リアルタイムで世界中の人たちと対戦できるAndroid/iOS向け格闘ゲーム「BASH LAND」。Googleのゲーム技術など新たな試みを取り入れた同アプリについて、制作チームのプロデューサー兼ディレクター綿引啓太、エンジニア松村昌宏、デザイナー西出吐夢と服部恭子に話を聞きました。

徹底的な「モックファースト」から生まれたゲーム
― プロジェクトはどう進めたのですか。
- 綿引
- 今後マルチプレイのゲームが増えそうだという話をベースに、みんなで話し合って格闘ゲームをつくることにしました。制作期間は約4カ月でしたが、そのうち2カ月はモック(試作品)づくりでしたね。
- 松村
- ゲームはディレクターの企画書を基にそのまま最後まで制作していくのが普通ですが、これだと途中大きな変更が難しいです。今回はアイデアが出た時点ですぐモックをつくり、当日中に面白さを検証して取捨選択する形にしたんです。そのため、つくって評価してダメなら捨てる、という作業を毎日繰り返していました。
― なぜその方法で?
- 松村
- 小規模チームでの短期決戦で面白さを追求するためにはこの方法のほうが良いと思ったんです。
- 綿引
- 遊ぶ人の心の動きや感動ポイントなど、ユーザーの体感に着目しようという話もありましたもんね。それなら紙面での指示よりモックで体感しつつ検討すれば皆で感覚の共有もしやすいですから。
― その時点で軸になるコンセプトはあったんですよね?

初期のモック
- 綿引
- そうですね、「世界の誰かと1分間のドラマチックバトル」というキャッチコピーをつくり共有しました。
最初からゲームの仕様がキッチリと決まっていたわけではなく試行錯誤の過程で迷走しかけたこともあったので、原点に立ち戻れるこうした要素は重要だったと思います。
- 西出
- 具体的な言葉で「1分間で誰でも楽しめるシンプルさ」とあったのでその後共通認識として大きくブレる事なくあの形に落とし込めたと思います。

格闘ゲームのコマンド入力をカジュアル化する
― それだと操作性がかなり重要ですよね。
- 綿引
- ええ。日本でも格闘ゲームは人気ですが、技の入力の難しさからコアゲーマー向けの印象がありますよね。そこをライト化できればより多くの人が遊べるゲームにできるのではないかなと。それで移動とアクションのボタン2つだけで攻撃も防御もできる仕組みを考えました。
- 服部
- 初期はアクションごとのボタンが複数あったんです。でも「わかりにくい」、「画面が狭くなる」と反対の意見がでたので、結局は組み合わせをすべて実際に検証して決めていきました。

― なるほど。
- 綿引
- 僕は格闘ゲームの気持ちよさは、ボタンを押す感覚と対になっていると思うんです。でもスマホは平面だから押す動作に気持ちよさが見出せないし、それならボタンはあまり置きたくないなと。そこで、技をスライド操作で出すことにしました。スマホらしい動きだし認知的なズレも少ないでしょう。
- 西出
- 格闘ゲームの操作をそのまま画面に反映するのではなく、デバイスに沿ったUI(ユーザーインターフェース)にしたのがポイントです。慣れればスライドの気持ちよさがわかってもらえると思います。
Googleが持つサーバー技術の活用とロールバック処理技術の追求
― 技術面でも新たなチャレンジをされたとか。
- 綿引
- 今回は自社サーバーを立てず、Googleさんの対戦ゲーム用エンジン「リアルタイムマルチプレイヤー」やクラウドセーブ機能を利用しました。この技術をつかってウチがアプリ制作をできるのかという検証的な側面もありましたが、むしろサーバー開発が必要ない分の工数短縮ができてよかったですね。
― 導入例はまだ少なさそうですが。
- 綿引
- ええ。とても喜んでくださり、その結果がGoogle PlayのCMへの露出に繋がったとも言えます。技術面でもかなりご協力をいただきました。
― 技術面で苦労された点はありますか?
- 松村
- 格闘ゲームは判定が肝ですが、ネットワーク環境や異なる端末で戦うとラグが生じます。そのラグを緩和するロールバック処理がとても大変でした。本来はじっくり時間をかけて実現させる技術を、4カ月ほどでやり遂げてくれたメンバーには感謝しています。
- 綿引
- 今回は3人の外国人プログラマーが参加しているんです。母語が違うのでコミュニケーションは日本語ですし、そんな不自由さの中でも頑張ってくれました。彼らの力なくしては完成できなかったと思います。
3D&デフォルメキャラで世界のユーザーにアピール!
― 3Dのキャラも新機軸ですよね。
- 服部
- はい。世界向けゲームということでビジュアルも海外に寄せた表現にしています。具体的な要素としては、キャラや戦闘中のアクション、擬音の文字などにアメコミ感を取り入れました。

- 西出
- 日本ではイケメンが人気ですが、海外だとヒゲオヤジや狼男などのデフォルメキャラが人気なんですよね。

- 松村
- 今回はポリゴン数を極限まで減らして特徴を強調する形でモデリングしたんですが、ポリゴン数が少ないと動作時に違和感が出やすいんです。違和感のないポイントを探しつつ、モデリングとモーション制作を進めました。
― ポリゴン数をあえて減らした理由は?
- 松村
- 最低限のポリゴン数で魅力的なキャラづくりをするという挑戦の意味もありました。

- 西出
- 女の子がかわいくなるように、動きにも工夫しましたよね。
- 松村
- キャラのモーションは当初の3倍に増えています。ソード・ナックル・ショットとそれぞれに動きの違いを加えたんです。やはり、動きや仕草で性格を出さないと魅力が伝わらないので…。
― 最終的な調整も大変だったのでは…。
- 西出
- はい。キャラの強さに極端に偏りが出ないよう、綿引を中心に全員でとにかくやりこみました。
- 松村
- 今までは修正が出るとディレクターから現場へ伝えて...と無駄な伝達が多かったので、綿引が自らPCでレベル調整できるよう専用エディタも作りました。これで作業効率も上がったと思います。
今回の取り組みを新たなスタート地点に
― リリース後の反応はどうですか?
- 綿引
- ゲーム実況動画が上がっているなど台湾での人気が高いようです。海外向けを想定したので方向性は正しかったのですが、国内をはじめ、Android/iOS出揃ったのでもっと多くの人に知っていただきたいですね。
― 制作を通しての感想や感じた可能性などがあれば。

- 西出
- 僕は過去にコンシューマーゲーム(家庭用コンピューターゲーム)の制作経験があるんですが、まったくノウハウがないメンバーで0から格闘ゲームを作るというのはかなりの挑戦だったと思います。また、スマホで初心者用にライトに遊べるところまで落とし込めたのはかなり驚きですね。
- 服部
- 同時通信対戦のネックになるラグ処理の一つの答えが出せたのがよかったですね。もし今後、複数戦のゲームをつくる機会ができても高い完成度で出せると思いますし、試作品をつくってとにかく試すという、モックファーストの手法も含めてウチの武器として高めながら提供できたらと思っています。
- 綿引
- 「BASH LAND」は新しい技術の勉強と実験を兼ねたカジュアルゲームプロジェクトでしたが、メンバーの頑張りもあって当初想定していた以上に良いものが出来たという手応えがあります。今後はこのエンジンを有効活用して、マネタイズポイントを押さえた新しいゲーム提案という展開に繋げていければと思っていますので、興味のあるクライアント様はぜひ相談ください!
新たな挑戦をいくつも取り入れた「BASH LAND」。この実験的プロジェクトが今後どのような影響をもたらすのか、私たちも期待したいと思います。
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