2022.01.28
#面白法人カヤック社長日記 No.99最近読んだ面白い本を通じて、カヤック「まちの保育園」のすばらしさを再認識した話。
今回は、先月出たとても良い本の紹介と、それにまつわる閑話を少々。
「わかりあえない」を越える
この本、昨年12月に発売されましたが、とても良書です。NVC(ノンバイオレンスコミュニケーション)について書かれた本なのですが、自信をもってご一読をお勧めします。
どんな内容か簡単に説明すると、たとえばどうしようもなく感情的に許せなかったり、嫌いだったり、拒絶してしまう相手、つまり「わかりあえない」と思えるような相手に対して、どのようなコミュニケーションの方法をとると、その状況が改善されるかという話が書かれています。
中でも、相手を責める気はないのに、話せば話すほどお互いに自分が責めらているように感じて感情が悪化してしまうような関係において、どういうコミュニケーションならそうならないのか、そしてお互いにそのスタイルでコミュニケーションをとった時、どんな世界がもたらされるか、事例を混じえて丁寧に解説しています。
あまり詳しく書いてしまうとネタバレになるのですが、端的にいうと、いがみ合っている二人がコミュニケーションをとる時に、相手の言葉ではなく、自分自身のうちなる感情と思い(ニーズ)にフォーカスすることで、よりよい方向にむかうという話なのですが、これだけを聞くと、そのような対話にまつわる本は世の中にも、たくさん出ているので、読みたくならなそうです。
「心の根底を見る」
たとえば最近ビジネスの世界でも、アンガーマネジメントというキーワードがあります。アンガーマネジメントは、僕が仕事を始めた24年前はほとんど聞いたことのなかったキーワードですが、今ではビジネスマンなら聞いたことがあるのではないかと思いますし、部下のマネジメントをする上で、このあたりの知識があるかないかでは、力量に雲泥の差が出るような気がします。
アンガーマネジメントでは、相手を責めたり怒ってしまう時、自分の根底にはどういう思いがあるのか、それを見つめることが効果的です。見つめていくとわかるのですが、だいたいは、その根底には、何かに対する不安や恐怖があったりする。ただそのことを見つめるだけで、だいぶ怒らなくて済むようになる。
また逆に怒られている方は、なぜこの人が怒っているのか、相手の心の根底を見つめてあげれば、必要以上に萎縮せずに済むことになる。たとえば事業部長が怒っている時なんてのは、売上利益が達成しないことが怖くて怒っていることがほとんどですから、意外と単純なものです。
ここで出てきたキーワード「心の根底を見る」ということ。もう少し補足します。たとえば会社に入ってきた社員が自慢話ばかりしたり、話が異常に長かったりしたとします。その時、表面上だけで見たら相手に辟易してしまうかもしれません。でも、その人の心の根底を見たらどうでしょうか。相手は入社したばかりで不安で、自分を認められたくて必死なのかもしれません。そうであればその行動も理解できる、まぁ仕方がないかなと思える。本人にとっても周囲の人間にとっても、心の根底をお互いに理解するということは、人間関係を円滑にするひとつの方法です。
と話が少し脱線しましたが、この本では、怒りや焦りという表面上の振る舞いだけでなく、その根底にある感情やニーズの重要さを解くことはもちろん、その上でどのようなコミュニケーションをとれば、お互いの本質によりフォーカスし、わかりあえる関係性になっていくかということが書かれています。
中には目から鱗のエピソードもあります。そのひとつが、謝罪(ごめんなさい)というものが、そもそも相手に対して暴力的なコミュニケーションであるということです。これは妙な納得感があります。(その理由は本を読んでご確認ください)
そして何より、非常に納得感があったのは、相手の根底にある感情を見抜くという力は、ある種の翻訳脳のようなものなんだなということです。
表面上は怒っていても、実は心の根底ではこういうことを思っているんだなと解釈すること、これは翻訳とも捉えることができる。
であれば、できるだけ若くして身につけた方がいい。この本には、小さい頃からその技術を教えている学校の事例もありますが、考えてみれば、英語を学ぶにしても、年取ってから身につけるよりも若い時の方が習得が早い。であれば、この手のコミュニケーション能力も若くして学んだ方がいいんだろうな・・・というのが最大の気づきでした。
カヤック「まちの保育園」でのエピソード
・・・・と、そんなことを思っていたところ。カヤックの運営する鎌倉「まちの保育園」について社員からこんなエピソードを聞きました。自分の娘を保育園に預けている母親社員からのエピソードです。
その母親である社員は、ついつい娘をきつく叱ってしまうことがあるらしいのですが、ある時、娘が泣きながらこんな発言をしたそうです。
「ママが私をきつく叱るのは、ママの根底に自分への心配とか不安があるからだよね。そして私に幸せになってもらいたいという思いだよね。それは感謝している。でもね。その言い方だと、弟と比べてどうしても私ばかりきつくいわれているようで悲しいの」と。
おおおお!! これを保育園児がいうのか。
母親も感動して聞いたところ、なんとそういうコミュニケーションの方法を保育園で学んでいるそうなのです。
これは、とてもすごいことですし、まさにこの本に書かれているコミュニケーションそのものです。本の中にも、子供同士がお互いの根底にある感情を吐露し、子供だけで解決していくシーンがあるのですが、まさにその実践だなと。カヤックが運営する「まちの保育園」は素晴らしい思想なのだなと、手前味噌ながら改めて思いました。
「まちの保育園」担当者に聞いてみた
そこまでのことをやっているとは僕も知らなかったので、保育園事業の責任者であるカヤック社員に聞いてみました。
―――
保育園で子どもたちが過ごす時間は、長い子だと11時間。その間、親から離れて、家庭とは違う小さな社会で過ごします。
その中で、さまざまな体験を積み重ねて成長していきますので、ただ衣食住を滞りなくできれば良いというものではなく、年齢や環境、一人ひとりの発達過程を踏まえて、家庭と保育園での生活の連続性に配慮して保育します。
目の前の子どもと向き合い、どうしたら今を生き生きと過ごし、生涯にわたる生きるチカラの基礎が培われる環境をつくれるか、毎日情報を共有し、保育者が自信を持って良いと思えるものをアップデートしています。
保育園では、3歳児の頃から、毎日やること(お散歩の行き先)を子どもたちが話し合って決めています。そんなことできるの! とビックリされることもあります。もちろんはじめは大人の想像するような会話のキャッチボールにはなりません。
でも日々の生活の中で、自分の言い分をじっくり受け止めてもらえる心地良さを味わううちに、自分の気持ちを相手に(言い放つのではなく)伝えたいという思考が芽生えます。相手への信頼が土台となるからこそ、応答的なやり取りが少しずつ始まります。
たとえば、ケンカのある時点だけをみて、泣いてる子(A)と怒っている子(B)がいるならば、怒っている子に原因があると想像しがちですが、そのケンカになるまでの経過を観察していたならば、しつこくちょっかいを出していたのはAであって、やめるよう伝えていたBが耐えきれずに大きな声で叱責したら、Aがビックリして泣いたというケースはよくあります。
そのため、私たちは先入観で誘導するように行動の原因を探るのではなく、事実を集め、AとBそれぞれがどういう気持だったのか、どうすればいいのかなどをじっくり受け止め、その先の見通しを伝えたり、ともに考えたりします。その場で解決しないかもしれません。しかし、保育者は次回もあなたの気持ちを聞きたいということを伝えると、子どもたちは徐々に応えてくれるのです。
こういうことを繰り返すことで、友だちと思いが通じたときの喜び、通じないときの悔しさ、自分はなぜそうしたいと思うのかなどが、ジェスチャーから言語化へと発達していく中で子どもたちが身につけていったのだと思います。
言い換えるとメタ認知(自分が見えている世界をさらに客観的に認知すること)を高めていると言えます。克服したいこと、チャレンジしたいことなどはどうすれば乗り越えられるかと新しい思考が生まれます。ビジネスでも人材育成などで活用されていますよね。
そうはいっても5歳児で、意見が分かれて決まらないまま時間が過ぎてしまい、行き先に到着してもほとんど遊ぶ時間がなく、すぐ帰らざるをえない…なんてこともあります(笑)。
大人が遊ばせたいから子どもたちが話し合うのではなく、子どもがしたいことを大人がいかに見守っていられるかが大切だと思うのです(困った時に一緒に考えていくことも同様です)。
大人が先回りして用意しなくても、子どもたちが生活の中で自分の成長と発達の機会を自分のペースで獲得していくことができる。この繰り返しで、友だちと思いが通じた時の喜び、通じない時の悔しさ、相手を慮りながら伝える力を、ジェスチャーから言語を習得していく中で、子どもたちが身につけていくのだと思います。そういう環境づくりが保育であり、私たちの役目なのかなと感じ、子どもたちに教えられる毎日です。
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なんだか、最後は「まちの保育園」の宣伝になってしまいました。最近は、お子さんが小学校などに上がる前に鎌倉に引っ越したいという転職者も増えています。鎌倉に住んでカヤックで働きたいみなさん、ぜひどうぞ。
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