2015年に読んで良かった本を紹介します。 | 面白法人カヤック

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2016.01.22

#面白法人カヤック社長日記 No.3
2015年に読んで良かった本を紹介します。

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さて、2016年2本目の社長ブログである今回は、まだ1月ですから昨年のことを振り返ってもいいだろうということで、2015年に読んだ本の中から印象に残ったものを1冊取り上げて書いてみたいと思います。

……と思って、2015年に読んだ本を振り返っていたのですが、2014年に比べて読書量が落ちていました。

なぜなのか考えてみたところ、おそらく2015年は社長ブログを1年お休みしていたからです。

2006年から2014年までの8年間、毎週1度も休まず日経ビジネスオンライン (掲載当初は日経PCオンライン)に連載していました。強制的に何かを書かなければならない状態というのはネタが枯渇しがちなので、必死に本を読む動機が強まります。でも昨年は1年間、何も外に発信しなかったので、知らず知らずに読書量が減っていたようです。

そんなこともあって、自主的に昨年末より1年ぶりにブログを再開しました。今年は頑張っていろんな本を読みたいと思います。

というわけで、前置きが長くなりましたが、2015年に読んだ本の中から、取り上げるのはこの本にします。

『本を愛しすぎた男:本泥棒と古書店探偵と愛書狂』

とある知人のショップに行ったときにたまたま手に取って読んだ本です。2013年に出た本で新しいわけではないのですが、なぜこれを取り上げたかというと、事実は小説よりも奇なりという言葉の通り、常識はずれの生き方をした人の生涯を描いたノンフィクションで、奇妙奇天烈で興味深いということが一点と、その中に描かれている人に対する洞察のヒントが非常に参考になるのです。

マニアックな生き方をしてきた人の本にはなかなか出会う機会がありません。そもそも売れないからかもしれませんが、その人物についてせいぜい1冊しかないことが多い。しかも、その人自身が書いているわけではないので、本人の意思や考えというよりは、その人に注目した人の主観が入ってしまうため、必ずしもピンとこないことがある。とはいえ自伝より第三者が書くからこそ読みやすいというのはありますが。

さらに問題なのは、常識はずれな人物の生き方が書籍となっている場合、犯罪者であることが多いのです。だからこそ作者自身にも、こうして取り上げる方にも、躊躇があるのではないかと思います。

実際、自殺者の報道をすると自殺が増えると言われているように、その人間に注目が集まること自体がいいことじゃないという考え方もあると思います。この本の著書からもその葛藤が見受けられました。僕自身も、単純にここで取り上げるべきか迷いました。なんせこの本も、本を盗み続けた人の話なので。。

ですので、まずは当たり前ですが、この主人公を推奨する意図はまったくなく、あくまでこの本から得たヒントや気づきを伝えるためにこの本を選んだということは補足しておきます。

ちなみに、最後までどちらにするか迷った本は、『鉄屑ロマン』 です。こちらは自伝風なので、割り引いたとしてもこんな日本人がいるのかという爽快感がある面白い本なのでお勧めいたします。

で、本題に戻りますが、

この本では、図書館や古本屋から本をだまして盗み続けた主人公がどういう思考経路を持っているかがわかる象徴的なインタビューシーンがあります。インタビュアーが「なぜ、そんなに本を盗むのか?盗んで悪いと思わないか?」を質問した後の回答が下記です(※1)。

「そうですねぇ、もしぼくが善人なら……。おっと、ぼくは今、刑務所にいるんでした」。彼は自分が善人でないとわかっていながら、その言葉を口にした。「それがビジネスというものです――今のぼくの考えでは。ぼくが店主ならば、五百ドルを失いたくないでしょう。でも店をやるいじょう、そういったことは起こるものです。たとえば酒屋なら月に一度は泥棒に入られるでしょう。ですから、店を始めたいなら対応策を取っておかなければなりません」

この回答を聞いて、インタビュアー兼著者は下記の感想を述べます。

「そういったことは起こる」――ギルキーのせいで「そういったことが起こった」としても、自分とは無関係なのだ。

僕は、このやりとり部分が印象に残りました。

悪いことをするときに自分が悪くないと思ってしまうのは、世の中には自分以外にそういう悪いことをしている人がいる。どうせ自分がやらなくても誰かがやるのだから自分がやっても悪くない。そのような思考になっている。ここにハッとさせられました。

例えば、ウソをつく心理とも一緒です。ウソをついたのについてないと自分を思いこませることができるのは、どうせ自分がウソをつかなくてもそういうことは起きるものだと思っているので、その人にとってはそれが真実だと思えてしまうことがあります。

こういう風に思考している人と出会ったことはありますし、また大なり小なり自分自身にもある思考です。

でも、「そういうことが世の中に起きている」と思う時、気をつけなければいけないのは、その人の周囲ではそれが日常的に起きているとしても、ある人にとっては必ずしもそうではないということもよくある。住んでいる世界が違うということもあれば、見ている世界が違うということもある。

だから、その人はウソをついてないつもりで、どうせ世の中ではそういうことが起きるのだから、といって話していることが、別のある世界においては起きえないことなので、ウソだと発覚してしまうことがあったりする。

さらに、そもそも仮に「そういうことが世の中に起きていた」としても、だからといって、それを自分が起こす必要はないし、自分は起こさないという強い意思を持たない限り、世の中はよくならない。

「世の中ではよく起こることでも自分の考えに沿って自らは起こさない」

僕は、この思考が、美学というものなのではないかと思うのです。

美学とは、何かを「する」ことではなく「しない」こと。世の中のみんながしていても、自分は「しない」と決めることです。

つまり、美学のある人というのは他者との比較をしない人なのかもしれないです。

そもそも突き詰めて考えていくと、そもそも、他者と自分を比較するということ自体がよくないことなのかもしれないと思えてきました。他者と自分を比較するから、あの人がこうしているなら、自分もしてもよいとなる。他者がしていようがなかろうが、自分の中でよくないことだと思うのなら、やってはならない。そう強い気持ちを求めるには、他者と比較しないという生き様が必要です。

そのように考えると極論ですが、この本の主人公のような思考の持ち主は、はたからみるとかなり特殊な人であることは間違いないのです。一方で逆に他者との比較に重きを置きすぎている人とも言い換えられるのかもしれません。

そんな気づきを与えてくれた一冊でした。

以上です。

追伸:だから一人ひとりの個性を大切にする社会にしたいとか、だからサイコロ給は大事だとかっていう結論にもっていこうかとも思いましたが、何か結論があるような話でもないなとあらためて見返して思ったので、ここで終えます。

※1
引用:Allison Hoover Bartlett(2009), The man who loved books too much, Riverhead Books(アリソン・フーヴァー・バートレット、築地誠子(訳)(2013)、「本を愛しすぎた男: 本泥棒と古書店探偵と愛書狂」、原書房、200ページ)

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