ビジネス書大賞2018の審査員をしたので 今回は社長書評です。 | 面白法人カヤック

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2018.05.24

#面白法人カヤック社長日記 No.40
ビジネス書大賞2018の審査員をしたので 今回は社長書評です。

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僕が、社長ブログをはじめたのが32歳。実は、その時まで僕はほとんど本を読まない人でした。しかし自分で文章を書いて発信するようになると、自然に本を読むようになり、今では月20冊前後は読みます。もはや今となっては「もし世界をふたつに分けるなら、本を読む人生と、本を読まない人生だ」といいたくなるほど、本によって自分の人格形成を助けられてきたように思います。

そんな自分の思いを知ってか知らずか、先日「ビジネス書大賞」の審査員のオファーをいただきました。

ちなみに僕は、審査員という仕事を、様々なジャンル(広告賞やベンチャー事業など)で年に何度かさせていただいています。審査員という職務のいいところは、審査を通じて、その年の旬な作品をいっぺんに見られるということです。世の中の数ある作品の中から、事務局がノミネート作品を絞ってくれますので、効率もよい。さらに、毎年審査員をすることができれば、過去の流れを通して、その年や次の年のトレンドも理解できることができます。

もちろん絞り込まれたとはいっても、相当数ありますし、それぞれの作品をしっかりと見なければ審査はできませんので、時間はかかります。ですが、もともと僕は、本も読まなかったというエピソードからもわかるように、情報収集などもあまりしないタイプなので、自分ひとりではなかなか情報が入ってこない。

だからこそカヤックは、できるだけ最先端の情報が現場にゴロゴロしている職場にして、行くだけで様々な情報が入ってくるような組織にしたいと思ってつくってきましたし、こういう審査員の仕事をいただいたときも、せっかくの機会なので自分のスケジュールに作品を見る時間をしっかり組み込んでやらせていただいています。

ちなみに、インタラクティブな日本国内の広告賞という意味では、以前はYahooクリエイティブアワードが国内最大で、こちらも何年も審査員を務めさせていただきましたが、現在はなくなってしまいました。その代わりという意味も込めて、カヤックが自ら3年前、バーグハンバーグバーグさんと一緒に立ち上げた賞が「突破クリエイティブアワード」です。

これについても、審査員をしているおかげで、その年のもっともぶっ飛んだクリエイティブ作品(広告や事業)に出会えるのがよいなと思っています。

・・・と、少し横道にそれましたが、そんなわけで今回は、本日発表されたその「ビジネス書大賞」で、僕が上位3位に選んだ本について、ちょっとだけ書評を紹介したいと思います。

『SHOE DOG 靴にすべてを。』

著者:フィル・ナイト

NIKEの創業者の話です。起業家の伝記ですが、小説かと思うほど、文句なく面白い本となっています。翻訳の本の常として冗長になりがちで、途中読み飛ばしたくなる部分もありますが、何より、NIKEの創業者本人が著者となって、赤裸々に書いていて、迫力があります。もちろん自分に都合の悪いことは書いていないとは思いますが、それでも、あのNIKEですら、こんなに大変なことがあったんだというエピソードや、NIKEの格好よさの秘訣、社風、信念がどこから来ているのかを体感できるエピソード、そんなものがたくさん盛りこまれて、起業家にとって非常にエキサイティングな本です。

読後感としては、リチャード・ブロンソンの『ヴァージン―僕は世界を変えていく」を読んだときを思い出しました。

ただ、この本では、NIKEがIPOするところで話は終わっています。実際は、IPOしてからのNIKEにも様々な成長や困難があるのではないかと感じるので、個人的にはもっと先が知りたいと思いました。

ここでひとつ、なぜIPOのところで話が終わっているのかを勝手に考えてみました。よく創業社長に「最も嬉しかった瞬間は?」という質問をしたとき、IPOのタイミングを挙げる方が多いのですが、法人という生き物を一人称で語れる最も面白く凝縮した期間がIPOまでなのかもしれません。

ただ本来、会社という生き物も、IPOしてからこそ進化しなければいけないので、続編を期待したいところです。

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』

著者:山口周

実は、僕が一位をつけたのがこの本です。

特に経営者という立場の人は、間違いなく読んだ方がよい良書だと思いました。活字好きでなくても、程よくわかりやすい文体と事例で読めます。ビジネスシーンにおける重要な要素や、経営者が日々行わなければならない意思決定を、「サイエンス」「クラフト」「アート」という3つの要素でうまく説明しています。特に「サイエンス」に偏重気味の今の時代において、なぜ「アート」の感覚が必要なのか、直観的な概念を論理的に説明しています。僕は美学のある経営者が好きですが、そもそも美学とは何なのか? というヒントがここにあります。ちなみに、著書の中では、美学がある人を「実定法主義」(ルールさえ守れば良い)ではなく、自然法主義(倫理・規範を大事にする)であるとしています。

おそらく、美学を重視している人にとっては勇気づけられ、後押しされる本だと思います。なんとなく日頃から思っていることを、そうそうとわかりやすく書いてくれると、我が意を得たり!となるのですね。

さらに、Googleの「Don't Be Evil(邪悪になるな)」というスローガンについての解説が秀逸です。

僕も、この理念は素晴らしい表現だなと常々思っていました。というのも、ビジネス現場に何十年もいると、「正しいことをしろ」「正しくないことはするな」といわれても、正直何が正しくて何が正しくないか、究極的にはわからない。視点を変えることで様々な理屈が成り立ちますし、それぞれの立場での正義があるからです。

でも、邪悪なことをするなといわれれば、なんとなくそれぐらいならできそう。価値観や視点が違っても、「邪悪」についての認識が大きく食い違うことは少ないのではないでしょうか。さらに、邪悪さを諌めることで、そこまで邪悪でないレベルの悪事も行われづらくなる。

僕はそんな風に極めて感覚的にとらえていましたが、この本では、この表現こそが、これからの経営にふさわしいという理由を合理的に説明してくれています。

それから、おまけですが、本の中で取り上げる名言も、どれもセンスが良いです。

『隷属なき道』

著者:ルトガー・ブレグマン

こちらは、上の2冊に比べると読むのが難しい本です。実際、発行部数も一桁違うようです。ですが、これからの資本主義に興味がある人は読むべき一冊だと思います。

僕も鎌倉資本主義というのを掲げるようになって、その結果、否が応にもGDPに代わる(もしくは追加する)指標を探っているのですが、そのヒントがここにあります。また最近、何かとベーシックインカムというキーワードを聞くようになりましたが、この本を読むと、ベーシックインカム信奉者が増えるのも頷けます。実際はこんなに簡単じゃないのでしょうけども、人の幸せとはなんなのか、そしてそれを高める劇的な施策は何なのかを考えてみたくなります。

上場企業の経営者は、ただひたすら売上と利益だけを追いかけていればよい時代ではもはやなく、この本に書かれているような社会問題や人の幸せをしっかりと考える責任があると思うのです。

以上3冊が、ノミネート10作品の中から、僕が1位~3位に選んだ本でした。そして、奇しくも、そのうちの2冊が日本ビジネス本大賞の1位と2位になりました。もちろん、これはたまたまです。審査員がたくさんいて、それぞれが違った視点で評価する、そうしたプロセス自体がこうしたアワードのよさなのかもしれません。

ただ、僕が本を選ぶ基準はたったひとつです。ほかの人に「読んだ方がいい」と勧めるかどうか? です。世の中で売れているからとか、読後の感想としてなんとなく面白かったとか、そういうことではなく、ほんとに人に勧めたくなる。そしてその理由が明確である。そういう意味で、この3冊は、文句なくお勧めします。

参考:
ビジネス書大賞サイト
ビジネス書大賞2018 受賞作品

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