2000万回再生のバズコンテンツ『西野ン会議』誕生秘話 | 面白法人カヤック

Client Work

2020.10.29

#クリエイターズインタビュー No.59
2000万回再生のバズコンテンツ『西野ン会議』誕生秘話 〜オンラインに潜む恐怖を切り取った、新時代のクリエイティビティ〜

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『世にも奇妙なオンライン会議〜西野ン会議(ニシノンかいぎ)〜』(制作協力:面白法人カヤック、劇団ノーミーツ)は、2020年7月11日午後9時からフジテレビ系にて放送した『世にも奇妙な物語 '20夏の特別編』のスペシャルコンテンツ。絵文字のような見た目をした謎の存在「西野ン」がホストとなり、8人の参加者と共にオンライン会議上に集う体験型ホラーコンテンツだ。西野ンによる不気味なゲームや、次々と参加者に起こる奇怪な現象に「絶対に参加してはいけないオンライン会議」として話題となった。
2020年7月7日〜8月11日までオンライン公開し、合算約2000万回再生を達成。さらに2020年ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSブランデッド・コミュニケーション部門でシルバー賞を受賞し、大ヒットしたコンテンツの軌跡を、カヤックと劇団ノーミーツの制作スタッフと共に振り返る。

左上から時計回りで、劇団ノーミーツ 作家/演出家 岩崎 裕介氏面白法人カヤック コピーライター/プランナー 日野原 良行、劇団ノーミーツ 主宰/企画プロデュース 広屋 佑規氏、面白法人カヤック クリエイティブディレクター 佐久間 亮介

■リアリティと仕掛けに満ちた「画面の向こうの恐怖」

ー今回の企画はどのようにして生まれたのですか。

佐久間
『西野ン会議』は、今までカヤックが行った『世にも奇妙な物語』のプロモーション企画としては第8弾になります。常にコンセプトにしているのは、番組の持つ世界観を現実世界でも体感できる「奇妙な世界へいざなう仕掛けを作る」こと。更に今回はコロナで変化した生活だからこそ没入できる新しいエンタメを作ろうと、「オンライン会議」というテーマを最初の段階から検討していました。
その上で「画面越しに見えるものがリアルタイムに存在していると信じ込んでいるけれど、本当にそうだろうか」という疑問をネタに、画面の向こう側で奇妙な現象が起きていくという設定にしてみようかと。

ー(ここでいきなり謎のうめき声がインタビュー音声に入り込み、現場が騒然。)今のは仕込みですよね?

佐久間
いや、仕込みではなくこういうの本当多かったんですよね...その辺りもネタ的に後で話しますね。
大まかな骨組みの次に、演出でお声がけしたのが劇団ノーミーツさん。稽古から上演までリモートを貫くやりかたや、twitterでバズっていたオンライン飲み会をテーマにしたホラー作品を拝見して、ぜひご一緒したいなと。

広屋
毎回大きな話題になる『世にも奇妙な物語』のプロモーション企画のご相談ですので、まさか!と嬉しかったです。劇団ノーミーツの初zoom演劇作品 「zoom飲み会してたら怪奇現象が起きた...」もホラー作品だったりとそもそも親和性が高かったので、これは作り甲斐があるなと思いました。

ー企画の特徴やこだわった点について教えてください。

佐久間
『西野ン会議』でこだわったポイントの一つが「臨場感」。実際には参加するユーザー以外の人物と西野ンは事前に撮影した映像なんです。でも、ユーザーには、自分も含めて登場人物は本当にリアルタイムでオンライン会議に参加している、と信じ込ませたかった。リアリティを出すために、あえて会議参加の「待ち時間」を設けました。
普通はWEBコンテンツで流行るものを作ろうと思ったら、アクセスしてすぐに遊べることが大前提。離脱の可能性も高い待ち時間は正直不安もあって、公開前日に10分から5分へ短縮したりもしました。他にも顔出しをさせたり、濃い体験を作るためにスマホではなくPCで体験してもらうなど、ユーザーへの高いハードルは一つの賭けでしたね。

岩崎
演出では、台詞やどの瞬間にどの現象が起こるかを設定する上での「間」と「視線の誘導」にこだわりました。予測不可能な状況の中で間が一拍ずれる面白さや怖さと、オンライン上ならではのリアルなタイムラグは、稽古を重ねながら細かく計算し、コントロールしました。
また、9分割の画面割りでは些細なネタだと見過ごされてしまうので、視線誘導はかなり意識しましたね。現象が起こる画面には、事前に枠にハイライトをつけたり、連続した枠で動きを起こして、ユーザーが目で追いやすいように工夫してあります。あと、リアリティを出すために役者も顔の割れていない人で、霊感の強い人を集めました、笑。

ー会議をしている様子を俯瞰で撮るのではなく、オンライン会議の画面そのものを写しているのも、よりリアルですよね。

佐久間
映像のリアリティでは、画質が悪かったり、動きが歪んでバグっぽくなってしまうなど、オンライン上のあるあるの中で一番気持ち悪い部分をピックアップして編集しているんですよね。
日野原
サウンドも不協和音を多用して、リアルな心地悪さを演出しているんです。無限音階という、音階が永遠に続いていくかのように感じる耳の錯覚を利用しています。例えば、催眠術ゲームのコーナーでは無限音階でより奇妙な世界観を出しました。
岩崎
分かりやすい怖さ、ではなくてじわじわ来る日本的な感じですよね。「違和感」と言ったらいいのか。小さな画面上での演出なので、次第に違和感が増して日常がほころんでいく感じが企画とマッチするな、と思いました。

■大ヒットの裏側には、SNSと連動したPR

ー約1500万回再生という大ヒットになったのですが、PRにはかなり力を入れたのですか。

佐久間
今までの成功体験を元に、二つの施策を行いました。一つは、コンテンツ公開前に世にも奇妙な物語の公式twitterアカウントを「西野ン」が一時的にジャックするというPRです。話題になるキャッチーな要素が欲しかったので、「何かヤバイことが起きている」という事件感を演出しました。

日野原
元々、西野ンという異形の存在が会議に参加した人に憑依するという設定なので、twitterアカウントを乗っ取るのもコンテンツを体現した良いPRになるな、と思いました。
西野ンはtwitterで不気味に呟くだけでなく、一般の人たちにリプを返したり、お気に入りしたり、日本で一番神対応するアカウントだというくらい丁寧にコミニケーションを取っているんですね。不気味だった存在から一気に「西野ンかわいい、いい奴」という反応があって。人気の秘密は、西野ンの二面性の魅力にあるのかもしれません。
佐久間
もう一つの施策は、youtuberにコンテンツの実況や拡散をしてもらうこと。そのために、顔出しができ、一画面で完結して色々なリアクションが取れるコンテンツにしました。コンテンツ内のチャット機能も開放されていて、youtuber自身もコメントを入れて、ひとボケできる余白のようなキャンバスを用意したんです。体験して終わりではなく、体験しているのを誰かに見せたいと思ってもらいたくて。自分主演のホラー作品ができる、みたいな。バージョンも劇団ノーミーツさんに無理を言って2パターン作ってもらいました。
事前にtwitterで盛り上げ、youtubeで拡散するというセットで取り組みました。PR終了後も国内、海外を含めたトップyoutuberが取り上げてくれて、継続的に人気のあるコンテンツになりました。

ーSNSをフル活用ですね。「西野ン会議」を並べ替えると「シニンノカイギ」になるなど、遊び心のあるネタも仕込んでいますよね。他にも何かありますか。

佐久間
例えば、架空のテレカンサービス名や公式URLが「LIVE MEET」ならぬ「LIVE MEAT(人肉)」になっています。あまり気付かれていないのですが、実は、下一桁が4と9の時間だけアクセス可能にしていました。5分の待ち時間で調整して、不吉そうな数字に合わせてコンテンツが始まるように設定しました。

■人気キャラクターとなった「西野ン」とは...?

ーそもそも、西野ンはどのようにして生まれたのですか。

佐久間
まずメインになる「奇妙な存在」が必要だということで、キャラクターデザインから始めました。5パターンくらいデザインして作った時に、シンプルなデザインが実は一番気持ち悪いねとなって。ホラーアイコンとして今まで見たことがなくて、なんだか気持ち悪い、そんなデザインを目指しました。
コンセプトとしては「デジタル上に潜む狂気の存在」。デジタル上で一番人間を模しているものって絵文字なんですよね。その絵文字がより人間に近づいてきた時に何が起こるのか、というところをつき詰めて作り上げていきました。実は、目とか歯は人間のものをサンプリングしているんです。そのディテールが深みになっていたりするんです。

よく見ると西野ンの目に映る何かが・・

岩崎
いくつか候補が送られてきた時に、顔が曲がっているパターンがいいとお伝えしました。人間からずれている、という意味でも重要かなと。このアイコンを見るたびに、何か嫌な気持ちになってほしいですしね。

日野原
デジタルが人間に近づいていこうとしている途中なので、言葉もまだまだ下手なんです。話し方がおかしかったり、twitterの文体が奇妙なのも、そういった理由からなんですよね。
佐久間
人間になりたがっている存在として、音声もこだわっています。人間の声をデジタル化するのではなく、逆に読み上げ機能を再生したものに抑揚をつける、といったようなアプローチが正しいのかなと。
広屋・岩崎
めちゃくちゃこだわってますね! それは知らなかったなー。

ー西野ンには、これからも会うことができるんですか。

広屋・岩崎
西野ン×劇団ノーミーツ動画、また一緒に作りたいですね! どうして会議をしているのかとか掘り下げてやりたいですね。今回はリアル感を踏まえて抑えた演技でしたが、思い切りホラー映画としてやってみるのも面白そう。
佐久間
いいですね! 実は、西野ンというキャラクターで色々展開していくことを考えていて、きっとまたどこかで西野ンに会えると思いますよ。

■カヤック×劇団ノーミーツだからこそ成功した企画

ー『西野ン会議』を振り返ってみて、いかがでしたか。

佐久間
お互いかなり細かく話し合って作り込みましたよね。モックアップ版の7画面が全部岩崎さんバージョン、面白かったなー。
岩崎
衣装も背景も全部設定して、自分で演じて自分で死んでしまうという。間のコントロールを可視化するためにやるんですよね。

7画面全てが劇団ノーミーツ岩崎さんバージョン

佐久間
このテスト動画を作ってもらったから完成できた。脚本だけだと無理でしたね。テストサイトでエンジニアに全部映像をはめ込んでもらって、最終調整しました。
日野原
ノーミーツさんから、画像の背景もアドバイスいただきましたよね。西野ンの部屋は、障子の裏からテレビの光が漏れているような、ちょっとした生活感も出してるんです。存在がよりリアルになるというか。
佐久間
ノウハウがあるノーミーツさんの知見がないと、このクオリティのコンテンツは作ることができなかったですね。僕らも、映像や音まわり、チャット機能など社内エンジニアがいるからこそこだわって作れたので、このチームじゃなかったらもっと違うものになってしまったんじゃないかな。
広屋
今までリモートで演劇を作るというところで作品作りをしていたのですが、今回はリモートで体験まで作り込むことができた企画で、僕たちとしても新しい可能性を感じました。自宅にいながら没入する体験作りのヒントになり、大きな刺激をもらえました。
岩崎
誰かと一緒に作るって今までなかったので、テクニカルな部分を含め僕らでは思いつかないようなこともあって勉強になりましたね。今日初めて聞いた話もあったし、作り込んでやるのってやっぱりいいですね。

ー制作中、困難なことはあったのですか。

佐久間
人間同士は和気藹々としてたんですが。最初にちょっと言いましたけど、ラップ音だとか、原因不明の機械の不調などがありましたね。
岩崎
イラレやスクショがおかしくなったり怪奇現象が相次いだところで、決定的にヤバイことが起きましたね。PDFのプレビューで、西野ンの部分だけこんなことに...。そういう意味でも一生忘れられない案件になりました。

右側の西野ン部分だけ高速スピンをするPDFプレビュー

広屋
実は役者さんにも色々あったみたいですし...。
佐久間
打ち上げは仲良く代々木八幡でお祓いしましたね。でも結局広屋さんとはお会いせず、ノーミーツです。
広屋
コロナ禍において旗揚げした本劇団のモットーですからね。
岩崎
実は僕も広屋さんとはオンラインだけで、実際には会ったことがないんです。広屋さんは本当に存在するのか説、ありますよ。「画面の向こうにいるのは、実在する人物なのか」というこれ、西野ン会議のメッセージにも通じる部分ですね。

代々木八幡でのお祓い

日野原
最後まで会わずに作りきるって、実はすごいことですよね。この現実世界自体が、コロナで今すごく奇妙な形になってきています。この状況だからこそ生まれた「西野ン会議」を作りきることができたのは、劇団ノーミーツさんと一緒だったからこそ、と思うんです。
佐久間
制作している僕たち自身がノーミーツで、でも困るというより仲間意識が強く芽生えたと思います。オンラインだからこそ、疑問が残らないように、フラットに話し合えるところがあって。ネガティブな問題が注目されがちな状況ですが、新しい形のエンタメを楽しみながら作ることできました。ありがとうございました!

ーーーー
コロナという特殊な状況下で制作された本企画。また実際に奇妙な現象がふりかかった中で固い絆も生まれたようです。1500万回再生の大ヒットの裏側には、自らもオンラインを活用し、熱くものづくりに取り組んだチームの奮闘がありました。人気キャラクターとなった西野ンの今後の活躍にもご注目ください。

取材・文 二木薫

【劇団ノーミーツ プロフィール】
「NO密で濃密なひとときを」をテーマに、稽古から上演まで一度も会わずに活動するフルリモート劇団。昨今の状況下で新たなエンタメの形を模索すべく、演劇、映画、広告、イベント業界の若手クリエイターが結集し、これまでTwitterをはじめとするSNSに20作品の「140秒Zoom演劇」作品を投稿、累計再生数は3000万回を突破。TVCMや番組出演なども実現。発足から二ヶ月で旗揚げ公演として長編Zoom演劇『門外不出モラトリアム』を上演し、有料チケット制で5,000人以上を動員、第二回公演『むこうのくに』では7000人以上を動員した。

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