未知の分野を、マネジメントする ──柴田史郎、「専門家にならない」という選択 | 面白法人カヤック

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2026.08.31

#越境社員インタビュー No.2
未知の分野を、マネジメントする ──柴田史郎、「専門家にならない」という選択

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人事部長から、総務・情シス・法務・経理・財務などを束ねる管理本部長へ。管理本部長を兼務したまま北海道下川町役場へ派遣され、二拠点居住。その後、札幌のグループ会社・カヤックメガの社長。そして現在は、100億円規模のブランド&マーケティングユニットの責任者。

面白法人カヤックの柴田史郎の経歴を並べると、脈絡のない異動に見えるかもしれない。実務として経験があるのは、実は人事だけだ。
けれど本人に言わせれば、そこには一本の筋がある。しかもその筋は「やりたいことがあったから」ではないという。
聞き手は、シリーズ第1弾にも登場し、柴田から管理本部長を引き継いだ丹治拓未。

専門性を深めるより、別の場所で使いたい

― 柴田さんは、人事、管理本部、自治体、子会社経営。傍目には脈絡のない異動に見えるんですが、ご自身の中ではどういう筋を通しているんですか。

専門性を高めていくことより、違う領域に飛び込んで、前の分野との共通点を見つけて、そこから価値を生み出す。そっちの方が好きなんだと思います。
まず、私はカヤックに人事として転職しました。面白法人は、従業員の「非金銭報酬を活かす会社」としては日本でもトップクラスだと思います。具体的な施策もやったし、抽象的な方針もつくれた。本来なら、その経験を活かしてもっと大きな企業で実践してみるとか、大学院で研究するとか、人事コンサルになるとか、専門性を高める方向もありえたはずなんです。
ただ、そこに魅力を感じられなかった。

― 深めない理由って、何かあるんですか。

正直言うと飽きちゃうんですよ(笑)。
新しいことを始めると、最初の2年くらいは「探索する楽しさ」だけで満たされる。でも、周りから見える形で成果が出るまでには、だいたい5年かかる。その5年待っている間、私の中ではもう答えが見えているので、探索の欲求が満たされなくてつまらなくなるんです。
だから、前のフェーズの成果を出しながら、別の場所で新しい探索を始める。この両立をずっとやっている感じです。

― 「探索」と「成果」を、別の場所で同時に走らせている。

そうです。管理本部長になった瞬間も、人事以外で何を出そうかなと色々やって、2年くらいで「これでいけるな」と自分の中で見えた。そこから先の3年は、周りに見える成果を出すための時間なので、正直つまらなくなる。その時期に下川町の地域おこし企業人の話が来たので、二つを重ねられたという順番です。

実務未経験の分野を、何を根拠に判断するのか

― 管理本部長は、経理も法務も情シスも管掌します。人事以外は実務未経験で、部下は全員その道の専門家。僕も柴田さんの後で同じ場所で壁にぶつかったんですが、柴田さんは何を根拠に判断してたんですか。

そこは私も壁にぶつかりました。
管理職には、自分が実戦経験のある分野を担当する場合と、未経験の分野も担当する場合がある。カヤックの管理本部長は完全に後者です。課長のようには対応できない。
このとき、管理本部長が財務出身であることが多い理由もわかりました。株式会社の活動はすべて「お金」に換算して説明できるので、財務の知見があれば、財務的インパクトで各部署の成果を定義できるんです。
でも私が持っている武器は人事の知見しかない。カヤックは組織論の会社で、従業員の力を最大限活用する会社だから、財務と同じように人事の知識を使ってすべての活動を判断してもいいんじゃないか、と考えました。根拠はないです。そう決めただけで(笑)。

― 面白いですね。僕は自分の役は「チェンジマネジメント」だと決めてやってるんです。専門性はわからなくても、方向と構造と判断はつくれる、と。使っている技は違うけど、「その領域の専門知識ではないもので判断している」という点は同じかも知れない。実際、人事の知見はどこまで転用できましたか。

そこは思ったより広かったと思っています。
人事には「トータルリワード(総報酬マネジメント)」という、金銭報酬と非金銭報酬をうまく混ぜて成果を出すという考え方があります。これはかなり適用範囲が広いので基本の考え方になっています。
同時に、同じくらい広いテーマとして、「利益という成果が出せない管理部門は、どのように成果を定義すべきか」を設定しました。私が管理本部長のときのテーマはこれが本筋です。

― そのテーマは、どこから出てきたんですか。

個人的な体験が元になってます。
昔「人事部のKPI」というテーマで講演したことがあって。その後の懇親会で、参加者の皆さんから「自分たちはこんなに頑張っているのに、まったく認められない」という、ものすごい強い怨念を感じたんですよ(笑)。
あの怨念って、要するに「成果が定義されていないから、認められようがない」ということだと思うんですよ。だったら、まずそこを定義するのが先だなと。それが管理本部長のときのテーマになりました。

― たとえばどんな定義をしたんですか。

2023年に経理部向けにつくったものはこれです。

上場企業の水準に達していない会社を買収して成長するのが、今後の面白法人の方針。その会社の会計体制を水準以上にすることが、面白法人を維持するために経理部が貢献できる成果。

これは、きわめて「人事的」な定義だなと思います。普通は「どういう分野の事業を伸ばすか」という事業の話が入る。でもここには入っていなくて、「ユニークな会社なら小さくても仲間になってほしい」という組織側の文脈で書かれている。
面白いのは、経理の専門知識がある人が経理部の成果を定義できるかというと、そうでもないことです。経営陣が納得できる成果の定義には、経理の知識より「経営者が何を重視するか」の理解の方が要る。だから、専門家じゃない私にもできた。

― 定義とセットで、経営側に要求も出していましたよね。

はい。「買収時に、会計体制だけはカヤックのやり方に合わせてもらうことを握ってほしい」と。
うちは子会社にもかなり自由に経営してもらう方針なんですが、この交渉役がずっと経理部側に課されていて、それがつらかった。本来は経営側がグループ入りのときに握るべき内容です。

― 3年で、何が手に入りましたか。

1つは「詳しくない分野をマネジメントする」という能力ですね。
成果の方は、誰が見てもわかるもので言えば、経理部の負荷への対応、10年アップデートできていなかった基幹システムのアップデート、財務部に集中していた経営企画的な役割の分散、くらいでしょうか。情報システム部門は体制ごとつくったので、人事の知見がそのまま生きました。求人票も自分で書けるし一次面接も私がやれるので、話が早いんです。
逆に、管理部門の成果を定義して各部署に具体化していくところは、まったくできませんでした。途中で北海道のM&Aが動き出して、丹治さんに交代したので。

なぜ、カヤックはそれを許すのか

― 下川町に行っていた時期、管理本部の社員からは「柴田さんは管理部門のことをやらずに北海道にいる」「先のことしか見てない」と言われてましたよね。僕も聞いてました(笑)。

そう言われて当然だと思います。方針と各部署の成果の定義がつながっているのは「私の頭の中で」だけでしたから。
私が下川町に行ったのは、面白法人には「地域資本主義」という概念があるのに、それが特定の地方創生事業だけのものなのか、全社戦略なのかが曖昧だったからなんです。代表に聞いてもわからない。自分で試行錯誤して見つけるしかないと判断しました。あと、自治体は利益が出ないので、管理部門と似ているんですよ。「地域の管理部門」とも言える。だったら管理部門の知見が使えるんじゃないか、という観点もありました。
もし誰かが「地域資本主義をどこまで適用するか」を追求してくれていたなら、私は北海道に行かずに管理部門の仕事を具体化していたと思います。それはそれで、これからが面白いところだったので。

― 社内から批判が出るような動き方を、なぜ会社は許したんだと思いますか。

面白法人の企業文化が大きいと思います
本人がやりたいなら応援する、目的も重要だけど、それ以上に本人の動機が重視される。定期的に新しいチャレンジをすることは、たとえ失敗しても推奨されるという考え方も強いです。私が新しいチャレンジをすれば、私がやっていた業務が次の人の新しいチャレンジになりますし。
あとは制度の話で、評価報酬制度に細かい基準がなくて「トータルで判断」という形式なんです。だから、新しいチャレンジをしたことによる加点と、未経験分野で成果が出ないことによる減点を、一定期間内で相殺してプラスに持っていければOKになる。

― 未経験分野に飛び込んだ瞬間の「できない期間」が、制度上ちゃんと許容されている。

そうです。それと、入社から10年くらいかけてつくってきた信頼貯金を、ここで使ったという言い方もできます。「柴田がそう言うなら、なんとかするんだろう」と判断してもらえた。
こう考えると、面白法人の文化と制度は、「未経験の分野に挑戦する」にはかなり有利な方向にできていますね。

― 逆に、挑戦する側からすると、手を挙げる機会っていつ来るんでしょう。

制度としてあるのは、3ヶ月に1回の賞与面談ですね。全員に必ず来ます。
私は上司の側としてこれを使っていて、5分10分話すだけで「そろそろ飽きてきているな」「違う刺激を与えた方がよさそうだな」というのがわかるんです。逆に言えば、本人の側からは3ヶ月に1回、必ず言える場がある。
あとは、思いついたときにポンと言えばいい。カヤックのブレストは、自分でもそんなに良いと思っていないアイデアでも口に出していい、というくらいの温度感でやっています。誰かを傷つける話でなければ「いいじゃん」から入る。あの構造がないと、そもそも言えないですよね。

― ブレストはカヤックの文化の根幹ですよね。柴田さんは賞与面談を通じて越境のハブ的な動きをしていると感じています。面白プロデュース事業部から音威子府村に移った天坂くんも、そういう流れに見えていました。柴田さんのアイデアが大きそうにも見えましたが。

そうですね。私の意志でやったのは、彼をあの場所に送り込むところまでです。その先どう展開するかは、あえてコントロールしない。いま村長とすっかり仲良くなって色々やっているのは、まったく想定していませんでした(笑)。予想通りにいかない方が、面白い。

やりたいことは、なくてもいい?

― カヤックの越境人材は、自分の得意技を「やりたい」とつなげて未開拓のところに挑戦できる、という面があると思うんです。柴田さんの「やりたい」って何なんですか。

正直に言うと、強く「やりたいこと」はないんですよね(笑)。
いまやっていることも、振り返れば消去法です。いくつかの選択肢の中で「これなら自分も周囲も納得できそうだ」という、消極的で偶発的な選び方をしてきた結果でしかない。

― 僕、前職で「あなたの夢は何ですか」と聞かれるのがすごく辛かったんです。適当に答えて、じゃあそれをやるならこうしてくださいと言われるのが、自分に嘘をついている感じがして。夢なんてなくていい、思いついたことに乗っかればいいというカヤックの価値観に出会えて、正直かなり救われました。

まさにそれです。「やりたいことがない」と普通に言える環境の方が、実はめずらしいと思うんですよ。言うのをためらう人の方が多い気がして。
カヤックは、やりたいことがなくてもいい代わりに、思いついたことはやっていいし、誰かのアイデアに乗っかってやってもいい。その両方があるのがいいところだと思います。

― ただ、僕もやりたいことはないんですけど、じゃあのんびりしてるかというと全然そうでもなくて。柴田さんもそうですよね。これ、何なんでしょうね(笑)。

私は「下りエスカレーターを登っている」感覚が、ずっとあるんです。何もしなければ、どんどん下がっていく。さっき話した「飽きる」と同じ話なんですけど、新しい刺激がないとまずい、という意識が常にある。だから、やりたいことがなくても止まることはできないと感じます。

― でも、それって変じゃないですか。下りエスカレーターに乗ってる人って、普通もっと「逆算」して登ると思うんですよ。何年後にこうなるから今これをやる、みたいな。柴田さんはそうなってないですよね。むしろ出たとこ勝負に見える。

昔は、まさにその逆算タイプだったと思います。幼少期からの思考の癖があって、いわゆるバックキャストの人でした。
変わったのは、カヤックに入る1年ほど前に受けた「インプロ(即興演劇)の研修」ですね。10人くらいで輪になって、誰かが真ん中に出て何かをやる、ついていきたい人だけがついていく、というワークショップで。
1回目私は、誰も行かないなら自分が行こう、と頭で考えて計画的に出ていった。すると、誰もついてこなかった。2回目、思い切ってもっと素の感覚で出てみたら、普通に人がついてきた。その経験が大きいと感じます。

― 計画して出た方が失敗した。

そうなんです。あそこで「よくわからないものに自分の感覚で飛び込んでも、なんとかなる」という腹落ち感が出た。突発的なことへの恐怖心がなくなりました。

― その体験が、下りエスカレーターの登り方まで変えた、ということですね。

そうですね。登らなきゃいけないという前提は、いまも変わっていないです。ただ、その登り方が、逆算して一段ずつ、から、とりあえず面白そうな方に飛び込んでみる、まで変わった。
いまでも事前にはめちゃくちゃ考えるんですよ。元々そういう性格なので。ただ、そこに偶然が組み合わさって思わぬ方向に行く、その不確実性を楽しめるようになりました。

― そうやって今の柴田さんの個性になっているんですね。一方で柴田さんは学ぶこと自体への欲求は、人一倍ありますよね。それは「やりたいこと」と言えるんじゃないですか。

新しいことを発見する瞬間は、確かに面白いです。それを「やりたいこと」と呼んでもいいのかもしれない。
ただ、一般的な「やりたいこと」が持つ「好きだからやる」というニュアンスとは、少し違う気がしていて。私の場合は、飽きないためにやっている、という感覚の方が近いんです。
そのくらいの温度感でも、ちゃんと前には進める。そこは伝えておきたいですね。

究極の「何でも屋」として、社長をやる

― 管理本部長で身につけた「詳しくない分野をマネジメントする」能力は、子会社の社長で実際に使えましたか。

使えました。
まず、詳しくない分野でも成果の定義は必要です。カヤックメガでは「北海道にどのように貢献するか」として定義しました。北海道が47都道府県で最も人口密度が低いという定量的な特徴から始まって、地域の強み弱みに対してどう貢献するかまで書いてあります。かなり長く使える指針になりました。

― その上で、詳しくない部分はどうしたんですか。

2年試行錯誤した答えは、逆説的なんですけど「むしろ詳しくないまま、任せきる」でした。
中途半端に学んで介入する方が、逆に混乱するんですよ。既存事業はある程度動いているので、人材採用みたいな自分の知見が使えるところで支援するだけでいい、という結論になりました。新規事業は孫会社をつくる形で組み立てて。
結果としては、管理本部長のときに途中まで行った「成果を定義して、あとは任せる」を、既存事業でも新規事業でも実践していることになったと思います。ただ、これはカヤックメガに任せられる人がいたからで、他の会社でも同じとは限りません。

― 評価という点では、社長はどうなるんですか。

シンプルに業績評価です。カヤックメガはグループ入り後5年で判断で、具体的にはグループ入り時からどれくらい企業価値が上がったか。いま3年目で、当初の目論見は達成できるペースではあります。

― この記事、管理系で「専門を掘り下げるより、幅広い領域にもチャレンジしたい」と思っている人に届くといいなと思っているんですが、そういう人に何か言うとしたら。

最終的には、会社の社長をやるのをオススメしたいです。
究極の「何でも屋」ですし、とはいえサラリーマンなのでオーナー社長とはリスクの取り方が違う。しかも管理部門と違って、自分の評価が会社の業績で決まるので明確です。管理部門で成果を定義してきた経験は、会社のミッションや存在意義を定義することにそのまま使えます。
面白法人はM&Aで成長していく方針なので、社長ポジションにつける経営人材は慢性的に不足していきます。私自身、管理部門の人には積極的に「いつか社長をやったほうがいいよ」と言っていますし、ポジションが空いたら推薦していこうと思っています。

― 専門性を深めなかった人に、意外と大きな出口がある、と。

そう思います。私も、実務として経験があるのは人事だけですから。

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