渋谷区役所 新橋出張所 空間リニューアル プロジェクト | 面白法人カヤック

渋谷区役所 新橋出張所 空間リニューアル プロジェクト

渋谷区役所 新橋出張所 空間リニューアル プロジェクト

子供のお送り迎えやお仕事のスキマ時間に。渋谷区民が使える新たなサードプレイスが誕生!

渋谷区の出張所、区民会館、地域交流センター等の運営から、渋谷おとなりサンデーの開催まで幅広い業務を行う、渋谷区 区民部 地域振興課は、日々の活動を通じて、地域のつながりを強化し、住民が安心して暮らせる環境づくりを推進しています。

本プロジェクトでは、窓口機能の廃止を受けて「渋谷区役所 新橋出張所」を、より区民が気軽に立ち寄れる場所へとリニューアルしました。愛称は「しんばしコミュニティスペース」。区民がコミュニティ活動の場として活用できるだけでなく、連携自治体の催しにも利用される、多目的な交流スペース、休憩スペースとしての空間づくりを支援しました。

 

リニューアルコンセプトは「ロング パーティー」

これまでの出張所の空間は、長い間大切に使われてきたため、壁紙やカーペットに年季が入っていました。灰色のデスクやキャビネットが並び、家具の配置やゾーニングも固定的で、どうしても「事務所」や「執務室」といった堅い印象の内装でした。

そんなイメージでありながらも、出張所の職員さんは普段から、会議用の折りたたみテーブルをうまく活用しながら、シニア向けスマホ勉強会の会場として貸し出したり、連携している自治体が特産物の販売に使ったりと、出張所の入口側の一角を柔軟に多目的利用していることがわかりました。また、受付テーブルも窓口応対ではなく、よろず相談の場として使われることが多かったり、ガレージではマルシェ会場としても利用されるなど、すでに空間の可変性や多目的利用のニーズがあることに気づきました。ただ、それらのニーズに応えるレイアウトやツールはまだ整っていませんでした。

そこで、共創パートナーのArchTank林さんたちと共に、イタリアやスペイン、フランスなどで古くから続く、家族や近所の人たちが長いテーブルを囲んで食事を楽しむ「共食(きょうしょく)」の文化からヒントを得て、空間リニューアルのコンセプトとして「ロング パーティー」を提案。

 

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BEFORE

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AFTER

 

集った面々で苦楽を共にすることで、つながりや仲間意識を育むことができるという意味の「同じ釜の飯を食べる」という慣用句があります。一緒に囲んで体験するものは、食べること以外でも良いのです。時には渋谷区が発行するチラシを囲みママさんパパさん同士で今後の渋谷生活をトピックに語らったり、時には囲碁や将棋、ボードゲームを囲み世代を超えた交流を楽しんだり、利用者のクリエイティビティに任せて、自由に囲んでもらえる屋根つきのロングテーブル、名づけて「ロングパーゴラテーブル」を中心に置きました。

 

そうそう、パーティって外でも開催したいですよね?
もちろん、外にも持ち出して使えます。試してみたい催しや集まりに合わせてガレージにも展開し、渋谷のまちとシームレスに接続することができます。「あれ?あそこで何か面白そうなコトをやってるぞ!」と、まちゆく人たちが自然と立ち寄りたくなる、家でも、職場でもない、自分たちだけの “サードプレイス” をつくることができちゃいます。

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利用者の創造性を刺激する、ストリートファニチャーと仕掛けたち

ストリートファニチャーとは、街路や広場などの屋内外の公共空間に設置される家具や什器などの総称を言います。このプロジェクトでは、前述の「ロングパーゴラテーブル」にはじまり、様々な、多目的で可変性の高いストリートファニチャーを制作しました。どれも、岐阜県・飛騨古川の豊かな自然に育まれた、個性あふれる広葉樹の木材を使用し、ひとつひとつ丁寧に仕上げられています。木が本来持つ美しさや風合いを活かし、暮らしにあたたかさと彩りを添えてくれます。

 

■ ダンダンベンチ
ご年配の方だと座面が低い椅子は立ち上がるのが大変だったり、背の低いお子さんが座面の高い椅子に座ると足が床につかず落ち着かなかったりするので、自分のお気に入りの高さを見つけられるベンチをつくりました。マルシェの時には、商品を高さ違いで陳列し魅せることもできます。

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■ バッタンベンチ
まっすぐ伸ばすとなが〜い横長のベンチに、畳んでまとめると赤ちゃんやちびっ子があぐらをかいて過ごせる小上がりスペースに。人の空いている時間帯であればごろんと寝転がってうたた寝ベッドにしても良いかもしれません。たくさん畳んだり伸ばしたりしてほしいので、畳む時に指を挟むのを防いでくれる木の丸こぶを角につけています。かわいいですよね。

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■ ロング掲示板
付け替え可能なパーツつきの掲示板も用意しました。ガレージや道端に出張でき、どんな場所でもそこを展示会場に変えてくれる頼れるトリオです。渋谷区から発行される冊子やチラシの掲示はもちろんのこと、ここでイベントやワークショップを実施したい区民にも、ハッカブルに活用いただけます。

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■ 受付台
普段は出張所の奥が特等席の受付台。出張所の職員さん目当てに訪れる人たちがここでベルをチ〜ンと鳴らすための台にしてもいいし、片手に持っていたカップを一旦置いておけるコーヒーテーブルにしてもいいかも。こちらもガレージにサクッと出張し、マルシェのレジ台に化けることもできます。

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■ 契 (ちぎ) りジョイント - S / B / Y
こちらは「ロングパーゴラテーブル」を2つつなげておくための接続パーツ。対となるくぼみに、それぞれのピースをはめておくことで、ズレずに、ピッタリと天板がつながります。よく見ると、SHI, BU, YA からイニシャルをとった「S」と「B」と「Y」のかたちになってますね。きゅん♪

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「ロングパーゴラテーブル」を中心に置かないパターンのレイアウトもご紹介します。時間帯、人数規模、活動内容に合わせて、思うがままにいろんなレイアウトで過ごせます。

 

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奥でしっぽりおしゃべりしているグループがいますね。右は新しいコーヒーの試飲会かな?

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日常に、ひとりの時間も必要ですよね。ちょっと集中してメールを返したり、スマホをダラダラといじったり、お絵描きしたり、ぼーっと一点を見つめる時間があってもいいかも。それぞれがお好みのチルアウトスタイルで。

 

自分ごと化を促進するプロセス

この出張所のリニューアル工事期間中に、これからもこの場所を運営されていく職員さんを招待し、壁のDIY塗装ワークショップを開催しました。

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本来ならプロの職人さんに任せれば、壁の塗装はムラなく美しく仕上がるもの。でも今回はあえて、プロと素人の塗り方に“差”を出して、カジュアルで味のある雰囲気を演出してみようというデザイン的なチャレンジをしました。さらに、「ここの壁は私が塗ったんだよ!」という、関わった人たちそれぞれのストーリーが生まれることも大事にしたい。そんな思いから、職員さん自身が手を動かすプロセスを大切にしました。

終わってみると、みんなで汗をかきながら塗り上げた達成感と、自分の手で仕上げた壁や空間への愛着は、やはり格別。

作業中も、おしゃべりしながら塗り方のコツを共有したり、気づきを語り合ったりと、和やかで活発な時間に。結果として、チームビルディングにもつながる貴重な体験になりました。

 

使い方のヒントがつまった、サイングラフィック

出張所のリニューアルにあわせて、入口に設置するサイングラフィックも制作しました。このサイングラフィックは、次の3つの要素で構成されています。

  1. 施設の名称と愛称を示す看板
  2. 使い方のヒントとなるオリジナルのピクトグラム
  3. 各ストリートファニチャーに付けられたニックネームと紹介図

制作過程を共にする他に、利用者にもっとこの場所を好きになってもらうアイデアとして、空間全体や置かれている家具・什器にニックネームをつけてみました。心理学的にも、何度も名前を呼ぶことでその対象に親しみを感じやすくなるそうです。「しんばしコミュニティスペース」には、「ロングパーゴラ」「ダンダンベンチ」「バッタンベンチ」など、カジュアルな名前のストリートファニチャーがそろっています。訪れた人が気軽に名前で呼んでもらえるように、それぞれの自己紹介をサイングラフィックにして入口に掲示しました。

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Altサイン3

 

おや?気づいていただけましたか?
そうなんです、実は右下に “おまけ” として、保育園児が自由に落書きできる「お絵描きエリア」をこっそり仕込んでおきました。

ガラス面になっているので、ガラス用のマーカーやクレヨンを使えば、書いては消し、また書いて…と、気軽に楽しめるのがポイントです。万が一、はみ出しても大丈夫。サインにかかってしまってもご安心ください。サイングラフィックは、室内側から貼ってあるので問題ありません。

 

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。いかがでしたでしょうか。

新橋出張所は、もはや画一的な空間ではなく、多様なニーズに応える柔軟な場となりました。
日々「ああでもない、こうでもない」と試しながら、ご近所さん同士や利用者の皆さんで、心地よく使えるスタイルを見つけていってほしい —— そんな想いが込められています。

ここで時間を過ごした子どもたち、ワーカーの方々、パパやママ、おじいちゃんおばあちゃんの中から、いつか新しい “クリエイター (つくる人) ” が生まれるかもしれませんね。

 

フォトギャラリー

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支援内容

  • 要件定義 / リサーチ / 職員インタビュー
  • リニューアルコンセプト 策定
  • リニューアル空間の愛称 提案
  • 内装 設計 / 工事
  • 職員さん参加型 壁DIY塗装ワークショップ 企画 / 実施
  • 造作家具什器 企画 / 設計 / 制作
  • 購入家具什器 選定 / 提案
  • サイングラフィック 企画 / 制作

プロジェクトチーム

  • 全体プロデュース : 松本 亮平、井野 貴亮
  • プロジェクトマネジメント : 松本 亮平
  • クリエイティブディレクション : 松本 亮平
  • 内装設計 : ArchTank (林 恭正 + 横尾 周)
  • 内装工事 : 佐藤工業所
  • 造作家具什器制作 : 飛騨の森でクマは踊る (岩岡 孝太郎、門井 慈子、黒田 晃佑、江上 史都)
  • サイングラフィックデザイン : 大桐 佳奈
  • 空間写真撮影 : kuwata film (添田 康平)

 

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メンバーズボイス

リニューアルの打合せがスタートし、最初に空間の改修イメージを見せていただいた時には、まだ正直ピンと来ていませんでした。内装工事が終わった段階ではまだ無機質な空間でしたが、そこに木の香りがする家具が入った途端に「まさに命が吹き込まれた」という感覚になりました。利用された方からは「木のいい香りがするね」「素敵になったね」との声を沢山いただいています。
この場所に来れば楽しいことがあるというイメージを、地元の方に定着させられるように、力を尽くしてゆきたいと思います。

渋谷区 新橋出張所 小田島 利恵

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