2017.06.01
#オモテク探偵団! No.3妊婦体験ゲームで夫が優しくなる!―神奈川工科大学小坂研究室に行ってみた
オモテク探偵団! ~オープンイノべーションの未来を発掘~とは、カヤッククリエイター陣が大学や企業の研究室にお邪魔してまだ知られぬ研究をテーマにブレストし、新しいオープンイノベーションのタネを探す連載企画です。第3弾の今回は神奈川県・厚木にある神奈川工科大学 小坂研究室を訪問しました。
研究テーマ
VR技術やセンサ技術を用いたインターフェースの研究。特にデバイスを装着して身体を動かしながら学ぶシリアスゲーム開発に力を入れている。主な開発は、男性でも胎児の胎動を感じることができる妊婦体験システム「Mommy Tummy」等。
シリアスゲームってなに?と思われた読者の方には、ぜひ最後まで読んでいただきたい!
「Mommy Tummy」で妊婦体験!
研究室にお邪魔するとすぐに、軽い飲みに誘うように「とりあえずまぁ妊婦体験してみなよ」と誘う白衣姿の小坂先生。カヤックの松田が恐る恐る妊婦体験をします。
- 松田
- よろしくお願いします。
このシステム「Mommy Tummy」は、通常10ヶ月程度かかる妊婦生活をなんと3分で体験できるという優れもの。参加者はジャケットを着用し、成長する胎児の膨らみと重さを感じながら実際の妊娠過程を疑似体験できます。臨月の胎児の体重相当の温水をポンプで送りこむことで、お腹の膨らみも実現。さらにジャケット内部に設置されたバイブレータが胎児の鼓動も再現します。
- 松田
- あああ重くなってきました!
それもそのはず、なんと約4000gの温水をポンプから送り込んでいるのです。
システムには、胎児の感情モデルが組み込まれています。腹部を触る位置と強さを計測し、たとえば、撫でると「機嫌が良い」の感情に、逆に乱暴に触ると「機嫌が悪い」の感情に移行します。
最後に、小坂さんから妊娠中の正しい寝方を伝授いただきました。仰向けに寝ると血管が圧縮されてしまうため、どちらかの肩を下にして寝ると良いそうです!
この妊婦体験システムを作った目的は、「妊娠中の辛さや喜びを体験し理解することで、男性が妊婦に対して優しくなること」だと小坂さんは語ります。もちろん、このシステムでは胎児の鼓動を外部からしか与えられないため妊娠と全く同質の体験はできません。しかし、体験した8割近くのお母さんが「似ている」という回答をしたといいます。なにより、男性が妊婦の大変さを実感することで「女性はこんなに辛いんだ」と理解することが可能になります。実際に経験した松田は「妻にもっと優しくします」と日頃の行いを反省していました。
「Mommy Tummy」ですが、産科のイベントに呼ばれることもあるそうです。「イベントに来た男性に妊婦体験ができますよーと呼びかけると避けられちゃうけど、ゲームですと言うことで敷居が低くなるんです」と語る小坂さん。確かに、ゲーム感覚であれば楽しみながら学ぶことができますよね。
小坂先生にお話を伺いました
― この研究室で研究している内容をわかりやすく一言で教えていただけますか?
- 小坂先生
- VRを使って、めんどくさいことをゲームで解決するシリアスゲームを作っています。
― VRって最近よく聞くんですが、いまいちわかりません...
- 小坂先生
- 例えば「Mommy Tummy」はまさにVR(仮想現実)と呼ばれるものです。VRと聞くとでっかいヘッドマントディスプレイを装着するイメージですよね。でも実際は「見かけや形は現物そのものではないけど本質的で、効果としては現実であること」と定義する方がいいと思います。現実に効果がないと意味がないんです。
― シリアスゲームって何でしょうか?
- 小坂先生
- シリアスゲームはエンターテインメント性だけではなく、ゲームや遊びを通じた知識の習得といった教育目的をもっています。この研究室では、ゲームの中毒性という魅力を活かして、社会貢献するデバイスを開発しています。例えば子供が掃除しないという問題をよく聞きますが、掃除機に特殊装置を取り付けることで、妖怪を吸引しているような体験を提供できる「妖怪クリーナーズ」を開発しました。実際は、本物のゴミを掃除しているんですが、楽しみながら掃除ができますよね。我々は、こういったデバイスの提案をしています。
― ゲームで社会貢献なんてすごいですね。
- 小坂先生
- さっきの「Mommy Tummy」の妊婦体験の時に、作った目的は「妊婦に優しくしよう」って言いましたけど、実はそもそものきっかけは、電磁弁が格安で手に入ったからなんですよ(笑)。でも結果的に誰かの役に立つ研究であればいいなと思っています。
― まだ世の中ではシリアスゲームという言葉自体に馴染みが無いですよね。商品化まで見据えて研究されているんですか?
- 小坂先生
- ゲーム会社からのオファーには飛びつきます!!!!ちなみに、「妖怪クリーナーズ」を某掃除機メーカーに提案してみたことがありますが、全然ダメでしたね(笑)。シリアスゲームという言葉は研究者にはよく知られていますが、一般的には「シリアスゲームを取り入れよう」という風潮がたまにみられるものの、まだまだですね。
小坂先生とカヤックのクリエイター陣でブレスト!
妊婦体験とインタビューの後は、カヤックのメンバーと小坂先生で、これまでに紹介した研究をもとに、どんなシリアスゲームができるのかブレストを行いました。
参加メンバー
神奈川工科大学 小坂准教授
カヤック 松田壮、 岩淵勇樹
ライター 田代伶奈
- 岩淵
- シリアスゲームだから子供とか教育のためになるものがいいですよね。
- 松田
- たまごっちみたいなものはどうですか?
- 田代
- たまごっちってキャラクターを育成するゲームですよね?シリアスゲームになるかな...?
- 小坂先生
- そうですね、例えばスマホのアプリと連動させて、睡眠計測機能を利用するとか。
- 岩淵
- 子供ってなかなか寝ないですもんね。
- 松田
- あ、それで規則正しい睡眠をするとキャラクターが成長する。不規則な睡眠をしていると病気になるとか(笑)。
- 岩淵
- いいですね、スマホをずっといじって寝ない子供も早く寝かすことができますね。
- 田代
- スマホのキャラクターといっしょに子供も一緒に育つし、一石二鳥!
- 小坂先生
- そんな難しい仕組みじゃないから結構簡単につくれそうですよ。
ということで、お母さんも喜ぶアイデアがこちら!
- 岩淵
- 子供とか教育でいくと......子供って手を洗わないですよね!
- 松田
- 子供だけじゃなくて、自分も洗うのをついつい忘れます。
- 田代
- うわ、汚い(笑)。
- 岩淵
- さっきの「妖怪クリーナーズ」みたいなイメージですけど、鏡の中にウイルス(敵)をプロジェクションするとか。
- 田代
- それで、手を洗うアクションで敵を倒すってことですね!
- 小坂先生
- お、それは面白いですね!
- 松田
- ただ手を洗うだけじゃなくて、石鹸の量とか、どこを洗ってるかとかが大事ですよね。
- 小坂先生
- なので、泡の量は「カメラ」と「色検出」で、手の動かし方は「カメラ」と「動き検出」で認識するとか!
- 岩淵
- そこから攻撃力を変化させたらいいですね。
- 小坂先生
- ゲーム感覚で正しい手洗いを促すことができますよね。
- 松田
- いいですね。この企画もターゲットは小学生以下くらいのお子さんを持つ家庭ですね。
- 田代
- あと、松田さんも(笑)!
企画書の二つ目はこちら。
その他にも今回のブレストでは、ゴミの分別を間違えると噛まれたり叩かれたりするというシリアスゲームや、起きれない人向けのひたすら逃げる目覚ましなど、さまざまなアイデアが生まれました。
はたして次の探偵団では、どんなアイデアが生まれるのでしょうか?お楽しみに!
オープンイノベーション、請け負います。
カヤックでは、オモテク探偵団をはじめとして、企業、研究者、クリエイターを繋ぎ、新しい価値を生み出すオープンイノベーションに、積極的に取り組んでいます。「商品企画アイデアがほしい」「新たな技術に関心がある」などの悩みをお持ちの皆様、企画から実製作まで、幅広くご相談をお待ちしています!
取材協力
神奈川工科大学 小坂研究室のみなさま
Writer:田代伶奈