2017.08.11
#面白法人カヤック社長日記 No.30組織の成長とともに変わる 社長の人材の口説き方
先日、創業間もない小さな会社の社長が、とある人材を採用しようとする場面で、こう口説いていました。
「自分の食い扶持(ぶち)さえ稼いでくれれば、自由にやってくれていいですから」と。
この口説き方を聞いて、ふと思い出しました。僕も昔、そういう口説き方をしていたことがありましたが、最近では、いまひとつしっくりこなくなったなと。
もう少し、細やかに解説してみたいと思います。
「自分の食い扶持は自分で稼ぎます」という人は、相手に損をさせないぞという覚悟のある人ですから、実力がある人というケースが多い。ですから、そういう人はなんとしてでも採用したい。
ただ、それだけ実力がある人は、現在の環境で自由を謳歌していることが往々にしてあり、また報酬面においても高水準であったりします。そんな人を、つくったばかりの小さい会社に口説くのは、勇気のいることです。その報酬が払えるかどうか、心配する気持ちもどこかであります。だからこそ「自分で自分の食い扶持ぐらいは稼いでほしい、そのかわり自由にどうぞ」、そんな口説き方になったりするのです。
ところが会社がどんどん会社らしくなってくると、経営者のこうした人材観も徐々に変わってきます。
「実力がある人ほど自由を謳歌している」という上記の文面の中における「自由さ」とは、勤務時間に縛られないなどのいわゆる表面的なルールのことです。どのような組織においても、実力のある人は、そういったものからは不思議と解放されていくものです。
しかし、そういう実力のある人間は、周囲が放っておきません。自然とリーダーに押し上げられていく。そして立場が上になると、おのずと責任が増します。結果として、ある種の不自由さが逆に生まれてしまうのが面白いところです。
「自由にやってください」とこちらから積極的に口説きたくなるような人材は、本来会社のリーダーになってもらいたい人が多いので、「自由にやってください」というよりはむしろ「会社で働くという、ある意味において、面倒で不自由なルールを受け入れてください。そして、それを率いるリーダーになってください」とオファーする方が、意外としっくりくるのではないか。
さらに言うなら、実力のある人ほど案外と自分を律することができるので、ことさらに自由を主張することも少ないように思います。
自分自身の、この人材観の変化は一体何なのか。
ひとつは、単純に僕が年を取って、自由というものへの興味が相対的に薄れたということなのかもしれません。自由への渇望は、若さの証明ともいえるからです。年を取ると、ルールがある方がむしろ楽になる。気をつけなければいけない老化現象です。
あるいは、ただ会社が成長したということなのかもしれません。「自分の食い扶持を自分で稼いでください」という考え方は、自分自身も含めて、働く人として持っておくに越したことはない覚悟です。しかし、カヤックという会社が成長したことによって、人が増えるということが、足し算から掛け算の論理になってきた面があり、実力のある人材に対して「自分の食い扶持を稼いでね」と言う必要もなく、比較的安定した条件を出せるようになった。つまり会社のフェーズが変わって、自分ひとりの食い扶持を考えるよりも、組織全体がどう伸びるかを考えてもらった方がよい段階にやってきたということなのかもしれません。
さらに言うなら、明らかに何かが欠落しているけども、ある部分で突出した才能がある。今も昔も、僕はこういう人が大好きです。そしてそういう人は、一人ではパフォーマンスがなかなか出ませんが、周囲の仲間と助け合うことによって、すごいことを達成できる可能性があります。会社が大きくなり仲間が増え、そういう人をたくさん受け入れることが可能になりました。だからこそ今、僕は、会社を大きく成長させることが面白いと感じるのだろうと思います。
であれば、実力のある人には、その面白さを存分に味わってもらいたい。
表面的な自由を手に入れたい人で、実力がある人なら、いつでもフリーランスになれる時代です。わざわざ組織に身を置くからには、組織づくりそのものの面白さを感じてもらいたい。そんな思いが改めて強くなったということなんだろうなと思います。
冒頭の社長の口説き方を見て、そんな自分自身への気づきがあったというお話です。
今回は以上です。
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