NVIDIA・田中秀明氏に聞く「メタバース開発とプラットフォーム」 | 面白法人カヤック

Corporate

2022.10.18

#カヤックとメタバース No.2
NVIDIA・田中秀明氏に聞く「メタバース開発とプラットフォーム」

Corporate

メタバースに、GPUや高性能なサーバー群は必須だ。そしてメタバースを開発するには、コンシューマ向けから企業向けまで、技術基盤の整備も必須のものである。
NVIDIAはその両方を手掛ける、数少ないキープレイヤーでもある。2019年には「Omniverse」というメタバース開発プラットフォームを発表し、様々な企業とのコラボレーションも進んでいる。弊社のメタバース部門を率いる天野清之が、NVIDIA・エンタープライズマーケティング シニアマネージャの田中秀明氏(以下敬称略)と、メタバースに必要となる技術を語り合った。

向かって左から、NVIDIA・エンタープライズマーケティング シニアマネージャーの田中秀明氏、カヤック天野

■NVIDIA Omniverseの実力とは

天野
先日、「NVIDIA Omniverse」を体験する機会をいただきました。率直に「クオリティ高いな」と思いましたね。私が使ったのはCGクリエイター向けの機能でしたが、正直、品質・UIともに、とてもいい。本当にクオリティが高い映像ができるので、「もっといろんな方が使った方がいいのでは」と思ったくらいです。パフォーマンスもかなり良かったです。現状は少しとっつきにくい印象もあって、そこがもったいないとも感じました。
田中
Omniverseは2019年春にコンセプト発表したもので、ベータ版が出た2021年から色々な企業で使われ始めています。最初にフォーカスにしたのが企業向けの「3Dコラボレーション」や「デジタルツイン」なので、どうしてもデータやシステムが重いところはあります。現在はもっと幅広く使える方向に進んでいるところです。
天野
コンシューマ向けも考えているんですか。
田中
はい、コンシューマ向けまでもっと横展開していくことを考えています。とはいえ、現状ではまだゲームエンジン全体の置き換えを狙っているわけではなく、一部を置き換える感じで考えています。環境が整えば、よりライトなところへ広がっていくでしょう。Omniverseは、いまだと、AIを使ったシミュレータとしての活用も多いですね。

田中
例えばドライブシミュレーション。自動運転車開発では、AIに運転をラーニングしてもらわねばなりませんが、実車を使って街中を走らせるのは危ないですよね。それに、「悪天候での運転を学習させたい」と思っても、都合よく雨も雪も降らない。そもそも、シリコンバレーではほとんど雨や雪が降りませんし(笑) とはいえ、自動運転を開発するには、さまざまな天候をラーニングする必要があります。
だから、その環境を人工的に作ってしまおう、ということになりました。メタバース内に作った街の中で、実車と同じセンサーを搭載した自動運転車を実際に走らせてラーニングを進めます。同時に、自動車同士のインタラクションも学びます。シミュレーション内を走る他の自動車が幅寄せをしてくるようになっていて、その中で安全に運転する方法も学ぶわけです。実は毎年、弊社が開発した現実の自動運転車を本社の周囲で走らせるのですが、これもまったく同じ道路をOmniverseの中に作り、学習させています。

Omniverse上につくった雪での走行シミュレーション

天野
産業向けに広く活用されているんですね。
田中
はい。産業向けのニーズでは、シミュレーションをしたり、工場ラインの設計をしたり、という例が多いですね。BMWの例がいいかもしれません。これは工場でのロボットシミュレータがベースです。BMWの工場ラインを作るために、多数のロボットと人間を配置した生産ラインをOmniverse内に作り、シミュレーションとロボットの学習を行っています。工場では大量の産業用ロボットを使うので、その動きをラーニングさせないといけないのですが、Issac SimというAIロボットシミュレータを使います。それを工場内での多数のロボットと人を連動させる必要があるので、実際に配置する前に、Omniverseの中でシミュレーションさせているわけです。
天野
シミュレーションの部分は今回試すことができなったので、次の機会には試してみたいです。

BMWのOmniverse内の生産ライン

■シミュレーション+メタバースで「労働をエンタメ」に

天野
弊社の思想は「作り手を増やす」ことにあります。だから我々としても、クリエイターエコノミーをテーマにしたメタバースを作りたい、と考えています。要は、世の中にあることを「エンタメ」としてどう切り取るのか、ということだと思うんですよ。例えば、警備員をやるとします。現在は人間がやっているわけですが、デジタル機器が進化しているので、人間自身がやる必要はない。シミュレータの中で、人間が監視機器を使うことで代替できるなら、ほぼ現実世界と同じことが、仮想世界でできることになります。実際の警備員という仕事は「労働」として大変なものです。しかし仮想世界だと、そういうこともカジュアルにできるようになるんじゃないかと思うんです。すなわち「労働じゃない感じで労働する」。これが1つの課題じゃないかと。「労働として強いる」のが旧世界だとすれば、労働と遊びが一致するのが、これからの時代の考え方。すべての人がクリエイターエコノミーに参加し、労働をエンタメに変換していくこともできるんじゃないか、と考えているんです。
田中
なるほど。シミュレーションであるとか3Dの技術をどこに使うか、を考えていけば、トライアルできそうです。
天野
例えば高知県は「スマート農業推進計画」としてAIを使った農業に力を入れていて、ドローンを酒米製造に生かしていたりします。そのプロジェクトを担当したエンジニアは東京都にいて、クリエイター誘致の募集で参加したそうです。栽培は自体はシミュレーションで行い、現地で必要な作業は現地の方にお願いしています。究極の話、「現実世界はフルオートで運用される」ということになる。そうすると、精神と肉体が摩耗しないから若々しい……ということだってあり得そうです。
田中
ドローンの場合、GPSによる位置認識だけに頼る形ではなく、自動運転車と同じように自律でも飛べますからね。
天野
ドローン配送とかが進めば、空にドローンが大量に飛ぶ時代がきます。宅配便事業で、人の労働が減る可能性はあります。ただ管理をどうするかが課題ですね。ふざけて「痛覚で管理するのはどうか」という話をしたこともあります。ドローン1000台を、人間一人では管理しきれません。しかし、異常があった場所がチクリと痛む、という形だったら……。
田中
感覚と紐づける、というやり方はあり得ますね。
天野
まあ、衝撃でもいいのですが。そうやって、労働をエンタメに紐づけていけないかな、とも思います。

■音声インターフェースが新しい「産業」を生み出す

田中
インターフェースの開発はNVIDIAも進めています。例えば音声コントロールとか。
天野
音声による自然対話の開発は、我々もお手伝いしたことがあります。でも、国内の技術だと、うまくいっているところは少ない印象ですね。
田中
AIで音声対話、という意味で言えば、「自分の音声をAIで合成する」という取り組みもしていますね。実際には本人は知らないような話でも、この技術を使えばAIを使って「本人が話しているように」伝えることができます。あるビデオでは、弊社のCEO、ジェンセン・ファンをキャラクター化して喋らせたりしているんですが、話している内容は、絶対本人が興味を持ちそうにない話だったりするんですよね。

ジェンセン・ファン本人と話す、ジェンセン・ファンのキャラクター

田中
これは「NVIDIA Maxine」という技術で作っているのですが、本人の顔・本人の声だけれど別の言語で話す、ということもできます。

https://youtu.be/3GPNsPMqY8o

天野
これ、すごいですね。メタバースではアバターが重要ですが、言語の違いの問題などを解決できそうです。
田中
音声合成技術のMaxineは実用段階ですね。パートナー企業にSDKを提供し、それぞれでサービス開発が進んでいます。
天野
先ほどもお話ししましたが、自然対話系は、日本ではなかなかうまくいかないんです。というのは、日本のIPとの親和性が大変で。技術的なことではなくバランスの話なのですが。声優の声でキャラクターを喋らせるとき、IPの権利を持っているところとしては、あまり「攻めたこと」ができない場合もあって。3D化するとゲーム化権にぶつかるし、声優さんの声の権利ともぶつかることがあります。そういう複雑な事情を整理することができれば、いろんな可能性が広がります。ビジネス的な観点で言うと「コンテンツが不滅」になる。ストーリーは終わっても、仮想世界に生存させちゃう手はあると思うんです。もちろん、向くIP・向かないIPはあると思うのですが、キャラクターの消費から抜け出せるように思います。

■日本の「産業メタバース」には発想転換も必要に

天野
NVIDIAではメタバースやAIを軸に、色々な技術を開発しておられますよね? そんな中で「これは難しい」と思うところはどこですか?
田中
ちょっと質問の意図とは違う部分かもしれませんが、「日本市場でのNVIDIA」としては、投資が企業からなかなか入ってこない、という点ですね。企業内に「DX推進部」のような部署ができても、十分な予算が出てこない。だから試していただくことができなかったりもします。前出のBMWの事例でも、BMWの中に担当エンジニアがいて、弊社と協力した上で進めています。しかし、日本ではシステム開発が外注なので、海外に比べ、ワンステップ・ツーステップ遅れている。だから日本はなかなか事例が出てこない、という部分もあります。
天野
そういう事例は、ぜひ作っていきたいですね。
田中
テストしていても社名が出せない、という企業もいらっしゃるんですよね。予算については、国が補助金をつけてくれれば……とも思います。
天野
資金が豊富な企業がトライアルとして実証してくれるとありがたいのですが、それがクローズ化している部分があるかもしれません。
田中
「産業メタバース」、導入事例はあるのですが、盛り上がりには欠けている部分があるように思います。
天野
弊社もいろんな企業から、産業メタバースに関する相談をたくさん受けるんです。私の仕事の3割くらいは研究開発なので、そういうご相談には取り組んだりもしています。直近の二週間でも3社くらい、「こういうことをやりたい」というご相談がありました。ただ、自分たちの企業の体質についてネガティブに捉えていらっしゃるところも多いですね。「役員層はまだまだ変化に気づいていない。しかし、そこから一段階下のレイヤーにいると危機感が強い。どう会社に、上層部に判断してもらうのか」という部分に悩まれている方々がたくさんいるんです。ですから、取り組みたい会社は国内にはいらっしゃる、と感じています。ただし、すべての企業が十分な予算をお持ちというわけではないのですが。AI技術に関する実証実験は、できるだけたくさん手掛けたい、と考えています。ですから、良い案件があったらぜひご相談させてください。
田中
「産業メタバース」「AI」「DX推進」といっても、実際にはいろんな部分から着手できるはずです。今日ご紹介したOmniverseも、多数の技術で構成されていて、それぞれの使い方は全部違います。興味のあるところ、一部だけでいいからテストしていただいて、今広がりつつある考え方をご理解いただければ、と思います。

バックナンバー
#カヤックとメタバース

No.7
『アオアシ』取材・原案協力の上野直彦氏がメタバース事業部アドバイザーに就任!カヤックで描く新しい世界とは?
『メタバース事業部長/カヤックアキバスタジオCXO 天野清之 × AGI Creative Labo 代表取締役 上野直彦氏対談 このほどカヤックのメタバース事業部のアドバイザーに就任した上野...
2023.07.19
クリエイターエコノミーとメタバース
クリエイターエコノミーとメタバース
No.6
クリエイターエコノミーとメタバース
本格的にメタバース関連ビジネスを加速させるべく、2022年2月にメタバース関連事業専門部隊を設立。今年3月に発表したKDDIのメタバース「αU metaverse」の総合プロデューサーに天野...
2023.04.21
ChatGPT連携も視野ーーKDDIメタバース「αU(アルファ・ユー)は何を目指す?
ChatGPT連携も視野ーーKDDIメタバース「αU(アルファ・ユー)は何を目指す?
No.5
ChatGPT連携も視野ーーKDDIメタバース「αU(アルファ・ユー)は何を目指す?
KDDIは、2023年3月7日、メタバースとWeb3時代のサービスを提供する新しいサービス「αU(アルファユー)」を開始することを発表しました。このサービスは、リアルとバーチャルの境界をなく...
2023.04.11
廣瀬通孝名誉教授に聞く「面白いけど真面目」なVRとメタバース
廣瀬通孝名誉教授に聞く「面白いけど真面目」なVRとメタバース
No.3
廣瀬通孝名誉教授に聞く「面白いけど真面目」なVRとメタバース
東京大学 先端科学技術研究センターの廣瀬通孝名誉教授は、日本におけるバーチャルリアリティ(VR)研究の第一人者。この領域に1980年代から携わり、今も精力的に研究を続けている。 VRやAR、そし...
2022.11.04
カヤック・メタバース事業責任者 天野清之が考える「クリエイターとメタバース」
カヤック・メタバース事業責任者 天野清之が考える「クリエイターとメタバース」
No.-1
カヤック・メタバース事業責任者 天野清之が考える「クリエイターとメタバース」
カヤックは今年2月にメタバース関連事業専門部隊を立ち上げた。ここから本格的に関連事業に参入し、ビジネスを加速する。 今回から数回に分けて、メタバースの今後について語っていこう。初回は弊社クリエ...
2022.10.04

関連ニュース

© KAYAC Inc. All Rights Reserved.