2020年の家ってどんな家?未来につながるアイデアと、未来すぎないデザインのバランス感覚 | 面白法人カヤック

Client Work

2014.11.18

#クリエイターズインタビュー No.32
2020年の家ってどんな家?未来につながるアイデアと、未来すぎないデザインのバランス感覚

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今年8月から10月までパークホームズ イマジネーションミュージアムで開催された2020ふつうの家展

「家はパートナーになりたいと思った」をキーワードに、キッチンやダイニング、ドアなど、住宅のいたるところにITを取り入れた、2020年と少し先の未来の家を体験できる展示イベントです。テクノロジーが介在することで住宅は単なるハコにとどまらず、住人のパートナーとして、暮らしをより楽しく、便利にするような進化を遂げるはず、そんなアイデアが本展示には詰め込まれています。

カヤックではその展示コンテンツの企画・開発をお手伝いしました。今回のミッションについて、三井不動産レジデンシャル 市場開発部 町田俊介さんに同席いただき、カヤック制作チームのディレクター深津康幸、デザイナー越後壮平、エンジニア佐藤太紀に話を聞きました。

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家とマッチしなさそうなIT技術を楽しさで見せる

― 今回、開発をカヤックに依頼された理由をお聞かせください。

町田
従来、アナログな建築物である家とITはマッチしなさそうな存在です。それを違和感なく感じさせるUIや見せ方、新しい価値づくりは、普通のIT系企業では難しいと思いました。利便性や効率性を伝えるのではなく、新しい暮らしの提案として、ワクワク感や楽しさに重点を置いています。カヤックさんならうまく形にしてくれるだろう、と考えてお願いしました。

― カヤックとしては依頼に対してどんなことを考えましたか?

住宅にはアプリやWebとは異なるデザイン、使い勝手を求められますから、アイデアがまとまるまでは連日夜中までブレストしていましたね。

深津
住宅にはアプリやWebとは異なるデザイン、使い勝手を求められますから、アイデアがまとまるまでは連日夜中までブレストしていましたね。
越後
例えば、デザインでは未来すぎない表現を考えました。「いかにも未来未来したデザインが、はたして本当に家に入っていくのだろうか?」という観点からです。投影用のライトをまばたきする目のようにするなど、人間らしさや愛らしさなどが感じられるように気をつけました。

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― 未来感を出しすぎないのって、バランスが難しそうですね。

町田
そうですね。ITを住宅に取り入れると聞くと不安を感じる方も多いので、デザインも有機的なトーンにこだわったんです。来場者にはこの家に共感できるか、面白いかをYES/NOで回答いただきました。一般の方々に問うことで今後の商品開発の方向性を策定するにあたり、こうした商品が受け入れられるか否かを判断したかったのです。

未来の暮らしの提案を実現するシステム・1

― ツクル空間、キオクスル食卓、ツナガル窓、オトノナル扉という仕組みがありますが、今回は主に「ツナガル窓」と「ツクル空間」についてお聞きしようと思います。

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町田
生活の中にある大画面で空間の共有感覚が持てる仕組みが「ツナガル窓」です。PCやスマホ越しだとモニターを介している感が抜けませんが、机が繋がったように見えると同じ空間にいる気になれる。さらに風が吹く演出を加えて五感を錯覚させ、近くにいる感覚にさせる仕組みです。
越後
ですので、モニターの表示も原寸大にこだわりました。テーブルと画面の高さを同じにすると地続きに感じるので、モニターに映る映像ではなく、すぐそこにいる雰囲気に感じられるんですよ。

― システム的にはどんな仕組みなのですか。

佐藤
ブラウザ同士をリアルタイムで繋ぐ「WebRTC」という最新技術を使いました。アプリのSkypeと違い、ブラウザを介して他の技術との連携や同期を手軽にできる点がポイントです。まだChromeブラウザのみの対応なのですが、未来には普通になるだろうとのことで実験的に取り入れました。

― まさに未来の技術ですね。

佐藤
風を送る仕組みとしては、送信側のマイクに風を吹くと、「 WebSocket」を介して相手側のブラウザに信号を伝えます。相手側のブラウザは信号を受け取ると「Arduino」というデバイスに風を送る指示を伝え、扇風機を回します。
映像と音はWebRTC、風を送る指示がWebSocketとArduinoの連携と、複数技術の組み合わせでできています。

― ずいぶん複雑なんですね。

佐藤
ええ。社内でのテストはよかったのですが、最初は1台だった扇風機が現地では3台に増えており、回路が対応しきれず止まってしまい最終テスト直前に慌てて直したこともありました。
町田
今回は回線状況も結構大変で…。回線とデバイスとシステムが一つの空間にあり、その仕組みを役者が入って、海外に住むおばあちゃんの誕生日を祝うというストーリーで演出をする。システム調整から見せ方、回線から演出まですべて繋がって初めて成立する展示物でした。カヤックさんはその大半をカバーしてくれたのでありがたかったですね。

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未来の暮らしの提案を実現するシステム・2

― では「ツクル空間」のキッチンについてお聞かせください。

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町田
アイデアの源泉の1つにカヤックさんが提唱されたライフタグログシステムというものがあります。ビッグデータの概念を一般家庭に応用したようなものです。
佐藤
未来のレコメンデーションは家が勝手にライフログを収集してくれると想定して、家がその人に合ったデータを提示してくれる見せ方にしました。今回は家の材料からレシピを提案してくれるだけでなく、「マンションの●号室のカレーがおいしいらしい」などマンション内の情報も活用して、家同士が連携する未来を考えてみました。
深津
家を売る企業ということもあり、昔のご近所さんでは普通だったおすそわけの慣習なんかも少しは垣間見せられるんじゃないか、と話もありました。交流が薄れつつある今だからこそ、そういうコミュニケーションがマンションの中でまた取り戻せたらステキだよねと。

― なるほど。

越後
キッチンに足を踏み入れた瞬間、あの2個ある光が瞬きしているのを「なんだろう?」と思うところから入ってもらえたのがよかった気がします。
基本的にはスポットライトですが、ローディングになったり、まばたきやちょっとした賑やかしなど、家自体の意思を表しているんです。
深津
システム的なデザインが入るのって、生活者からすると異質なんですよね。でもこれは元々ダウンライトの光が発端で、日常生活で見慣れた存在です。ふとした瞬間に大きく広がって、情報を共有する下敷きになるというのが、今回のシステムデザインの共通コンセプトになっています。

― どの演出もバランス感がいいですよね。

深津
最近の案件って、実際に体験したりリアリティを考えたりという内容が多くて、会社のデスクでPCを広げているだけでは発想が難しいんですよね。実際に料理をしてどれくらいの高さにするかとか、手が濡れるとiPadは触れないからタッチできないモノにしないとねとか、一つずつ体験して見つけていく感じでした。

「ふつうの家」に住みこんだ妖精たちのこだわり

― 今回の制作の思い出などはありますか?

越後
観客が体験してどう感じるかを念頭に、デザインにするよう意識しました。特に気にしていたのは、窓のオープンやアイコンのアニメーションに絶対に機械的な動きは入れないことでした。少しでもPC感が見えると興ざめですからね。
思い返すと、そういう認識で全員が動けていたのがよかったなと思います。
佐藤
WebRTCは最新技術で社内でも詳しい人間がいなかったので、イチから学びました。ハッカソンに参加して専門家の方に話を聞いたりもしました。
今までと違うプログラミング言語だったこともあり不安も大きかったのですが、今回はエンジニアみんながチャレンジしていて、専門分野はもちろん、お互いにサポートし合いながらつくったので楽しかったですよ。
町田
オープン直前まで、彼ら「ふつうの家」に住んでいたんですよ。「妖精」と僕らは呼んでいましたが、細かい部分を何度も調整してもらっているのに丁寧に細部に時間を費やしたりして本当にすごいなと。すべてを楽しんでいるからできることなんだと思いました。

― プロジェクトを通して感じた可能性などを教えてください。

町田
家族のコミュニケーションを変化させられる可能性をでしょうか。家族の世帯構成やライフスタイルなどは時代ごとに変化しますが、そこを繋ぐ展示だった気がします。このまま商品化するわけではないですが、新しい時代の価値をつくるモノになるんじゃないか、生まれる可能性が見い出せたんじゃないか、と思います。
深津
今のテクノロジーの潮流は「モノのインターネット(Internet of Things)」が中心で、国内外で多くのツールやガジェットが出てきています。それも一つの方向ですが、別の視点で、日常がネットと繋がるとこんな現実がくるかも、と示す独特なプレゼンテーションになったと思います。半歩先の話は意外と語られていないし、意義があったのではないでしょうか。

デバイス開発とシステム設計のご依頼も増えてきた今日この頃。バーチャルからリアリティへと広がるものづくりの可能性は無限大と言えます。今後の展開も楽しみですね。

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