業界の異端児『ミルクの束縛』、快進撃を支えるデザインとコピーの力 | 面白法人カヤック

Client Work

2023.12.25

#クリエイターズインタビュー No.81
業界の異端児『ミルクの束縛』、快進撃を支えるデザインとコピーの力

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ユニークなパッケージデザインとネーミングで、思わずパケ買いする人も......。快進撃を続けるミルクコーヒー『ミルクの束縛』が、千葉県内での限定販売から満を持して東京進出を果たした。常識にとらわれない発想やパッケージデザインで、想定以上のヒットを生み出した面白法人カヤックのブランディング力に迫る。

原元光章(左)
面白法人カヤック、アートディレクター/大のゴルフ好き。

金谷敏さま(中央左)

古谷乳業株式会社、事業開発部部長/実はサーファー。

高野和也さま(中央)
古谷乳業株式会社、商品企画開発室室長/『ミルクの束縛』を温めて飲むのが最近の日課。

白井寛さま(中央右)
古谷乳業株式会社、商品企画開発室課長代理/ウォーキング、マラソンが日課。

合田ピエール陽太郎(右)
面白法人カヤック、コピーライター/この日のスーツのテーマはミルクコーヒー。

◆コンセプト開発やアプローチのアドバイスを求めて

ー本日は、大ヒットしているミルクコーヒー『ミルクの束縛』の産みの親である古谷乳業株式会社の開発チームと、面白法人カヤックの担当者に集まっていただきました。この案件はどのようにして始まったのですか。

金谷
古谷乳業は創業から70年以上、おいしいものをつくってきました。ただ、それを消費者に分かりやすく伝えるにはどうしたらいいかが課題でした。もっと言えば、売れるものをつくりたい。そのために、コンセプト開発やアプローチをアドバイスしてくれる会社を探していました。

ー面白法人カヤックを選んだのはなぜでしょうか。

金谷
カヤックさんは、保守的で旧態依然とした乳業業界に対して新しい発想をぶつけてくれるのでは、と目をつけていました。個人的な背景ですが、たまたま湘南地域の物件を『鎌倉R不動産』で見たことがあり、そこから親会社のカヤックさんを知ったんです。「面白い会社だな」と気になっていました。

役員と一緒に鎌倉オフィスに伺いプレゼンを受けた時に「いける」と確信できました。内容に具体性があり、熱意もすごかった。

ピエール
実績紹介の時、御社の社長から「大企業の案件が多いようですが、なぜ、古谷乳業と仕事をしようと思うのですか」と聞かれたことを覚えています。僕は純粋にミルクが大好きなので、「新しいものをつくってみたい!」という想いをぶつけました。

原元
カヤックはどちらかというとデジタル領域のクリエイティブを得意としていますが、プロダクトのプランニングにも力を入れたいと思っているんです。企画力や制作力には自信があったので、ぜひご一緒したいと話しました。

ープロジェクトの初めに、古谷乳業さんも面白法人カヤックの十八番であるブレスト会議を体験されたのだとか。

ピエール
お題や質問を出して、数分の時間内で答えを付箋に書いてもらいました。なぜこのスタイルでやったかというと、ブレストは慣れが必要な部分もあるんですよね。会話形式でやり取りすることよりも、書いた方が自分のペースでアイデアを出せるのでスムーズな場合もあります。

▲丸一日かけて、カヤック流ブレストの洗礼を浴びる古谷乳業の皆さん(原元撮影)

高野
ピエールさんから「思ったことをたくさん出すのがブレストですよ」と言われていたのですが、慣れるまでは難しくて考えこんでしまいました。商品開発をする時に、ここまで色んなことをした経験は無くて......。初めて取り組む方法だったので、こんな風に商品をつくっていく手段があるのか、と驚きました。

金谷
頭の中で何となく考えていたことを実際に文字にしてみると、「こんな想いで商品をつくっていたんだ」と、気づくことが多かったです。消費者の気持ちや市場の話を、具体的にふくらませることができました。

◆業界の常識を乗りこえる、異端児の挑戦

ーブレストを経て古谷乳業さんから受け取った想いをどのように具体化していったのでしょうか。ピエールさんが生み出した『ミルクの束縛』というネーミングも変わっていますよね。

金谷
最初はシンプルに『純ミルクコーヒー』や『極(きわみ)ミルクコーヒー』で検討していたのですが、公正取引協議会の承諾を得られませんでした。乳業業界は強調表示のチェックがとても厳しくて、ネーミングも公正取引協議会のルールに沿うものでないといけないんです。

ピエール
紆余曲折あり、成分をストレートに謳った『生乳75%ミルクコーヒー』という名前に決まりかけていました。でも、生乳75%と言われても、そのすごさにピンとくる一般消費者は少ないと思ったんです。だから、ギリギリまで粘らせてもらいました。

原元
デザイナー目線で考えても、名前が長すぎるとパッケージデザインとしては厳しくなるので、よりコンパクトで端的なネーミングが欲しかったんです。直前まで絞って絞ってプレゼンしたのが『ミルクの束縛』でした。

ピエール
「束縛」の由来なんですが、奇をてらって出したわけではなく、「生乳を使っていると味わいが全然違う」と、古谷乳業さんからブレストを通して教えてもらったことが始まりです。生乳が入っているおいしさを体験してからは、商品を買う際に、原材料が脱脂粉乳か生乳なのかをいちいちチェックするようになってしまったんです。それが束縛されているような感覚で......。

金谷
私は納得できたし、よりいいアイデアだな、と思ってすぐにOKしました。

ーさらに驚いたのは、パッケージの面という面が文字なんですよね。

ピエール
これはデザイン的発想から始まっているんです。広告は展開できない話をしていたら、原元さんから「POPになるくらい、パッケージ自体を広告媒体として使ったらどうか」というアイデアが出て、めちゃくちゃいいなと思いました。結局、情報がいちばん欲しいのは店頭で手にとる人なんですよね。それで、「伝えたい情報のコピーだらけのデザイン」という方向性が決まりました。

珍しいデザインが気になり、思わず手にとる。飲むとおいしくて、その理由がパッケージにきちんと書いてある、というユーザー体験のフローになっています。500ミリリットルだと、一気に飲み切ることも少ないと思うんです。だから、店頭でコピーを全部読み終えなくても、家や職場などで味わいながらじっくり見てもらえばいい。体験する時間やテンションも計算した上でのデザインです。

▲コピーで埋め尽くされたパッケージ。陳列棚で目立つことも考慮(東京進出時のキービジュアル)

ー業界でも珍しいパッケージデザインなんですね。

ピエール
従来、飲料系のパッケージデザインには基本のスタイルがあるんです。ミルクだったら牛や牧場のイラストを使うとか、飲料の中身を想起させるシズル感のあるカラーを使うとか。悪い意味ではなくて、表記の規制も厳しいし、そういう基本のスタイルが人をいちばん動かすと世の中的に思われているから。
でも、『ミルクの束縛』には、いわゆる定番の要素が全く無い。

金谷
そういう意味では、私たちは異端児というか、チャレンジャーと言ってもいい、笑。パッケージ印刷の確認のとき、担当者の方から「よくこれで協議会のチェックを通りましたね!」と驚かれました。

ー先ほどから話に上がっていましたが、「レギュレーション」という大きな壁があったようですね。具体的にどんな苦労があったのでしょうか。

ピエール
コピーは、古谷乳業さんとのブレストで出てきた話をまとめて抽出したのですが、公正取引協議会から山のような赤が返ってきて......。5ラリーはしたかと思います。ダメな理由が規定としてなく、相当悩みました。修正作業では、古谷乳業さんにだいぶお力添えいただきました。

金谷
協議会が一文字一文字チェックするわけです。だから皆、煩雑さを敬遠して定番のデザインに落ち着いてしまうんでしょうね。

原元
乳飲料というカテゴリーには、デザインする上でとても細かいレギュレーションがあるんです。例えば、使用できる文字サイズのポイントが決まっているとか、商品名より大きい文字は使用してはいけないとか縛りが多い。ちなみに、乳飲料という言葉は商品名のいちばん近くでなければいけないのですが、なんとかデザインを成立させるために、他の要素を乳飲料より離すことでレギュレーションをかいくぐっています、笑。

その厳しいレギュレーションの中で、とことん細部にこだわりました。ラフの最初のレイアウトを決めた時、ピエールさんにコピーの文字数を細かく指定させてもらったりもして......。コピーがある程度決まってからは、フォント選びや文字サイズの変化でメリハリを出し、改行も箱にきれいに収まるように計算しています。色々なところに目がいって、読みやすいようにも工夫しました。

▲厳しいレギュレーションを乗り越えた涙と汗の結晶

ピエール
それにしても、原元さんが全ての球を打ち返してくれるんです。アイデアとデザインのラリーが楽しかった。他の会社だったら、ここまで細かく徹底してこだわらないかもしれません。

原元
レギュレーションで跳ねのけられれば跳ねのけられるほど、「なんとかして通してやる!」と燃えていました。

ピエール
「常識外のアイデアを、デザインできれいに着地させる」という意味で、けっこうチャレンジングでしたよね。でも、カヤックは既成概念を壊すことを大事にしている会社なので、自分たちらしい仕事ができたと思います。

原元
カヤックにいると多様な業界で色々な挑戦ができますね。挑戦に対して止めにかかる人がいないというか、「新しいものをつくっていこう」という社風なので、デザイナーとして楽しみながら信念を貫き通せたと思います。

◆作り手の想いを伝え、人とものを動かすデザインとコピー

ー業界では異端的な商品ということですが、デザインとコピーの力だけで手にとってもらうことができたのか気になります。発売後の反応はいかがでしたか。

金谷
弊社の予測の2倍の成果が出ています。発売約2ヶ月で6万本ほど出荷でき、千葉県内だけでなく東京都のファミリーマートにも拡大しました(※都内約2400店舗)。

白井
正直、デザインを最初に見た時はびっくりしました。今まで出したことがないものだったので、市場で受け入れられるのかとドキドキしていたんです。

高野
僕らの概念には無いアウトプットですからね。信じていくしかない。「いいものを誠実につくったので、あとは任せた」という気持ちでした。

原元
好調なので僕たちもほっとしました。SNSに投稿をしてくれる方も多くて、伝わってくれて良かったです。実は、企画の段階から、手に持っていてもダサいと思われないファッション性やSNSに投稿したくなるような話題性のあるデザインにしたい、と話していました。

ピエール
カヤックはデジタル領域の仕事が多いこともあり、何かしらSNSへの拡散を狙おう、というアイデアはずっとありましたよね。
『ミルクの束縛』というネーミングが決まった後に、色々仕込めそうだなとコピーをチューニングしていきました。ちょっとメンヘラ感もある名前なので、「抑えきれない思い」とか、笑。実は、飲み口を開いたリサイクル面にも、「生まれ変わってもまた会おうね」と小さく入れています。

ー重いですね、笑。SNSを見ると「パケ買いしてしまった」「飲んでみたらおいしくて驚いた」「コピーの圧がすごい」とか、数々の好意的な投稿がありますね。ちなみに、古谷乳業の皆さんが気に入っている部分はどこですか。

高野
「生乳、コーヒー、砂糖、以上。」というコピーが最初に目に飛び込んできました。僕がいちばん言いたいことがここで表されていて嬉しかった。極力、余計なものは入れずにつくっていきたい、という思いでやっていますので。

白井
僕の場合、「一口目はゆっくり味わってください」です。ゆっくり飲むことで、商品のおいしさが伝わるんですよね。作り手が求めていることを文章で伝えてくれて嬉しいし、これを載せるなんて僕らでは思いつかないです。
社内でブランディングを考えていたら、この商品は100%生まれなかったと思います。

高野
僕らだけでは成し得ないことですよね。僕もX(旧Twitter)を見ましたがたくさんのコメントがあって、パッケージさまさまです、笑。

▲「冬には温めて飲むのもおすすめ、口当たりや香りの違いも楽しんでください」と耳より情報も

金谷
あと、私が評価したいポイントは、高価格でも売れるパッケージデザインだということ。『ミルクの束縛』は生乳を多く使う分、いわゆるミルクコーヒーの平均的な価格の約2倍します。それでも売れているので、業界内でも驚かれていると思います。この価格を納得させるだけの「説得力」があるところがすごい。

カヤックさんにはコンセプト開発やブランディング領域も拡大していってほしいですね。弊社としても、今後もぜひお願いしていきたいと思っています。

ピエール
ありがとうございます。例えば、スーパーでの販売だったら1リットルパックになって、もっと紙面が増えますね。もっともっと言いたいこと、読んでほしいことがあります!
あ、でも、レギュレーションとの戦いをはじめかなり自由にやらせてもらったので、古谷乳業さんも大変だったのでは......?

金谷
いやいや、クライアント主導、メーカー発想では絶対にうまくいかないと確信していました。それだけ、このカテゴリーは難しいんです。本当に、期待以上の成果を出してくれたと思います。

原元
今回、デザインがものや人を動かす力を強く感じることができたし、そのお手伝いができたことが嬉しかったです。こういう面白い場をもっとつくっていきたいです!

(取材・文 二木薫)

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