2023.03.15
#面白法人カヤック社長日記 No.116上場のための社外取締役の選び方【 面白法人が考える上場の話#02 】
年初の社長日記「2023年の社長日記の決意。 ひとつのテーマで12ヶ月続けます。」で宣言したとおり、2023年の社長日記は、1年を通して「上場」というひとつのテーマを考えていきたいと思います。
上半期は「上場準備とその過程」のことを、下半期は「上場をしてから」のことを書いていきます。
今回のテーマは「社外取締役」です。
社外取締役は上場を「できる」イメージを持つために選ぶ
カヤックは、上場前に1回だけおこなった増資のタイミングで初めて、社外取締役と監査役を選任しました。僕たちが上場準備を始めた2011年当時は、必ずしも社外取締役がいなくても上場ができました。最近では社外取締役がいることが義務付けられ、上場する市場によっては、少なくても取締役の3分の1以上が社外であることが求められています。
日本もアメリカ型の経営にならい、取締役は外部の方を中心に構成し、社員は、執行役員という形の経営陣が、以前よりも増えてきています。
そんな時代背景もあり、社外取締役は上場前も上場後も悩むことのひとつです。ただし上場前と上場後において、求めるものが変わってきます。今回は上場前の話に限って書いていきます。
そもそも難しいことをする時は、「できる」イメージを持てるかがとても重要です。
たとえば巷にあふれている、引き寄せの法則の類の本などを読むとすべては自分次第であり、なんでも引き寄せようと思えば引き寄せられるということになってはいます。でも、実際はその人の環境や過去の成功体験、そういったさまざまな影響を受けるため、「できる」イメージが湧いていないものは、実現しにくいのではないかと思います。
上場に関しても同じです。そこでおすすめは、自分が上場できそうだぞと思えるような、つまり、そういったイメージを膨らませてくれる先輩企業や、先輩経営者を見つけることです。その会社やその人を見ているだけで、これなら自分にもできるんじゃないかと思わせてくれる先輩です。
ちなみに、僕にもそんな先輩経営者との出会いがいくつかありました。
直接本人には伝えてもいない、本邦初公開です。
一人目は、スタートトゥデイ(現:ZOZO)の創業者である前澤友作さんです。
昨今では月旅行や起業家支援など、さまざまな話題でメディアを席巻している前澤さんですが、僕がお会いしたのは上場前でしたので、ほとんどメディアには出ていなかったように思います。「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」 という企業理念を掲げて、理念にこだわった経営をしている印象がありました。
もう一人は慶應SFCでご一緒した佐野陽光さんです。佐野さんは「毎日の料理を楽しみにする」を理念に掲げてクックパッドを創業しました。
カヤックと一緒に仕事させてもらうこともありましたが、時に偏屈なまでに理念へのこだわりが強いので、僕が佐野さんと衝突してしまうこともありました。でも、佐野さんも、全身全霊をかけて「毎日の料理を楽しみにする」世界を実現しようと理念にこだわって経営しているように見えました。
この2人が「それぞれの理念を妥協することなく上場した」ということが、自分のイメージを膨らませてくれました。
もう少し詳しく書くと、、2社とも当時は競合らしい競合がいませんでした。つまり、競合がいないという状態をつくることが、上場においても理念を堂々と追求することをしやすくするのだな・・・と、自分なりのヒントになりました。イメージを膨らますというのは、こんな感じです。つまり、僕が考える「できる」というイメージを持つための社外取締役の条件は、そのイメージを膨らませてくれる、ロールモデルとなるような先輩経営者です。
そして、もう1つあります。上場までの道のりを理解している方を社外取締役に迎えることです。
社外取締役を選ぶ基準もまた会社によってそれぞれかとは思いますが、僕が上場準備中の起業家にアドバイスしたいのは、上場企業というものがよくわかっているすなわち上場経験のある起業家、そして、自分たちの少し先をいっている経営者。あまり行き過ぎていてはリアリティがないので、ちょっと頑張れば届きそうな、でもそれでいて自分たちが尊敬したくなるような経営者を選ぶのがよいと思います。
そうした経営陣を揃えることが、上場への確度を高めると考えています。
僕らはこの条件を満たしながら、しかも面白法人という会社の理念への理解をしてもらえそうな人という基準で探すことにしました。前回の社長日記でも書いたように、理念が重要だと思っていたため、理念そのものの重要性を理解し、カヤックの理念についてもある程度共感してもらい、理念に沿って経営できているかの指摘もしっかりと入れてもらいたいからです。
理念の重要性を大切にしているかどうかは、その人の経営スタイルを見ればわかりますが、カヤック自身の理念に理解があるかどうかは、正直就任前には正確にはわかりません。何回かの面談を踏まえて、しっかりと自分たちの考えを伝えること、それについてどう思うかをちゃんとディスカッションすること。これを大切にしたいと思いました。経営陣として迎えいれるわけですから本来相当慎重であるべきなのです。
ですが、日本においては、社外取締役というとどうしてもこちらからお願いするイメージが強い。話してみて合わなかったら、だめですとは言いにくい。ここは海外とは少し違うところです。海外の場合は社外取締役を面接するという感覚のオファーもかなりあるようです。
ちなみに、増資のタイミングから現在に至るまでカヤックの社外取締役を務めてくれている森川徹治さんという御仁がまさにそんな方でした。東証のプライム市場に上場しているアバントグループの創業者です。
森川さんとの出会いは、ある勉強会でした。森川さんの講演を聞き、上場企業とはこうあるべきという話の節々に美学を感じたのです。その人の考え方そのものがカヤックにとっても必要だと感じました。その上で何度か訪問させていただきながら、僕ら面白法人カヤックのお話をさせていただき、お互いの相性を確認した上で、引き受けていただくこととなりました。
そういえば、上場の準備中に、別の社外取締役の言葉で印象に残っているものがあるので紹介します。
上場準備も佳境を迎え、最後の審査直前のことでした。青ざめるようなトラブルが起き、これはまた承認が延期になるか、しばらくはできないと思うぐらいのものでした。が、このトラブルを取締役会に報告した時に、その社外取締役が言いました。
「あ、これで逆に行けるね」
そして
「上場前にはトラブルがつきものです。そしてなぜか、直前に想定しないようなトラブルが起こる。でもそれを乗り切って上場したというエピソードは巷にあふれている。だからこそ、僕はこの報告を聞いて、上場できるなと確信しました。大変なトラブルですが、奇跡を起こして必ず乗り切りましょう」
数社を上場させてきたその人の言葉には妙な説得力がありました。実際その後上場承認を受けました。
社外取締役に経営陣としてもっと活躍してもらうには?
社外取締役に対する考察は以前、僕の社長日記で一度まとめました。当時、好評でしたし、自分で言うのも何ですが、ここまで明快に書いている内容も少ないので、よければ参考にしてみてください。
「『社外取締役という職能の役割と心構え』に対する考察」
最後に。日本では、社外取締役の人材不足が課題とも言われてます。特に男女の比率なども重要になっている中で、女性の社外取締役経験人材というのは非常に少ないので、一部の人にかなりオファーが集中してしまうという状況が起きています。
そのように考えると、日本の株式市場においては、社外取締役人材を増やしたりその質をあげたりすることへの施策が必要なのではないかと思います。
上記の社外取締役の考察という、社長日記の記事でも書いたように、社外取締役は経営をする上で、本当に大事な1票をもっています。日本全体として社外取締役という職能のスキルをあげるための施策を日本全体で増やしていくことも重要なのではないかと思います。
経営者になるために勉強する本や講座はあります。ですが社外取締役になるための本や研修などは少ないのです。
また、他社の社外取締役を引き受けてみて思うのは、社外取締役はその会社の経営陣であるにも関わらず、その会社のことを外で語る機会も少ないなと思います。株主総会でも社外取締役の発言機会は非常に少ない。カヤックの株主総会では毎回社外取締役からみたカヤックを自由に話してもらうコーナーをとっていますが、そういった外への発信の場を、意識的に増やすことで、社外取締役にとっては就任している会社への理解が深まり、真の意味での経営陣になる。そんなふうに思うのです。
そして、前回の記事で書いたように社外取締役こそ、その会社への理解を深めることで、その会社の理念に対する理解が深まり、まさに、理念どおり企業が経営をできているかをしっかりとチェックできる機能を果たすのではないかと思うのです。上場企業がよりよい方向に向かっていく上での社外取締役の役割というものは日本社会においてもっと進化の余地があるのではないかと思います。
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