2023.03.28
【祝開校!】「マルチワーク」を知り、学ぶ、『多業多福クラス』第1回レポ
副業ならぬ複業って?“わたしらしい働き方”を見つける、山形県小国町の「マルチワーク」のリアルを聞く!
移住・関係人口促進のためのマッチングサービス「SMOUT」が、昨年2022年に立ち上げた、マルチワーク促進事業「多業多福」。1つの職場に縛られず、時間や季節などに応じて、複数の職場を組み合わせて働く「マルチワーク」という働き方が、多様性を生み、自分らしい生き方の選択肢の1つになるのではと期待されています。
実は、このマルチワーク、「農林水産業、商工業など地域産業の担い手が欲しい、けれども、繁盛期・閑散期で、安定した雇用環境を提供できない」という地域の課題解決にもつながるため、2020年より国も「特定地域づくり事業協同組合」という制度で後押ししています。
「多業多福クラス」は、「マルチワーク」について、みんなで知って、学んで、実践していくための、“学校”をコンセプトとした無料オンラインイベントです。授業では、マルチワークに取り組んでいる自治体担当者や、先駆者の皆さんを講師にお招きし、成功例も失敗談も、なんでも聞くことができます。
記念すべき「多業多福クラス」第1回目は、定員を超える32人からの応募があり、満員御礼で開校しました。
3月2日 午後7時30分、地域の人も、マルチワークに興味がある人も、バーチャル空間の「教室」に集まりました。
ここから「多業多福クラス」の様子をお届けします。
◎【1時間目】「おぐマル」事例紹介
面白法人カヤック/高橋かの(以下、高橋):本日が記念すべき第1回の開講となります。では、本日のゲスト講師のおふたりをご紹介します。
【講師プロフィール】
◆ 組合理事 兼 事務局長 吉田悠斗さん
早稲田大学政治経済学部を卒業後、株式会社ユーグレナに就職。山形県小国町地域おこし協力隊を経て、2021年8月に「おぐにマルチワーク事業協同組合」を設立。現在は、事務局長を務めている。
◆ 組合職員 兼 事務局員 小林光さん
上武大学ビジネス情報学部を卒業後、出身である埼玉県深谷市の建設系の会社に就職。1年ほど勤務した頃に、友人の紹介で山形県小国町へ旅行し、その際に「おぐにマルチワーク事業協同組合」の吉田さんと意気投合。その後移住を決意し就職。現在移住して半年ほど。
▼特定地域づくり事業協同組合とは
・国の制度として令和2年度から始まっており、現在70ほどの自治体が取り組んでいる
・地域の事業者による組合に、国が設けた制度に従って、特別に派遣業の資格が付与され、興味のある個人を複数の組合員の職場に派遣できるというもの
・職員と呼ばれるマルチワーカーは、年間を通じて一定の給与と社会保障を受けながら地域で働くことが可能となる
・地域おこし協力隊とは違い、働ける期間は無期限
▼「おぐにマルチワーク事業協同組合(おぐマル)」とは
・2年前の、2021年の8月に立ち上がり、11月から人材派遣業をスタート
・山形県小国町の14事業者が所属し、現在5名のマルチワーカーが働いてる
・いろんな事業が時給制となっており、最低週3日から週5日まで仕事を選べる
・森が94%を占める小国町で、「山の麓にある仕事と暮らし」をするためのサポートとして、国の「特定地域づくり事業協同組合」制度を活用
・月1回の面談や、資格が必要といったときの資格補助もあり、キャリアアップサポートや、山形県ならではのいろんな仕事をしてみたいといった方へのサポートも行う
「おぐマル」を立ち上げたのは、任期満了後の「地域おこし協力隊」
- 高橋
- 吉田さんは「おぐマル」の立ち上げをされたと思うのですが、小国町として、複業協同組合をやってみようとなったのは、何がきっかけだったんでしょう?
- 吉田さん
- (以下、吉田)
- 私は、埼玉県で高校まで生活していて、大学と就職が東京だったんですけれども、農業に興味を持って、協力隊として山形に移住しました。その時、多くの農家さんにお世話になって、3年間の任期が満了したあと、関東に戻るっていう手も考えたんですけれども、任期の最後に、この事業協同組合制度ができまして、小国町役場の職員さんから、「こういった制度を使って、町内のいろんな事業者の人材不足を解消しながら、20代30代を増やす仲間作りをしてみないか」という話をいただき、これはお世話になった農家さんに恩返しするきっかけですし、山形県外からの仲間を集めるいいチャンスだなと思って始めました。
週3の勤務から始められる「おぐマル」のマルチワーク
- 高橋
- なるほど、最初は若者を呼び込んでいく仕組みや、コミュニティ作りの意図で、複業協同組合を作ろうってなったんですね。「おぐマル」では、具体的にはどんな仕事を組み合わせているんですか。
- 吉田
- 今日出席している小林は、いまはスキー場で働いてます。ほか4人のうち2人は日本酒の酒蔵で働いていて、もう2人は半導体関連の工場で働いてます。
- 高橋
- 小林さんは夏から参加しているとのことですが、マルチワークの内容をもう少し具体的にお伺いしてもいいですか。
- 小林さん
- (以下、小林)
- 2022年7月に山形県小国町に移住してまいりまして、そこからは温泉旅館や林業などでお仕事をして、冬からはスキー場で除雪仕事をしたり、季節に応じた仕事をしています。
- 高橋
- 結構体力仕事ですね。
- 小林
- はい、でも僕、きつい仕事も大好きなので。(笑)
- 高橋
- 小林さんは小国町のことを、移住する前からご存知だったんですか。
- 小林
- 移住3ヶ月前の4月に、元々、吉田と共通の友人がいたこともあって、初めて小国町を訪れまして。最初はただの旅行だったんですよね。
- 高橋
- そしてその3ヶ月後にはもう引っ越してるってことですか。
- 小林
- そうですね就職決めて移住してましたね。早かったんですよ。
- 高橋
- この「マルチワーク」という働き方が選択肢としてあると知ったのも、その4月に行ったときですか。
- 小林
- はい、制度を吉田から詳しく聞きまして、衝撃だったのは週休3日4日の正社員が実現できるということでした。週5〜6日働くのが当たり前だと思っていたので、ちょっとカルチャーショックじゃないですけど、驚きでした。
- でも、働き出してわかったこともあって。田舎で週休3日と聞くと、みんなのんびり生きてるのかなって勝手に想像していたのですが、実際は自分自身で何かしようとか、そういった方が非常に多くて刺激を受けました。
- 高橋
- 先ほどのマルチワーク内容を聞いてても、体力とかハード上の仕事が多いような印象でしたけど、結構自分のやりたいことなど、しっかり動かれてる方が多いんですね。
- 小林
- もちろん女性でもできるような仕事もたくさんあります。例えばカフェでしたりとか、事務仕事もございますし、たまたま僕が何でもやりたいなと思って、きつい仕事も全然ウェルカムって感じで楽しんでいます。
- 高橋
- それは毎年同じ仕事をルーティーンしていくんですか。
- 小林
- そういった方もいますし、僕の場合は未定で、自分の選択次第なのかなと感じています。代表の吉田や、その他の派遣先の組合員さんと話し合いをして、すり合わせていくこともできます。マルチワーカーを理解いただいている組合さんが多いので、かなり自由に設定できるかなっていうのが僕の印象ですね。
マルチワークという働き方を、地域が少しずつ受け入れてくれるように
- 吉田
- 小林は、実は組合の事務局員とマルチワーカーを兼ねてもらってます。派遣先でもやっぱりマルチワーカーってなんで週3日しか来ないのとか、3ヶ月ごとに関わっちゃうと教える手間がかかっちゃうから、そういう働き方受け入れられない、みたいな事業者さんもいます。でも、小林は、そういった会社に行って、「こういう働き方が、これから若者に流行るんですよ」みたいなこと言いながら、新たな働き方を受け入れていってもらうような仕事も担ってもらってます。
- 小林
- そうですね、本当にその雰囲気が変わってきたなと感じますね。
- 吉田
- いま組合の登録事業者14社のうち、半分が農業で、米や山菜を作ってる農家さんなんですが、もう半分は、酒蔵、薪ストーブとかペレットストーブを販売している会社、ガソリンスタンドを経営している会社、小林も最初に行った温泉旅館やスキー場といった第3セクターの会社など、いろんな業種があります。
- 高橋
- 小国町全体で14社も集まってきてたら、新しく自分のところにもマルチワーカーが来て欲しいな、というように興味を持ってくれる事業者さんは増えているんでしょうか。
- 吉田
- そうですね、増えてます。どこも求人は出してるけどなかなか人が集まらないという事業者さんが多いので、「おぐマル」では複数のお仕事を組み合わせて、働き方を変えながら魅力的な仕事と感じてもらえるようにしていきたいと思っています。今は「おぐマル」の運営の人が足りてないので増やす予定はありませんが、将来的には、小国町にある400ぐらいの事業者全てが、組合に加盟してくれたらいいなと考えています。
複数の仕事の掛け持ちって大変?ー地域企業の理解も不可欠
- 高橋
- なるほど。とはいえ、複数の仕事を掛け持ちする中で、常に見守ってくれている人がいるわけではないので、ハードワークになりがちなったりするのかなとも想像するのですが、その辺はどうでしょうか。
- 吉田
- そうですね。山形県小国町も、当初マルチワーカーに対する理解はあまりなかったんですが、地域おこし協力隊の前身となった「緑のふるさと協力隊」というものを、15年も受け入れていた町だったんですよね。そうなってくると、町民の人は協力隊ってこういう仕事だよねってわかってきて、7000人の小さな町なので、ほぼほぼ全ての人が協力隊という仕事を理解してくださるんです。
- マルチワーカーが1つの派遣先に週3日行って、残りの2日その事業所に行かないとなると、その2日間は遊んでると捉えられがちかもしれない。だからこそ、「マルチワーカーって、他の事業者のところにも働きに行っているし、こういうもんだよね」と、少しずつ(地域で)理解が深まりつつあるのは実感してます。1年でこれだけ理解が広がったので、この調子で今後もさらに浸透させていきたいなと思ってます。
小国町で暮らし始めてから「幸せのハードルが下がった気がする」
- 高橋
- 実際に小林さんはマルチワーカーとして働く前には、別のお仕事をされてたと思うんですけど、そのときと比べて今の生活ってどうですか。
- 小林
- かなり充実してますね。僕の友人が3人移住してきてくれて、既に同じ会社で働いてるんですけど、この4月にさらにもう1人来る予定なんです。
- 小国町は小さい町なんですけど、仕事終わりに週1〜2回、10人くらいで集まって夕食を食べるなんてこともしています。電車通勤が多い前の職場環境だったらできないことだなと思いまして。
- あと夏にBBQを企画すれば、もう10〜15人くらい集まってくれます。今は雪がすごいんですけど、ちょうど春になりそうなところで、もう冬が終わるだけですごい幸せな気分なんですよね。
- 高橋
- 大変さとのコントラストがあって、より楽しいのかもしれませんね!
- 小林
- 小国町に移住して変わったなって思うことの1つが、幸せのハードルが下がったことです。ご飯が美味しいから幸せとか、水が美味しいから幸せみたいな。
- (参加者からの共感のリアクション)
- 高橋
- 会場の方も共感してくださっているようです。水とか空気とか、大事ですよね。
マルチワーカーが主体的に動ける環境づくりとして、副業も推進
- 高橋
- 反対に、マルチワークのここをもうちょっと変えたら働きやすいのにな、みたいなことってありますか。
- 小林
- 休みが取りやすいっていうのはかなりいいんじゃないかなと思っています。自分の意思によって、休みも給料もある程度変動させられるっていうのは、他の仕事にはない魅力なのかなと感じますね。
- 強いていうなら、もう少し都会と同じような給与水準になれば、全国からもう人が押し寄せるように小国町に来ると思うんですけれども・・・。
- 高橋
- 組合の中でのお仕事以外に、別の仕事をするっていうのは認められているんですか?
- 小林
- 休みの日にするのはありですね。当組合は副業を推進しております。
- 高橋
- なるほど。給料的なところを上げようと思ったら、そのまま休みの日を使って副業するという選択もあるんですね。
- 小林
- 副業に関する人間関係のサポート、例えば、団体や商工会の人の紹介とかも「おぐマル」では積極的に行っています。
人生100年時代の課題とマルチワークは相性がいいかもしれない
- 高橋
- おふたりには、どういう人がマルチワーカーに向いているのかっていう仮説はありますか?
- 小林
- 変化を求めてる人なのかなっていう気がします。僕も埼玉県深谷市に22年間いたんですけども、ちょっと飽きてきまして(笑)なんとなく転職とか考えてる時期だったので、小国に来たのがちょうどよかったんです。
- 高橋
- なるほど、人生のステージが変わっていくのを楽しいって感じるタイプには向いてるのかもしれないですね。
- 小林
- そうですね、人によって、その時の人生をどう良くしていくかっていう方法は違うと思うんですけども。マルチワーカーにはいろんな人がいるので、いろんな幸せの感じ方に寄り添う組合でありたいなとも思います。小国町ではのんびり働くこともできますし、チャレンジ精神豊富な人も働けると思いますので、それぞれ人に合わせた生き方ができるんじゃないかなと思います。
- 高橋
- 吉田さんはいかがですか。
- 吉田
- これまでは、教育、働く、老後、という大きく3つのステージに分割されているイメージだったと思うんです。でも、これからは平均寿命100年以上に限りなく近づいていく中で、この3つのステージという概念ではなくて、常に学び直しをしながら、前向きに長く働き続ける環境をどう作るのかが課題だと思っています。その課題にとって、マルチワークはすごくいいんじゃないかなと。例えば高校と大学の間にマルチワークしてみるとか、新卒で入社して一旦辞めてから、地方でマルチワークして自分の向き・不向きを考える時間をもつのもありかと。人生100年と言われてる中で、3つのステージだけじゃなくて、マルチステージ化しながらいろんなキャリアを探求するのに、地方でのマルチワークは選択肢になるんじゃないかと思っています。
- 高橋
- 確かに。これは年齢制限みたいなものはないんですよね。
- 吉田
- そうですね、ないです。
マルチワークが全国につながる夢も
- 吉田
- あとは、山形県だけじゃなくて、全国のマルチワークの組合と繋がりたいなっていう思いがあります。今は自治体から助成金をいただくという制度上難しいんですが、全国版ネットワークができたら面白いだろうなとか考えています。例えば、山形県は雪国ですので、どうしても雪国に合わない人は、冬の期間だけ九州とか沖縄にいて、逆に春夏は東北にいるみたいな。
- 高橋
- 本当ですよね。気候によって合う合わないがあったりしますからね。
- 吉田
- はい。今、マルチワークをする仲間を、通年で採用しているんですが、現在4名募集中です。興味ある方、ご覧いただけると嬉しいです。
▼「おぐにマルチワーク事業協同組合」2023年度正社員募集の詳細はこちら
https://smout.jp/plans/7086
・・・とここで1時間目は終了。
2時間目では、A、B、C、Dの4つの班に分かれて、席を移動し、グループごとに意見交換や、もっと講師に聞きたいことなどを出し合いました。
グループでは、「年齢というハンデがあるので、無理かなと思っていたが、年齢よりも、自分のやりたいことややる気とかで、動いていってもいいのかなと思えた」といった前向きな感想や、「いろんな業種の方を集めて、新しい会社を作って仕事をつくるとか、そういったこともできそうですね」というアイデアも。
一方、「組合に入る事業の規模はどのくらいにしたらよいのか」といった地域側の疑問も出て、活発な意見交換が行われました。
4時間目は、このマルチワークに特化したSMOUTのサービス、「多業多福」の紹介。そして最後は交流会も開かれました。
「参加者日誌」という名のアンケートも実施し、さらなる「多業多福」のパワーアップにつなげていきます。
全国各地からご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました!
次回の「多業多福クラス」の開校は、5月を予定!
詳細は、決まり次第SMOUTホームページに掲載します。
みなさまのご来校お待ちしています!