黒板といえば何を思い出しますか。授業の内容を一生懸命写し、休み時間には落書きした黒板。今回、黒板メーカーのサカワさんとカヤックが立ち上げた「みらいのこくばんプロジェクト」は、そんな黒板を改めて考え直そうというものです。

メンバーのディレクター・深津康幸、アートディレクター・佐藤ねじ、フロントエンドエンジニア・平澤誠士に加えて、株式会社サカワ常務取締役 坂和寿忠さんにもお越しいただき、本プロジェクトについてお話を伺いました。
「黒板と電子黒板を融合した商品はつくれませんか?」
― 本プロジェクトは、どんなきっかけでスタートしたのですか?

- 深津
- 最初は、今年5月の「教育ITソリューションEXPO」の展示に向けて、黒板をベースにした新しい電子黒板をつくりたいとのご相談でしたよね。元々カヤックサイトのファンでいてくださったそうで、ご依頼をいただいたと。
- 坂和
- そうなんです。実は、サカワでは国の施策で5年前から電子黒板を卸しているんですが、なかなか現場に定着しないという問題がありまして…。ただよく聞くと、行政と現場の温度感の違いや先生間でも異なるIT知識レベル、機能性や費用面など、いろいろと課題もありまして。
- それならまずは、先生方にとって使いやすい、チョークが使える黒板と電子黒板を合わせたようなものができないかなと。カヤックさんなら面白い製品を一緒につくってもらえそうだなということで、お願いしました。

― 文部科学省では2020年までに各教室に電子黒板を配備する指針を掲げているんですね。電子黒板だけにすればよさそうなものですが、そうはならないのでしょうか?
- 坂和
- 黒板はなくならないでしょうね。今も新しい学校には必ず黒板を納品しますし、チョークで書きながら言葉の美しさや書き順を教え、その大切さを伝える文化が日本の教育の根っこにあるようですから。
― プロジェクトはどう進めたのですか?
- 深津
- 初回は、サカワさんのご要望についての確認と、電子黒板の仕組みや教育現場の現状を教えていただきつつ、広いテーマでブレストをしました。その中で、やはり実際の授業の様子を見たほうがいいという話が出たため、小学校へ取材に伺いました。

- ねじ
- 取材に行くと、すごく発見がありましたよね。思った以上にシンプルなものでいいと気づけたからか、2回目のブレストはアイデアの質が大きく変わりましたし。
- 坂和
- ブレストの結果、最終的には少し不便な部分を解決するという方向になりましたよね。初回に出た、「黒板の前でポーズを取るとカメハメ波が出る」というような案も面白かったですが(笑)。
ひたすら引き算を進めたUIづくり
― そこでのアイデアを電子黒板用のソフトにするわけですね。
- 坂和
- ええ。サカワの電子黒板は「SMART Board」というボードをベースに映像を投影する商品なのですが、元になっている投影用ソフトのUIがパソコンの画面風で、アイコンも多くて複雑だったんです。それが先生方が敬遠しがちな理由でもあるので、デザインも再考が必要だなと。
長押しで現れる十字を、書きたい方向に動かすと線が書ける。
- ねじ
- 完成した物を見ると普通の黒板のようですが、実際は黒板にデスクトップ部分が見えないほど最低限の光量でソフトを投影するので、先生が黒板を触ると、線や動画が突然現れるように見えるんです。これならチョークも普通に使えますから。
― なるほど! でもそこまでに至る工程が大変そうですよね。
- ねじ
- UI設計は引き算的な作業でしたから、どのボタンを減らすのか、増やすのかのせめぎ合いでしたね。最終的には、内蔵された画像や動画を呼び出すボタンと線を消すオールクリアボタン、長押しすると現れて線が引けるマーカーだけにしました。
- 深津
- 投影中は赤外線センサーが働くので、チョークで書く動きと追加するデジタル機能の動きが被らないようにする調整や、デジタルとアナログの切り替え調整も重要でしたね。
- ねじ
- そうそう。でも、スクロールやスワイプ、タップといった動作も、その昔スマホを発明した人が微妙な違いを認識させる調整をしたから普通になったわけですよね。まだまだチューニングは必要ですが、電子黒板業界に特化した新たな方法を開発できた感じがします。
― 実装面はどうでしたか。
- 平澤
- ねじさんがアイコンを減らそうというUIの方向性を最初に決めてくれたのでやりやすかったです。ただセンサーが特殊だったので、マーカーの長押し調整などは大変でした。

コラボレーションだからできた、純粋なリデザイン活動
― 完成品をご覧になっていかがでしたか。

電子黒板に来場者のメッセージがぎっしり。
- 坂和
- すごい物ができたと思いましたね。今までにない物だけに、見るまでは未知の部分が多かったのですが、要望も120%実現してくださった上に面白さもあり本当にやってよかったなと。展示会でも受けるだろうとその場で確信しました。
― 今後の新たな展開については?
- 坂和
- 展示会以降のことは考えていなかったんですが、反応を見て今後もこの方向性で行けると実感できました。より広がりを求めて先生方からアイデアを募集する形にもなりましたし、賛同してくれるメーカーさんが他にも増えてくれるといいなと思っています。
― 今回の試みを通して、メーカーとデジタル系企業との共同開発の可能性をどう感じられましたか。
- 坂和
- アナログとデジタルの融合がより進んでいく中、サカワらしい面白い試みができたと思います。今後もこういう活動を増やしていきたいですね。
- 平澤
- 黒板のように今まで特に革新が起こってこなかった物に注目し、新たな付加価値をつけるというプロジェクトは個人的にも興味がありました。可能性も感じていたので、今回このプロジェクトに携われてよかったです。
- ねじ
- 普段手がける仕事の大半が広告関連の中、学校教育をよくすることがゴールだという今回の案件はかなり特殊ですよね。でも、純粋なリデザインの領域で関われてすごくよかったと思います。短期間でもイノベーティブな開発ができたし、学びも多かったです。
- しかも、これはカヤックだけではできないことだとも思うんですよ。僕自身、興味はもちろんメソッドや技術があったとしても、商品企画の段階から関与しないとこういう活動は難しいですからね。
― なるほど。
- ねじ
- あとこの案件を通して「MOTTAINAI」的な思想についても考えるようになりました。新しい商品をただ世の中に送り込むのではなく、現場の意見を反映して黒板を活用した開発をする、という考え方は他の分野にも応用できますよね。とても21世紀的で、大きな意義のある活動じゃないかなと。
- 坂和
- そうですね。昔から続く物には何か理由があるはずで、そこを生かして少し新しくするだけで価値がつくれると思うんです。今、デジタルに強い人間を育成する21世紀型教育の流れがありますが、先生が使えないのに生徒が正しく学べるのかは疑問でもあるし、こうした活動で何かしら提言していければと…。

― 温故知新の上に成り立つ「みらいの」プロジェクトですね。幅広い展開ができそうです。
- ねじ
- そうそう、近未来なのがポイントなんです。実際、今水面下で動いていて、この1年で出てくる物ってたくさんあると思いますよ。黒板にこういうアプローチをしているのはサカワさんだけだと思いますが。
- 坂和
- トップダウンで入ってきた物ですが、この活動が広がって市町村が自主的に導入しようとする流れになると一番いいかなと。その時に先生たちのアイデアが採用されていれば、もっと現場を面白くできるのではないかとも思いますね。
― ありがとうございました!
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