの思いなんかも、なぜか僕のところに集まってくるんです(笑)。

― しかも、その情報を上手に使っていますよね。

「この人に相談すれば、直接は解決しなくても、何らかの形でぐるっといい方向に動かしてくれるだろう」。そういう期待感は、つくれているんだと思います。

― 事業側から見ると、話が通じる人事がいる、というのも大きい気がします。

それはあるかもしれません。最近は、新しく事業部長になった人と、HRBP(HRビジネスパートナー)っぽい1on1をしています。組織面の相談相手がいないと、実現できないことがあるはずなので。話してみると、組織が最優先の課題ではなくて「そもそも目標をどう設定するか」という話になることもあります。
一度、事業側に入って業績を伸ばした経験があるので、事業の人が何に悩んでいるかが、実感としてわかる。それが信頼につながっている感覚もありますね。

― 社外の会社の人事支援に入ってもらったときも、驚きました。「今年の採用は見立てが一切立っていない」という状態から、1ヶ月で人が入社していた。内定じゃなくて、入社です。

あれも、最初にやったのは相手の状況を聞くことでした。「いま面接している人の中で、内定を出せそうな人は何人いますか」と聞いたら「一人もいない」と。じゃあ承諾率の話じゃなくて、まず応募を集めるところからですね、と。

― 場所が変わっても、入り方は同じなんですね。あのとき僕らが真っ先に名前を出した理由が、少しわかった気がします。どこに行っても、まず信頼関係をつくって来れる人だったからなんだ、と。

自分ではわからないですけど、そう見えていたなら、乗っかってよかったです(笑)。

信頼があれば、アイデアはやってくる

― この連載は、管理系の仕事をしていて「このままでいいのか」とモヤモヤしている人に届けばと思っています。そういう人に、何か言うとしたら。

カヤックは、やっぱりブレストの会社なんだと思います。僕だけが特別に機会をもらっているわけじゃないんです。
たとえば、ゲーム事業部で「マーケターを一人採用したい」という話があったとき。採用はどんどん難しくなっているので、まず「社内にできる人はいないのか」を壁打ちしていたら、「経理の千葉さん、ゲームのマーケにめっちゃ向いてると思うんですよね」という話が出てきたんです。

― 経理から、ゲームのマーケ。

結局、彼はゲームのマーケには行かず、いまは経理部の部長になっています。決算を通年で3回くらい回さないと「経理をちゃんとやった」とは言えないから、まずはそこをやり切る、と。でも本人は興味を持って、前向きに検討していました。こういうアイデアを、みんなが日常的に探している会社なんです。

― 一方で、難しさもありますよね。

あります。「カヤックなら自由だろう、これをやらせてもらおう」と入って、周りの信頼を得る前に空回りしてしまうケースも多いです。ちゃんと信頼を得ると、みんなからアイデアも来るし、新しい挑戦の機会もあると思います。

― いまの領域で自分なりの成果は出せている。でもこのままでいいのかとモヤモヤしている人には、ちょうどいい環境かもしれませんね。

そう思います。すでに力を発揮できている人なら、自分で「こうしたい」と言えば検討してもらえるし、周りからも提案してもらえます。

― やりたいことがなくても、ちゃんと前に進める。

そうですね。僕の場合は、それでここまで来ました。
(写真 岩瀬茂樹)

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