史上初のiBeaconを使った美術鑑賞ガイドアプリ制作秘話 | 面白法人カヤック

Client Work

2015.07.22

#クリエイターズインタビュー No.38
史上初のiBeaconを使った美術鑑賞ガイドアプリ制作秘話

Client Work

5月10日まで東京都現代美術館にて開催されていた「ガブリエル・オロスコ展」。

本展覧会では、史上初のiBeacon(※)を用いた観賞用の公式ガイドアプリ「MOTガイド‐ガブリエル・オロスコ展‐」が採用されました。会場内で特定の作品に近づくと解説がされたり、作家本人からメッセージが届いたりする本アプリを、電通との共同企画のもと、カヤックで制作しました。

今回は、クライアントの東京都現代美術館事業推進課の企画係長・加藤弘子さん、学芸員・西川美穂子さん、広報班・中島三保子さん、また、電通から統合データ・ソリューションセンター・大西浩志さん、ビジネス・クリエーション・センター・上原拓真さんにご同席いただき、ディレクター兼康希望とアートディレクター佐藤ねじとともに制作の裏側を聞きました。

※iBeacon …アップル社のiOS 7から搭載された無線でデータ受信(プッシュ通知)ができる近距離通信の最新技術。数十cm~数十mという範囲(精度)で位置を特定できる。オンラインでiBeacon対応アプリを入手した人物が特定の場所に近づくと、通知を送ったり、クーポンを配布したりすることができる。

来場者に発見を与えるプログラムを最新技術でつくる

― 東京都現代美術館(以下 都現美)さんと電通さんは以前から現代美術の普及推進活動を行われているそうですね。今回のアプリもその一貫だったとか?

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大西
はい。現代美術の鑑賞者数拡大や深い知識を得ていただける環境づくりをめざして都現美さんと活動しています。その施策の第一段階としてはガイドアプリが適切だろうと。
そんな折、現代美術作家の中でも展覧会における新しい試みや作品画像の使用に関して、柔軟なガブリエル・オロスコさんの個展が決まるなど、いくつかのタイミングが重なり、今回実現へと至りました。
加藤
音声ガイドを超える、最新技術を用いた来場者向けプログラムをつくれないかと長い間ご相談していたんです。オキュラスリフトなどの技術案もありましたが、まずは幅広い層にとって扱いやすい形態がよいということでアプリになったんです。

― カヤックとは具体的にどう企画を形にされたのでしょう。

上原
初期の段階から一緒に考えましたよね。企画書には、僕が刺激を受けたルーブル美術館のアプリや、作家自ら解説をしていた会田誠展などを例にあげていました。あとは美術館でTwitterに感想を送る人も多いから、そんな観賞体験があってもいいよねと。

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兼康
スマホ用の展覧会ガイドアプリというお題をもとに、音声ガイドといかに異なる表現ができるか、解説資料とは違うガイドとしてどうすれば面白くなるかを考えしました。鑑賞者の声を可視化するTwitterでのシェアやオロスコさんのメッセージはそこで生まれたんです。

― 担当展でアプリ導入を行うことになっていかがでしたか?

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西川
現代美術だと音声ガイドの利用も少ないのですが、作品が理解しづらいとの声も多いんです。そこでギャラリートークや解説資料の配布など、観賞の手助けとなる工夫をしていますが、印刷物は読みづらいという方もいらっしゃいます。
音声ガイドと印刷物の中間として、鑑賞者がiPhoneに自主的にアクセスできる仕組みは、実験の第一歩としていいと思いました。
上原
僕も初めてご感想を伺ったのですが安心しました(笑)。

既存の美術館のあり方から逸脱して考えるコンテンツ

― アプリ制作の上で「作品の世界観を邪魔しない」ために工夫されたことは?

上原
最初は動画中心のコンテンツだったのを、現地で見る時間が長くなるではとのことで動画は減らして、プッシュメッセージや音声ガイドを中心にしたコンテンツに変更しました。
ねじ
通知が来た時だけ見ればいい形ですね。あくまでもガイドとしてiPhone画面を見てもらう実験でしたので、世界観という面で見ると多少の邪魔する部分はあったかと思いますが、ただTwitterや写真アップ、作品ガイドがアプリ内で完結し、すべて片手で扱えるので煩わしさは軽減できたと思います。

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― まさに作品と併せて見るアプリというわけですね。

ねじ
はい。作品の隣にオロスコさんの生霊がいて、作品を見ると「実は…」と解説が来る感じです。作家さんによっては邪魔だと思う方もおられるので毎回調整は必要ですが、今回はわりと好意的に受け止められていた印象があります。
上原
僕にとっては解説資料の内容って難しいと感じるので、iPhoneに来る1行ほどのメッセージなら抵抗なく読めそうだと最初に思ったんですよね。メッセージの手法はねじさんも得意だと知っていたので、好きにやっていただこうと。
ただ美術の門外漢が考えた要素でしたので、評価を伺うまでは戦々恐々としていましたね(笑)。
加藤
今回は新たな試みをするだけに、事実を損なわない範囲ならギリギリまで踏み込もうと考えていたんですが、意外と思ったよりおとなしい仕上がりだなと感じましたよ。おせっかいさも控えめにまとまっていましたし。
上原
そうですよね。だから逆に驚きました、「ダジャレも通るんだ!」って(笑)。

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― メッセージなどの原稿は誰が制作されたのですか?

兼康
西川さんにギャラリートーク用の解説とこぼれ話を提供いただき、それを基に上原さんたちは作品解説、僕らはそれ以外のおまけ要素を作成して最終的にまた西川さんに確認していただきました。
他より少しハミ出た内容にしなければという使命感がありましたね。その効果はまだわかりませんが、ガイドとして一つの挑戦だったとは思います。
加藤
確かに美術館を出た所でもメッセージが届く仕組みって音声ガイドでは絶対できないですからね。

美術館でのテクノロジー活用による可能性

― 作品の世界観に多少踏み込んだアプリでしたが、いかがですか?

西川
従来アンケートやメディアのレビューでしか見られなかった展覧会の反応が、会期中にリアルタイムでわかるようになったのは主催側としてありがたいですね。
ただこうしたアプリは本来の作品鑑賞を阻害する可能性や安全の問題はあると思うので、すべての展示で行うことは難しいかもしれませんが。
加藤
そうですね、今回は空間を広く取った展示だったのでアプリを見ても歩けましたが、細かい作品が多い展示だとiBeaconをどうするかなど、そういった課題もありますが、全体的に仕組みは面白かったと思います。

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― 制作を経て感じられた今後の可能性ややってみたいことは?

上原
美術館におけるセカンドスクリーンの効果を検証したいという意図もあったのですが、今回その可能性を強く感じました。テレビ系のアプリに比べてもアクティブ率や満足度が高かったですね。。
次はiPhoneにさりげなく情報が届くハンズフリーの解説をつくりたいです。現代美術は孤独に鑑賞することが多い気がしますが、横で友達がいろんな情報を話してくれたら安心して楽しめますよね。
その仕組みをデジタルで実現し、美術と鑑賞者の距離を縮めたいと考える美術館の方に活用していただけたらと思います。
ねじ
制作に関わってみて、このアプリは作家本人がつくるのも面白いかもしれないと思うんです。ある形につくり込むより、メニューをオリジナルにできたり自分で解説が加えられたりする汎用性、要望を反映できる拡張性があるほうがいいのかなと。
枠だけつくってあとは自由、というTumblr的な構造が理想だと感じました。
兼康
僕も作家さんとともに鑑賞体験をデザインしてみたいと思いますね。また制作して感じたのは、その分野に詳しい人と作品を見るとすごく面白いということでした。その代替として、今後アプリや最新技術が貢献できればなと。
リアルな場での鑑賞体験がより楽しく、分かりやすくなる方法を探っていきたいですね。
加藤
今まで音声ガイドが使えず紙資料を読まれていた耳が不自由な方も、アプリで文字が読める点がよかったと思います。どんな方でも同じ物で対応できることに大きな可能性を感じました。またユニバーサルな美術館周辺ガイド化や他言語化など、展覧会以外にも拡大できそうな点もよかったですね。
中島
作家さんが介入できるとより面白くなると思います。IT技術に興味のある方も多いですし、アプリを使うことで作品がひと味違って見える仕掛けなどがあれば、お客様からしてもダウンロードする意義が生まれますから。
単なるガイドではなく、皆が展示にもっと介入できるといいですね。こうした取り組みをしている美術館は少ないので、今回参加できてよかったです。
西川
画像の権利の問題で難しい場合もありますが、ガイドアプリは展覧会後も楽しめるアーカイブとしてもいいですね。
この取り組みはぜひ続けたいと思いますが、多様な展覧会に対応するのに機能を固定すると弊害が起きやすい気がするので、カスタマイズできる余白を持つモノにするのが大切かと思います。

― ありがとうございました。

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新しい技術を積極的に取り入れたいと考えられる東京都現代美術館さんの思いに、電通さんの企画力とカヤックの技術力が融合して実現した今回のアプリ。新しい美術館体験の可能性を感じるプロジェクトでした。

「MOTガイド‐ガブリエル・オロスコ展‐」
http://www.mot-art-museum.jp/exhibition/orozcoapplication.html

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