ウェルビーイングの キーパーソン三方に会って考えた これからの仕事や地域のこと | 面白法人カヤック

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2022.07.22

#面白法人カヤック社長日記 No.107
ウェルビーイングの キーパーソン三方に会って考えた これからの仕事や地域のこと

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さて、次回の社長日記は何を書こうかなと、自分のGoogleカレンダーでスケジュールを振り返っていたところ、気がついたことがあります。

5月は、なぜかウェルビーイングと縁がある月だったなと。仕事柄、鎌倉という場所に客人をお招きして、さまざまな気づきのあるディスカッションをする機会があるのですが。

5月にお会いした方を見てみると、なぜか共通してウェルビーイングに関わる方ばかりでした。

日立製作所フェローで、幸福度測定アプリを運営する株式会社ハピネスプラネットCEOでもある矢野和男さん。著書『データの見えざる手~ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』は、あまりに名著です。

楽天を最近退任された北川拓也さん。楽天では常務執行役員、そしてCDO(Chief Data Officer) としてグループ全体のAI/データの戦略立案・実行を担っておられましたが、これからウェルビーイングが社会ビジョンの指標に なるという未来を見据えて、石川善樹さんたちとWell-being for Planet Earth財団を設立され、理事に就任されました。

そして、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授で、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長でもある前野隆司さん。10年以上前からご夫妻で幸福学、ウェルビーイングの研究を始められ、最近では『ウェルビーイング』という本も出版されました。ちなみに鎌倉市ウェルビーイングリサーチオフィサーもされています。

御三方との出会いを通じて、ウェルビーイングについて思ったこと

そこで、この御三方との会話を経て、僕がウェルビーイングについて思ったことを少し書いてみたいと思います。

まず、ウェルビーイングという言葉。ここ数年でだいぶ浸透してきたように思います。今一度、ウェルビーイングという言葉の定義を軽くおさらいしておきたいと思います。

ウェルビーイングという言葉が初めて登場したのは、1946年に設立されたWHO(世界保健機関)の憲章で、「健康の定義」として用いられたそうです。直訳すれば「良好な状態」で、これは身体的にはもちろん、精神的、社会的に良好な状態ということです。上記にある前野先生の本では、「健康」「幸せ」「福祉」を包括する概念としていますが、この社長日記では、とりわけ「幸せ」にフォーカスしてみたいと思います。

この言葉のおかげで、僕が楽に説明できるようになったことがあります。それは「カヤックは、なぜ鎌倉本社にしたのですか?」という昔から聞かれ続けている質問に対してです。

「鎌倉に住みたいから」とか「鎌倉が好きだから」というのが正直な答えでしたが、それでは足りないので「海と山があって文化的施設があり、東京からも近くて快適で・・・」とかなんとか説明しつつ、さらに企業としては、そこにいることでどう生産性が上がるのかとか、採用メリットがあるのか、などなど、理由をこねくり回すケースも多かったのですが、それが最近では「その方が働くみんなのウェルビーイングが高まるからです」と一言で説明できるようになりました。

この言葉は、「鎌倉が好きだから」というようなもともとの説明を直感的にすべて含んでいることもあるのですが、一方で、ESG投資やSDGsに企業がコミットする重要性がますます増す中で、社員のウェルビーイングを高めていくことは、企業の経営をする上でもより重要だということが多くの人に認められるようになったからです。

やはり言葉は世界を変えていくのだなと、つくづく思います。

そんなわけで説明もしやすくなりましたし、ウェルビーイングについて、もっと自分自身の考察を深めていかなければならないなという思いが無意識のうちにあったからでしょうか、気づいたら、上記の御三方とのご縁を鎌倉に手繰り寄せていました。

「幸せ」になるために必要なのは、才能ではなく技術

御三方と話して、より理解を深められたことがあります。

それは、ウェルビーイングという言葉が世間に浸透したことでもたらされる、この領域そのものが今後、産業として持つ可能性の大きさについてです。そして、その生態系を確立するために、これまで抽象的・定性的な言葉で語られがちだった「ウェルビーイングな状態」を、科学的に解明し、技術で向上させられるということです。

ちょっとうまく伝えられているかわからないので、ここでは一旦、ウェルビーイングを、狭義の「幸せ」という言葉に置き換えてみます。「幸せは技術で向上させられます」というとどうでしょうか。

これは結構、おやっ? と思いませんか。誰もが幸せになりたいと思って生きています。幸せになる技術があると聞いたら、なんだか学んでみたくありませんか。

実際に、幸福学は、統計学でもあるそうです。さまざまな実験とデータから、どういう人が幸せになりやすいかといったことを抽出していく。そこに法則性が見出されるなら、その法則に沿って行動すれば、幸せになる確率が高い。そのように考えることができる。

たしかにその通りだなと、僕も話していて思いました。というのも、似たような感覚が僕にもひとつあります。それはブレストにまつわるエピソードです。カヤックではブレインストーミング(ブレスト)を社内文化を作るための最重要の方法と位置付けてますが、これ自体は、脳のトレーニングです。言い換えれば、考え方をポジティブにするためのトレーニングだと思っています。ポジティブとかネガティブというのは、その人のもともと持っている性質で、一見変えられないように思いますが、ブレストを重ねることで、ポジティブ思考はある程度まで身に付けられる。これはまさに技術です。

このような体感があるので、「幸せ」になることも、技術としてしっかり取り組めばたしかに実現できるはずという腹落ち感がありました。

また、ウェルビーイング研究への理解が深まるほど、ブレストそのものが、ウェルビーイングな状態になるためのひとつの方法だなという確信も持つようになりました。(他にもさまざまなアプローチがありますが、ここではひとつひとつの技術は割愛します)

幸せは技術で獲得できる。これは人類にとってとても明るい話だなと思います。

突出して幸せを感じる人の2種類のタイプ

僕が次に面白いなと思ったのは、このような研究結果です。

突出して幸せだと感じている人には2種類の人がいることがデータ解析を通じてわかった。ひとつは、本人が幸せだと感じていて、その周囲の人たちもみんな幸せ度が高いタイプ。一方で、その人だけ幸せを感じているけど、周囲の人たちはどうも幸せではないというタイプ。

カヤックは前者の人だけの組織にしたいなぁ・・。と、まずこの時点で、なるほどなぁ・・と思ったのですが、そんな話をディスカッションでしていたところ。「実は、後者のタイプも、自分が幸せだと言っているだけで本当は幸せではないのでは・・・」という意見も出ました。

これを聞いて、またたしかにと納得しました。というのも、幸福学における研究データというのは、現状では、自己申告式のアンケートによるものがメインだそうです。つまり、さまざまな状況に置かれた人に、自己申告で幸福度を答えてもらい、状況や事象との相関関係を検証していくことが基本になっています。

幸せというのは主観ですから、周囲の人が幸せでも不幸でも関係ないのかもしれません。でも、周囲が幸せな方が、その人自身も幸せになりやすいのではないか。願望も含めて、そう思います。

そのように考えると、データの取得方法として、自己申告だけではなく、他者から見て幸せかどうかという項目があってもいいのではないかと、個人的には思いました。

幸せかどうか、他人に判断されたくないという思いはありますが、一方で、自分のことは意外と自分にはよくわからない。周囲の方がよっぽどよく見えているということは、ここまで生きてきてたくさんあったとつくづく思います。その人が幸せそうか、辛そうかというのは本人以上に、周囲の方がわかることもある。

そのようなデータの取り方をしたら、ひょっとしたら、幸せな人に囲まれている人の方が、周囲から見て幸せに見えるということにならないでしょうか。だとしたら、自分のことだけでなく、周囲を幸せにすることこそが幸せになる技術ということになるはずです。

人は歳を取れば取るほど、幸せ度が増す

そして最後にもうひとつ、幸福学の研究の話で、明るい研究結果を紹介します。それは、人は歳を取れば取るほど、幸せ度が増すということです。

人は成人になると、50歳まで緩やかに幸せ度が下がっていきます。きっと、それは大人になるとうまくいかないことやさまざまな困難に直面するからでしょうか。ところが50歳を過ぎていくと、今度は徐々に幸せ度が上がり、80歳の頃には無敵状態になるんだそうです。まあ、歳をとって、だんだんどうでも良くなってくるということなのかもしれませんが。

これは非常に良い話です。日本はこれから世界に先駆けて高齢化がどんどん加速していきます。その時、これは良い話のひとつに聞こえます。全体として、やたら幸せ度の高い国になる可能性がある。ですが、年齢以外の幸せの因子ももちろんある。例えば人のつながり。これは明確に幸せとの相関関係があります。このコロナ禍で孤独になる高齢者が増えれば増えるほど、そちらのマイナスの影響の方が大きい。それはなんらかの手を打たなければいけない。

ウェルビーイングな状態であることをサイエンスにして、こうしたことにしっかり取り組むことで、来たるべき超高齢化社会を逆手にとっていければと思うのです。

最後に面白いと思ったのは、さまざまな地域で、ウェルビーイングな状態を定量化・可視化する取組が始まっていることです。なるほど、産業化するにも、政策に反映するにしても、きちんと数値化する必要がある。さらに、多くの人が地域にウェルビーイングの可能性を見出そうとしているのだと思います。

僕らが地域資本主義を掲げ、「まちのコイン」という地域コミュニティ通貨事業に取り組んでいるのも、これまでのお金では測れなかった地域の魅力や幸せ度を計測し、価値のやりとりを通じて、もっと人の幸せを増やせたらいいと思ったからです。だから、ウェルビーイングは産業になると僕自身も信じていますし、むしろ日本にとっての強みになる。そこに繋がっていくだろうと思っているからです。

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