地域の指標は 「便利さ」から「面白さ」になる という話。 | 面白法人カヤック

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2019.07.12

#面白法人カヤック社長日記 No.58
地域の指標は 「便利さ」から「面白さ」になる という話。

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今回の社長日記は、カヤックのトークイベントにご登壇くださった「進め!電波少年」Tプロデューサーこと土屋敏男さん、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」』などの著書で知られる山口周さんとのセッションレポートです。

東京から鎌倉、葉山に移り住んだおふたりに「地域とクリエイティビティ」をテーマに伺ったお話を紹介いたします。どうぞ、お楽しみください。

(*この鼎談は2018年11月に行われた「小カヤック展」のトークイベントを記事化したものです)

鎌倉・逗子・葉山にクリエイターが多い理由とは?

柳澤
:鎌倉・逗子・葉山にはクリエイターが多いですよね。なんでだと思います?

土屋
:やっぱり自然じゃないかな。夕日とか波とか、絶対に自分が生み出せないものがすぐそこにあると感じます。鎌倉から葉山にかけて。

山口
:「東京は情報量がすごい」と言うけど、僕はあれウソだと思っているんです。葉山や鎌倉に比べて情報量が少ないんですよ。数値に置き換えられるのっぺりした情報ばかり。養老孟司さんも鎌倉にお住まいですけど「情報とは完全に停止したものだ」といっている。変化するものが自然で、変化しないのが情報だと。で、東京って何でできてるかっていうと、多くのものが情報でできているんですよね。

柳澤
:人工的なものなんですね。

山口
:僕は東京から葉山に引っ越してきたんですが、自宅の前の海に夕日が沈むのが見えるんです。僕は夕日マニアなんですけど、本当に一期一会なんですよ、夕日って。今日見ている雲の形も輝き方も、二度とやってこない。ターナーの絵画が一秒一刻ごとに姿を変えていく感じ。地域というのは、それを楽しめる人にとっては、すごく情報量が多い場所だと思います。いいアートもクリエイティブも音楽も、情報量が非常に多い。説明しようと思えばできるんだけど、情報に置き換えることで、こぼれ落ちてしまう。

土屋
:このあたりにクリエイターが多い理由について、自分なりの仮説があるんですけど。不真面目な人が多いんじゃないかな(笑)。真面目な人は、そもそも通勤時間1時間30分っていやがるんじゃないかと。横須賀線もしょっちゅう遅れるから、遅刻してしまう。僕は遅延すると「よし、今日は休みにしよう」と思って行かないんですけど。

山口
:僕の親父は実家が鎌倉なんですが、僕が都内から葉山に引っ越す前に相談したら、大反対されたんです。親父は鎌倉に住んで大手町の会社に勤めていたんで、「横須賀線っていうのはすぐ止まるんだ」「終電早いぞ」と聞かされて。でも、それって世の中のモノサシでしょう。僕は、はいはいって聞き流して引っ越して、すげえ良かったなって思っているんですけど。

ある種、世の中のモノサシに沿わないというか、わかりやすくいうとワガママな、世間様の感覚とは違うけれども自分なりに譲れないものがあるというのは、ものづくりをする人には向いているんじゃないかっていう気もする。世の中が「こっちだ」っていうのに対して、敢えて逆張りするとか。いかに自分の時間を年収に換えるかというモノサシが大事だったら、鎌倉・葉山から都内への遠距離通勤は選ばないんじゃないでしょうか。でも、敢えてここに住みたいっていう人たちがいて、クリエイティブな人が持っている特性が自然に集まっている気がするんですよね。

柳澤
:逆に、こっちに住んだらクリエイティブになるとかあるんですかね。引っ越して、創作欲って増しました?

土屋
:オンとオフが割とはっきりできるっていうのはありますよね。東京にいると、やっぱりずっとオンな感じがするけど、横須賀線に乗って帰ってくる時、大船から北鎌倉の間で切り替わるというか、スイッチが切れて自由になる感じがある。

山口
:リラックスした方がひらめきが出るっていうのは、脳科学的にそうらしいですね。アルキメデスが風呂入っててひらめいたり、ニュートンも木の下でぼんやりしてたらリンゴが落ちてきて万有引力の法則を発見したりとか。みんな机の上では気がついていないんですよね。風呂入ったり、木の下でぼんやりしているときに大発見しているので、やっぱりリラックスすることが生活の時間の中に一定あるというのは大事なんじゃないかと。

時代の中で突出する「クリエイティブな地域」がある

山口
:歴史を振り返ると、その時代ごとに、局所的に飛び抜けた場所というのがあるんですよ。たとえば15世紀のフィレンツェ。当時のフィレンツェって3km四方ぐらいしかなかった。ちょうど鎌倉の市街中心部ぐらいの大きさですよね。でも100年ぐらいの間に、ミケランジェロとかレオナルド・ダ・ヴィンチとかラファエロとかボッティチェリとかがボコボコ出たわけですよ。世界史に名を残す天才のオンパレード。確率論からいったら明らかにおかしいんです。18世紀のパリ、19世紀前半のニューヨークとかもそう。美術にしても音楽にしても、時代を代表するクリエイティビティが局所的に出てくるエリアというのがある。

柳澤
:それ面白いですね。その観点はなかったです。クリエイティビティに地域が果たす役割があるということですね。

山口
:そうですね。そういうエリアの共通点は、いろいろな分野の人が集まる場所があるっていうことなんですよ。18世紀のパリでは、作家や画家や音楽家が同じ場所に集まって議論していたり、フィレンツェもそうですね。

土屋
:サロンみたいなものがあったり。

山口
:サロンもありますし、イギリスでいうとカフェですよね。鎌倉なんかも、川端康成や小林秀雄はじめ文士が多く住んだり、クリエイティブな人がいて、そういう人たちが好んで通う店や宿ができて、またそういう人たちが集まってきてっていう循環が、もう100年くらいずっと回っている感じがしますよね。これまでは画家とか作家とか、個人で仕事するクリエイターが多かったと思うんですけど、いまはITが進歩して、クリエイティブな組織が集積できる環境が生まれつつある。そうなると、このエリアにいくと面白い人たちがいるというのは、地域にとってすごく大事なインデックス(指標)になってくるだろうと思いますね。

柳澤
:以前「なんで吉本はあんなに面白い人を輩出し続けられるんですか」って聞いたら「大阪がアホを生み出す装置だ」という意見を聞いたことがあります。関西の方にとっては、最大限の愛情というか敬意を込めた表現のようでした。面白い人を生み出す土地柄のようなものがあるのかもしれない。

土屋
:知人のクリエイターと話していたら、ドイツのブルーメンもそういう地域だといっていましたね。面白いやつがボコボコ出てくる。

柳澤
:なるほど。地域ならではのクリエイティビティの生まれやすさってあるんですかね。

土屋
:ただ偏屈だっていうのはありますよね。クリエイターって。

柳澤
:なんの話ですか?(笑)

土屋
:協調性がなかったり、人見知りが激しかったり。

柳澤
:まあ、うちの社員も、目を合わせない人が多いですけどね。

土屋
:テレビのオーディションでは、目をまっすぐ見ない奴が面白かったりするんです。

山口
:僕は昔、電通にいましたが、上場前は本当に変な人が多かったですね。打合せにこないから携帯に電話すると「いま動物園にいます」とかね。

土屋
:そういう人を飼っていられる会社の強さってありますよね。僕もどっちかっていうと飼われている方なんですけど。

山口
:普段何をやっているのかわからないけど、100回に1回くらい大ホームラン打ってね。

土屋
:「ああいうのが一人ぐらいいた方がいいよね」と思われている。

山口
:待てるっていうのもすごいことだと思う。やっぱりクリエイティブって予定調和しないじゃないですか。世の中の変化と自分の変化がシンクロしないと、刺さるものはできないから。だから、当たるまで待てるっていうのも大事なんだけど、待てないというのが問題だと思っていて。王貞治さんって伝説的な天才バッターですが、プロになって3年目までの平均打率って2割切っているんですよ。でも当時の水原監督が使い続けたんですよね。

柳澤
:え、ずっとレギュラーで?

山口
:そう。で、4年目に一本足打法で大ブレイクするんです。今だったらあり得ないと思うんですね。そんなに待てない。でもクリエイティブって、当たるも当たらないも時代の空気みたいな要素もあるから、待てるかどうか、ある種の包容力や寛容さを持てるかというのはある気がする。

柳澤
:よくよく考えたら、うちも入社したばかりの頃には全然駄目だっていわれていたクリエイターが、あるとき急にヒットを連発することがありますね。地域の話に結びつけると、時間の流れ方が比較的ゆったりしているのがよく作用するというのはあるんですかね。江ノ電なんかも12分に一本だし、なんていうか、のんびりしてますもんね。

「通勤時間一時間以内」ではないモノサシで住む場所を選ぶ

山口
:ここに住んでいる人って、かなり意識的に「俺はここに住む」って住む場所を選んでいる気がする。これまでは会社から一時間以内っていうコンパスで円を描いて、その中から選ぶのが基本だったじゃないですか。人生って、どこに住むとか、どういう仕事するとか、どんな会社で働くとか、何を着るとか、選択の連続なんだけど、世の中の流れで受動的に決めている人も多い。でも、ここに住んでる人って、自分でちゃんと選ぶっていうことをやっている人が多い気がするんです。電通の元同期とかが「俺も葉山に住みたいよ」っていうんですね。「じゃあ住めば」っていうんだけど「通勤に時間がかかるから無理だ」と。じゃあ会社をこっちに寄せればいいと思うんですよ。

土屋
:「会社を寄せる」って結構本質的なところだと思いますね。サテライトオフィスにするということも含めて。これからはデジタルでできることがもっと増えていくでしょうし。

山口
:最近、三島に住む人が増えているらしいんです。大手町に勤務している人とかが新幹線で通勤する。ゴールドマンサックスとかでも熱海に住む人が増えているらしくて。土屋さんがおっしゃる通り、普段の仕事がデジタルでできるようになると、週に1~2日東京に行けばいいということになるから、どこに住むかという基準が根本的に変わっていく。

土屋
意識的に選んで住む人が多いせいか、自分のまちが好きだっていう人が多い。それってすごく大きいと思うんですよ。僕らがやっている「まちの映画館」も、近所の人が集まって同じ映画を見て、仲良くなるというもの。地域のコミュニケーションをいかに活性化するか。できればいろいろな世代に亘ったコミュニケーション。そのことで、自分のまちを好きになると思うんです。僕は今まで13箇所くらい引っ越して、鎌倉では初めて一箇所に長く住んでいる。それはなぜかっていうと、地元にいろんな人とのつながりが生まれて、自分のまちだという感覚が出てきたからだと思うんですよね。

山口
:コミュニティですよね、まさに。

柳澤
:今日は、鎌倉・逗子・葉山のことをほめちぎってもらいましたが、住んでいない人からすると単なるおらがまち自慢になってしまうと思うんですけど、単純にほんとにいいところだから、好きな仲間に良さを伝えたいっていうだけなんですけどね。いろんなことをいいましたが、単純にそれだけ。そして、それは鎌倉や葉山じゃなくても、おらがまち最高っていう人が増えれば増えるほど幸せな世界になるんじゃないかなと。それが伝わっているといいなと思います。

今日は、本当にありがとうございました。

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