
「PROJECT GUZZILLA(プロジェクトガジラ)」は、岡山の建機アタッチメントメーカーであるタグチ工業さんとカヤックが、重機型巨大ロボット開発を行う共同プロジェクト。
今夏、満を持して全長7mもの「SUPER GUZZILLA(スーパーガジラ)」が完成、8月31日まで東京・お台場の「フジテレビお台場夢大陸」会場にて公開されています。
会場では、実際にロボットに搭乗することができ、コックピットではOculus(オキュラス)を利用して、パイロットになった気分で楽しめるコンテンツ「GUZZILLA VR」が体験できます。
今回は、制作に携わったディレクター「泉聡一」、アートディレクター「小原暢」、テクニカルディレクター「原真人」、プロジェクトマネージャー「川名宏和」、タグチ工業開発設計部からSUPER GUZZILLAリーダー「田口博章」さん、部長「森谷創」さん、「岡田康弘」さんの7名に参加いただき、約2年を経て実現した本プロジェクトの裏側を聞きました。
まず、SUPER GUZZILLAについてはこちらをご覧ください。
【提供:エンガジェット】
企業の存在とプロダクトをアピールする手法
― まずはみなさんのご担当をお願いします。
- タグチ工業 田口
- プロジェクトリーダーの田口です。森谷がベース設計、岡田が外装デザインを担当しました。

- カヤック 泉
- 僕は、コンテンツの企画、ディレクションを中心に、音まわりやモーションシートの設定などを担当しました。
- カヤック 原
- コックピットでOculusを使って体験するアプリ「GUZZILLA VR」のリードエンジニアを担当しました。
- カヤック 川名
- 進行管理とプロジェクトマネージャー、そして、VRの全体構成、世界観やキャラクターの設定などを担当しました。
- カヤック 小原
- カヤック担当箇所のアートディレクションを担当しました。コックピットの設計と製作、VRのUIデザイン、3Dモデリングなどです。

※インタビューはカヤック・横浜支社とタグチ工業・岡山本社のskype中継で行われました。
― 最初は代理店さんのご紹介と伺いましたが、本プロジェクトを行うに至った経緯を教えてください。

- 田口
- 「GUZZILLA(ガジラ)」というプロダクトの存在をアピールするCMを2013年春に制作したんですが、その流れで面白いWebコンテンツをつくりたいと代理店さんにご相談したら「面白さならカヤックさんでしょう」と。それが始まりです。
― 第1弾は、昨年発表した「GUZZILLA AR」というゲームアプリですね。
- 泉
- ええ。ショベルカーやクレーンのような建機類って、知ってはいても少し遠い存在というか、自分の生活とどう関係するかが見えにくいですよね。
- そこで近未来が舞台のゲームにして、SF風の世界観やストーリーにすれば、スマホのゲームアプリを遊ぶような若い層にも響くのではないかと考えました。
- また、タグチ工業さんの名刺にARマーカーを印刷してもらい、営業さんが現場で配ったときに「面白いことをやっている会社だな」と印象づけるような施策も行いました。
- 田口
- あとはリクルーティング目的ですね。就活生向けに考えていたPR企画がいつの間にか全国規模になり、お台場でのロボット発表などに拡大していったんです。
走り出した実機の制作
― プロジェクト初期から実機制作の構想はあったそうですが、制作スケジュールはどのように進行しましたか?
- 田口
- 制作自体は決まっていたんですが、7月のお台場公開には多分間に合わないよね…という認識でいたら、3月に社長から突然「出るぞ」と。そこでやっと本腰を入れて図面を描き始めた感じです。
- 泉
- 田口社長の一言が大きかったんですね。

- 田口
- ええ。まず森谷がキャビンを描き、それを基準にロボットアームやタイヤ位置を決め、アーム重量の調整なども行い、岡田が外装のデザインを加えました。
- アーム部分は、もともとは工場で使っている溶接ロボットなので構造や動きは知っていたこともあって、調整はスムーズに行えたと思います。
― とても滑らかな動きで驚きました。
映画のシズル感とワクワク感を追求したコックピット
― コックピットのデザインはどのタイミングで進めたんですか?
- 小原
- 「SUPER GUZZILLA」の実機と並行してですね。映画に出てくるようなデザインをめざしつつ、戦闘機やロボットのコックピットを参考にしました。最も大切にしたのは、シートに座った時のワクワク感です。ボタンやスイッチのギッシリ感などを意識しています。
― あの計器類はどこかで探されたのですか。
- 小原
- 実は全て自作なんです。レーザーカッターで切り出したアクリル板を積層・塗装しています。最初は中古の実物を探していたのですが、自作したほうが思い通りにできると判断しました。

- 泉
- 小原はVRコンテンツ内のコックピットのデザインも担当しているんです。実物とゲーム内の計器盤を同じ人間が制作しているので、完全に再現ができるという…。
- 川名
- しかも、完成もすごく早かったよね。つくり始めたと思ったら、翌日にできたよって。絶対できると信じていましたけど驚きましたね。
- 泉
- 今回、岡山にあるタグチ工業さんのすぐ近くにある工場併設の営業所で合宿させていただけたのが大きかったよね。実機が2分で見に行ける場所だからワクワク感がすごくって。
- 小原
- そうそう。すぐ実機を確認しに行けるからよかったですよ。あの環境こそが全体のクオリティを上げるのに役立ちました。
- 原
- 実物のコックピットとVR内の3Dコックピットを並べて見てもまったく差がないですからね。
- 今回VRはよりリアルな演出ができるUnreal Engine 4(最新の開発者向けゲームエンジン)で制作したので、現実からバーチャルの世界へと、よりスムーズに入っていけるんです。コックピットでOculusをつけると、つける前の現実と同じ世界が広がるという…。
VRコンテンツの新たな武器「Unreal Engine 4」
― 「Guzzilla VR」は爆発寸前の地下施設から制限時間内に脱出するSFの世界観のストーリーだそうですね。今回それを表現するにあたって、Unreal Engine 4を使った理由は何かあったんですか?
- 泉
- 原は今までVRコンテンツ制作にはUnityを使っていたんです。でも今回は映像の質を上げたいのと、あとどうしても使ってみたいとのことで、初期のモックアップが形になりそうなら…と判断して採用を決めたんです。ある種のチャレンジだったので僕も嬉しかったですね。
- 原
- このプロジェクトで初めて利用しましたが、いい結果が出たのでよかったですね。今後、より質の高い作品を制作できるきっかけもできましたから。
- 泉
- ハイエンドなコンシューマーゲームやアーケードゲームで多く採用されて、注目が集まっているゲームエンジンですからね。これからも積極的に採用していきたいと思っています。

モーションシートの動きは人力で
― コックピットのシートもVRコンテンツに合わせて動くそうですが。
- 泉
- VRのストーリーに沿った動作をするよう、モーションシートの微調整を繰り返しました。座れるのは1人なので、夜中に1人でスイッチを押して、自分の体重以上の負荷をかけるために上でぴょんぴょん飛び跳ねて、動作の精度を高めるんです。
- 原
- Oculusをつけて動かしただけでは本当にリアルな動きかどうかはわからないんです。なので、泉の意見を聞きながら、リアルな動きとモーションシートの動きの差を詰めていきました。
ハリウッド映画風のサウンドが手応えを感じさせた
― 制作中に手応えを感じた瞬間ってありました?
- 原
- コンテンツとしてイケると感じたのは意外と初期でしたね。音が入った瞬間にこれは大丈夫だなと。泉が用意してくれたBGMや効果音の質が高くて完成のイメージがパッと見えたんです。
- 映画っぽい雰囲気が出るといいなと思っていたのですが、音の力でうまく実現できた気がします。
コックピットは「男のロマン」
― タグチ工業の皆さんはVRや内部のコックピットの完成品をご覧になっていかがでした?

- 田口
- 「男のロマンができたな!」と思いましたよ。「ええな〜!」という感想しか出てこなかったです。実は森谷も岡田もまだ最終形に乗ってないので知らないんですよ。ずっと乗りたいって言っていますよ。
- 泉
- ちなみに森谷さんや岡田さんに、普段どんな映画やアニメをご覧になっていて、今回は何を参考に設計されたのか伺ってみたいのですが。
- タグチ工業 森谷
- アニメばっかりです。一つあげるならファーストガンダムですね。
- タグチ工業 岡田
- Gガンダムですかね…。
- 泉
- そういえば、初期にいただいた近未来風コックピットのスケッチはどちらが描かれたんですか? すごくかっこよくて、今思えばあの近未来的なデザインもアリだったかもしれないなって。
- 森谷
- 好きなデザインを集めたら自然とそうなってしまったんです。
未来のものづくりの手がかりを見つけたプロジェクト
― 今回のプロジェクトを経ての感想や発見など、何かありましたら。
- 森谷
- 今回の設計をする時に、社長から「今は油圧主体で動いているショベルが近い将来電気の技術もどんどん導入さてれいく。その時に勉強し始めても遅いから、今からでも学んでいこう!!」と言われたんです。少しでも関われたことですし、将来に役立てたいと思います。
- 田口
- 今は「SUPER GUZZILLA」への期待感しかないですね。
- 実際は今回のアルミ製GUZZILLAでは解体できないからやっぱり鉄だなとか、パワーを出すには電気だけじゃなくて油圧もだなとか、今ある技術と新しい要素を融合させていくことが大事かなと思います。
― 新たなものづくりの手がかりが見えてきたと。
- 田口
- こういう普段とは異なる思い切ったプロジェクトをやれば勉強する機会ができます。設計の課題でもありますが、今ない技術を勉強して蓄えればそれが役立つ時が来るはず。
- 新しい時代の流れに取り残されないよう柔軟な対応をしながら、一緒にものづくりをしていく仲間を増やすことにも繋がれば嬉しいですね。
- 原
- すごく貴重な機会をいただけて嬉しかったです。実は、実機に乗っているのにOculusを装着してバーチャルの世界に入るのはどうなのって意見も出るかと考えていたんです。
- でも、初日に乗ったらシンプルにすごいなと思えましたし、この場でしか体験できないVRが完成できたと実感できました。
- 小原
- まだまだデジタルコンテンツに思考が寄りがちなんですが、今回のプロジェクトを通し、デジタルとリアルのコラボレーションの可能性を再認識できたのがよかったです。
その迫力と完成度に圧倒されっぱなしの「PROJECT GUZZILLA」。「ロマンが詰まっている」とタグチ工業さんのお言葉もいただいた「SUPER GUZZILLA」は8月31日までお台場で展示が。未来のロボットへの可能性も詰まったこのプロダクトをぜひ体験しにいってみてください。
PROJECT GUZZILLA
http://www.taguchi.co.jp/project-g/
カヤックでは今回のような異業種とのコラボレーションや、Web・アプリにとどまらない制作物も複数手がけています。
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