2014.12.18
#クリエイターズインタビュー No.33なぜSHARPはしゃべるスマホをカヤックとつくったのか?
新しいシャープのスマートフォンAQUOSには、「エモパー(エモーショナルパートナーの略)」というユーザーにしゃべりかけてくる機能が搭載されています。この世界観としゃべるセリフの制作をカヤックがお手伝いしました。カヤックとしても、プロダクト自体の開発に関わったのはめずらしい仕事です。
今回は、その開発秘話をカヤックのディレクター坂口淳一、コピーライター長谷川哲士、そして、シャープ株式会社 通信システム事業本部の小林繁さん、奥田計さん、福山康陽さんに聞きました。
きっかけは「koebu」
― エモパーが生まれたきっかけは?
- 小林
- 元々は、シャープ社内で約2年前に立ち上げたプロジェクトが始まりでした。人とスマホとの接し方が、変わるような取り組みを考える挑戦的な企画です。スマホはこんなにも人のそばにあるのに、なぜ道具以上の存在になれないのかと。
- ものすごく長い時間をかけて議論を重ねた結果、ユーザーが何も操作をしなくても、スマホから自発的に情報を伝えたりできないか、という考えが生まれました。これがエモパーの根幹にもなっています。
- 「AppleさんのSiriといった既存の対話エージェントサービスとエモパーは何が違うのか?」とよく聞かれますが、ユーザーではなく、スマホのほうからしゃべりがスタートするという点が大きく異なります。実際使ってみると全く違う感覚を持ちますよ。
― そこから、なぜカヤックに依頼を?
- 小林
- はい、社内的にも賛否両論でしたので、賛成を得るためにコンセプトムービーをつくったりもしていました。YouTubeに上がっている「エモパーのあるスマホライフ」の動画は、実は社内プレゼン用につくったものが基になっているんですよ。その後、エモパーのセリフを自分たちでつくり始めたりして苦労している時に、偶然「koebu」のサイトを見つけたんです。
- そこで、カヤックさんのサイトの問い合わせフォームから連絡させていただいたら、坂口さんが即お返事をくれたので、広島から福山くんと一緒にすぐ行くことに。それが最初ですね。
- 坂口
- 広島から!?と聞いてこちらも驚くような展開でしたよね。6月頃でしたけど。
- 小林
- あの時は、「エモパー」という名前と「スマホがひとりでに」という以外、細かい仕様やセリフはほとんど決まっていなかったですね。
- 打ち合わせで坂口さんから言われた「エモパーはイノベーティブな機能だけど、使うのはイノベーティブな人よりむしろ、普通の人がほとんどですよね」という言葉を今も思い出します。僕らは、イノベーティブだからこそ変わったことを言わせようとしていたので、目から鱗が落ちましたね。
コンセプトムービーを見て泣いた
- 福山
- 毎回、カヤックさんから、僕らの予想を超える提案があるんです。自由につぶやくエモパー「つぶた」は、その代表ですね。3キャラつくることは決まり、シャープの社内ではなんとなく「男性、女性、子供」にしようと話していたんですよ。
- でも、カヤックさんからキャラを提案してもらったときには、男性、女性と来て、3人目がなぜかブタになっていました(笑)。
- 小林
- 僕らはエモパーというアイデア自体は面白いと思っていたのですが、すごく不確実なコンセプトですし、本音を言うとちょっと自信がなかったんです。でも、打ち合わせのたびに笑わせてもらって、これならイケそうだと思えてきました。
- 長谷川さんが「コピーライター人生の中で、エモパーを最高の仕事にしたい」と言ってくれたことも決定打でした。
- 奥田
- ええ。長谷川さんは「エモパーって言葉の響きがいいですよね」、「エモパーで流行語大賞とれないですかね」って最初の打合わせで言ってて。そんなこと考えたこともなかったですから打ち合わせが毎回楽しみでした。
- 小林
- 面白いのに話はロジカルなんですよね。こういう人と機械の関係性を考える時って、つまるところ人自体を見つめ直す作業になるのですが、そういう「人」を理解するためのネタをたくさんいただけたと思います。
- 奥田
- 当初はほぼ具体的なアイデアのない状態で依頼したのに、そんな状況でも積極的に提案してくださってね。
- 坂口
- でも、僕らは最初にムービーを観た瞬間に面白くなると思いましたよ。
「エモパーのある生活 」。元々は社内プレゼン用に制作したもの。
- 小林
- 坂口さん、これ最初に見たとき泣いてましたからね (笑)。
- 坂口
- いや泣きますよ、これは(笑)。
― このムービー、本当にグッと来ますよね。
- 小林
- 「あなたは、スマホに、恋をするかもしれない。」というコピーは、最初のムービーにはなくて、長谷川さんが提案してくれたものなんです。ここまで言い切られたら、もうすべて振り切れますよ。
落ちたスマホに「痛い」と言わせたい
- 奥田
- 息切れしていた僕たちを奮い立たせてくれる力がありましたね。「これはダメだよね」から「まずはやってみようよ」になった。スマホを落とした時にしゃべらせる案も、実は却下案だったんです。
- でも長谷川さんが「絶対面白いですよ」と4回も言うので(笑)、だんだんイケるかもという気に。面白いと感じたことへの自信と粘り強さ、自分たちが忘れていた気持ちを思い出させてくれた気がします。
- 長谷川
- そこで諦めて、あとで他社に「落としたら痛いとしゃべるスマホ」をつくられたら、一生後悔するじゃないですか。あと、ここでしゃべらせることで、どのスマホよりも落としたくないスマホ、大切なスマホになれるかもと思ったんです。
- 奥田
- それを言われたのが撮影前日だったんですが、使うかどうかわからないまま、映像制作会社の方に急遽頼んで、スマホを乱暴に置いた時にしゃべる、という映像を撮ってもらったんです。
- でも彼らもこの機能は喜んで「ぜひ!」と仰ってくれて。そこでも、一丸になってがんばろうという雰囲気ができましたね。
最初につくったセリフをすべて捨てた
― セリフは一度つくったものをゼロから書き直したとか?
- 長谷川
- はい、セリフの方向性が変わりまして。
- 福山
- セリフの方向転換を決めた際には、「それまでにつくって頂いた分は何とか使えるように考えますので、残りのセリフの制作を引き続きお願いします」とお伝えしたのですが、長谷川さんが「すべて新しい方向でつくり直します」と言ってもらえました。
― なぜ方向転換を?
- 長谷川
- 最初に提案したセリフの中に、ユーザーの知らないところで、エモパーの物語が進んでいくというタイプのものがありました。たとえば、「マリモを飼い始めました〜」とか「オクダ先生と虫取りに行ったよ〜」というような。
- ですが、実際にエモパーを使ってみたテストの結果、「セリフの意味がわからなくなる」という声が複数あったんです。既に2,000〜3,000個くらいセリフを書いていたんですが、そういう声が上がっている以上、無視はできないので。
- 小林
- そこは判断に苦しんだ部分です。「スマホがしゃべる」ということを人から見て自然に認識してもらうには、「スマホが言いそうで、ユーザーに役立つ情報」でなければダメだったんです。時間や電池残量など、唐突感のないセリフというか。
- 長谷川
- 当初提案したセリフ案の場合、実際にしゃべると違和感が強くて、内容が頭に入ってこなかったんでしょうね。それがわかった後、時間や電池残量、天気などユーザーに役立つ情報を最初にしゃべるようにしました。
- でもそれだけだと面白くないですし、コピーの力も発揮できないので、クスっとしたり、ツッコみたくなる言葉を、主役ではなく、おまけという気持ちで添えるようにしたんです。
みんな豚のエモパー「つぶた」が好き
- 奥田
- この頃から福山くんは、ほぼ毎日カヤックさんとテレビ会議や電話会議をしてたよね。
- 長谷川
- 福山さんの「僕ができることは長谷川さんの不満を聞くことくらいしかないんですが、何でも僕にぶつけてください」という言葉と、小林さんの「細かい社内調整は、僕がどうにでもするので、面白い言葉をつくってください」という言葉に、これは絶対いいものをつくろうって。
― 感動しますね。
- 坂口
- そういう状況だから、今「エモパー楽しい」とか「つぶた可愛い」なんてTwitterで見かけると嬉しいですもん。
- 小林
- 僕はつぶたがかわいくて好きです。うちの奥さんも、つぶたがしゃべるのを毎回楽しみにしてますよ。
- 長谷川
- 僕も一番力を入れたキャラです。ちなみに、つぶたは、ほぼユーザーにしゃべりかけずに、自分の世界をつき進むエモパーです。振り切ったキャラが1ついると、リリースした後に他のキャラとの違いが出やすいので、未来のエモパーにもつながると思ってそうしました。
― なんで豚にしたんですか?
- 長谷川
- 酢豚が好きだからですね……。
これからも、面白くてシャープなモノをつくる
― 最後に今回の感想を1人ずつどうぞ。
- 小林
- カヤックさんを一言で表すと「面白いけど真剣」だと思いました。面白い提案に全力でぶつかるんですよ。こういうとアレですが、面白法人というちょっとふざけた名前ですし、適当な感じだったらどうしようって思っていましたが、初回で不安は吹き飛びました(笑)。
- 坂口
- 商品の根幹に近づけた案件で不思議な感覚でした。この機能がほしいと言えばすぐにそれが実現できるなんて、すごい現場だなと。僕らのアイデアを形にしていただけて本当に嬉しかったですし、異業種コラボの未来が見えた気がします。
- 福山
- 実を言うと、入社して初めてのプロジェクトがこのエモパーでした。ゼロからイチにする、イノベーティブなプロジェクトだからこそ、カヤックさんも参加してくださったんだと思います。逆に言うと、イノベーティブじゃなきゃノッてもらえない(笑)。カヤックさんのご協力が無ければエモパーは完成できなかったと、しみじみ思いましたね。
- 長谷川
- 途中から、カヤックのメンバーと働いているのと、同じ感覚になっていました。クライアントやお客さんというより仲間というか。シャープさんは、僕にとってのエモーショナルパートナーです(笑)。
- 奥田
- いい忘れましたが、最初に書いていただいたセリフで登場していた「オクダ先生」は、僕のことなんですよね。子どもたちに「パパはスマホのしゃべる言葉の中に出るんだよー」と自慢していましたが、セリフが変わったので、子どもたちに合わす顔がないのが心残りですね(笑)。
― ありがとうございました!
面白さにこだわるクリエイターと、ものづくりにこだわるクリエイター。まるで右脳と左脳を組み合わせたような幸せなコラボが実現しました。今後もエモパー、そして、シャープとカヤックのコラボにご期待ください。
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